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第16話 豪邸に住む厄介な老婆
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四月十二日月曜日の八時半からの捜査会議で、佐藤洋太が死亡推定時刻近くに、高木邸から徒歩十分の神楽坂駅周辺のカメラに映っていたことが報告された。
くたびれたリスザルの、十四時十分に駅の改札を出て高木邸方面へ向かう姿と、十四時四十五分に駅構内に入っていく姿が、それぞれ印刷されて捜査員に配布された。
「これで決まりですね」
石田が珍しく興奮気味に呟いた。
「まだ重要参考人だ。参考人として引っ張って、自白してくれりゃあ簡単だがな」
佐藤が犯人ならば、侵入と逃走についてどう説明するのだろう。堤はそちらの方が気になっていた。
「でも足取りが途絶えたんですね」
顔認証システムにより、佐藤の写真が、商店街のカメラやコインランドリーのカメラなど次々とヒットし、逃走経路を追えるかに思えたのだが、個人商店のカメラに映ったのを最後に足取りが途絶えてしまったのだ。運悪くカメラが設置されていない場所を通られたらしい。
そこからは通常通り、聞き込み捜査となるが、これは他の班に割り振られた。
堤たちの班は佐藤の立ち回り先を洗うことになった。ガイシャとの関係や懐具合に関する情報を収集するのだ。
「石山はパチンコ屋と飲み屋を中心に頼む。俺と立川は例の人形サークルのメンバーをあたる」
「了解!」
「了解っす」
石田と山田は弾かれたように飛び出していった。
「立川、例のサークルのメンバーで噂話が好きそうなのはどいつだ?」
「確実に、今泉っていうお婆さんですね。ええと――」
立川が記憶を呼び起こしながらメモをめくる。目当ての頁には、大きな石の指輪の落書きがしてある。立川なりの覚え方なのだろう。
「今泉かなえ。七十二歳。夫と五年前に死別し現在一人暮らしです。娘が一人いますが、結婚して福岡に住んでいるそうです。主任、覚悟してくださいよ。このお婆さん、もう捕まえたら離さないっていう感じで、なかなか解放してくれませんから。シロクマだけあって図体もかなりデカいんで」
前回、相当手こずったのだろう。
「ま、最悪はお前を置いていけばいい」
「それはないですよー」
立川は本当に泣きそうな顔をした。
「いいからアポ取れ! アポッ!」
「は、はい」
立川がメモの番号にかけると、すぐに相手が出たようで、あまりの早さに驚いた立川が吃っている。
「あ、や、あの、昨日お伺いした警視庁の立川ですが――」
スマホから漏れ聞こえる嬌声が、堤の足取りを重くした。
(ガキを相手にするのも疲れるが、この手のご老人もしんどいな)
アポを取るだけなのに長々と喋らされ、ようやくスマホを耳から離した立川は、「ふう」と息を吐いた。
「今日は家にいるそうなんで、いつでもいいらしいです。いやあ、お手伝いさんが出ると思ったのに、お婆さん本人が出たので驚きました」
「ご苦労さん」
大したことをしていないのに、つい、堤は労ってしまった。
今泉と書かれた表札は、長年風雨に耐えた貫禄があった。世田谷区の中でも岡本エリアは豪邸が多いところだ。電車の便など考慮したことがない金持ちたちが住んでいる。
今泉の家は敷地を塀で囲ってあり――百坪や二百坪どころではない広さだ――、庭木も成長して葉を茂らせているため道路からは母屋が見えなかった。
「ちなみに今泉さんはサークル発足当時からの初期メンバーで、今でも在籍中とのことです」
「だろうな。人形やそのドレスをいくら買おうが、ちっとも痛まないんだろうよ」
「家の中もすごいですよ」
立川はそう言うと、インターフォンを鳴らした。
「はい、どちら様でしょう?」と言う声に「警視庁の立川です」と答える。
「伺っております。どうぞ」
ウイーンと音を鳴らして鉄の門扉が内側へ開いた。
「今のはお手伝いさんですよ。多分、まだ二十代だと思われます」
立川がニヤつくものだから、その子に会いたいがために今泉を選んだのではないかと邪推してしまう。それを察知したのか、
「あ、違いますよ。お手伝いさんは関係ないです」
と、慌てて言い訳をした。余計に信憑性が増す。
「さ、ささ、行きましょう」
「上司を急かすとは、いい度胸してやがる」
まあ、肩を小突くくらいで勘弁してやる。
塀に設置された防犯カメラを見ていたのか、玄関にたどりつく前にお手伝いさんが扉を開けてくれた。確かに若くて綺麗なハムスターだ。
「いらっしゃいませ。奥様がお待ちです」
メイドのような制服ではなく、普通の普段着にエプロンを着けている。
「あ、私はメイドじゃなくて、家事手伝いの家政婦代行なんです」
堤はそんなに凝視したつもりがないのに、若い女性に思考を読まれて慌てた。立川が勝手に言い訳をした。
「いやあ、こんなお屋敷なので、つい、ドラマとかで見るようなメイドさんが何人もいるのかと思っちゃうんですよ。あははは」
さては昨日の立川に続いて、堤も同じ反応をしてしまったのだろう。
リビングに通され、いかにも高級そうな黒革のソファーに座ると立川が耳打ちしてきた。
「家のこととか家具のことを褒めてしまうと、話が長くなるので注意してくださいね」
なるほど。前回、相当、自慢話を聞かされたのだろう。
くたびれたリスザルの、十四時十分に駅の改札を出て高木邸方面へ向かう姿と、十四時四十五分に駅構内に入っていく姿が、それぞれ印刷されて捜査員に配布された。
「これで決まりですね」
石田が珍しく興奮気味に呟いた。
「まだ重要参考人だ。参考人として引っ張って、自白してくれりゃあ簡単だがな」
佐藤が犯人ならば、侵入と逃走についてどう説明するのだろう。堤はそちらの方が気になっていた。
「でも足取りが途絶えたんですね」
顔認証システムにより、佐藤の写真が、商店街のカメラやコインランドリーのカメラなど次々とヒットし、逃走経路を追えるかに思えたのだが、個人商店のカメラに映ったのを最後に足取りが途絶えてしまったのだ。運悪くカメラが設置されていない場所を通られたらしい。
そこからは通常通り、聞き込み捜査となるが、これは他の班に割り振られた。
堤たちの班は佐藤の立ち回り先を洗うことになった。ガイシャとの関係や懐具合に関する情報を収集するのだ。
「石山はパチンコ屋と飲み屋を中心に頼む。俺と立川は例の人形サークルのメンバーをあたる」
「了解!」
「了解っす」
石田と山田は弾かれたように飛び出していった。
「立川、例のサークルのメンバーで噂話が好きそうなのはどいつだ?」
「確実に、今泉っていうお婆さんですね。ええと――」
立川が記憶を呼び起こしながらメモをめくる。目当ての頁には、大きな石の指輪の落書きがしてある。立川なりの覚え方なのだろう。
「今泉かなえ。七十二歳。夫と五年前に死別し現在一人暮らしです。娘が一人いますが、結婚して福岡に住んでいるそうです。主任、覚悟してくださいよ。このお婆さん、もう捕まえたら離さないっていう感じで、なかなか解放してくれませんから。シロクマだけあって図体もかなりデカいんで」
前回、相当手こずったのだろう。
「ま、最悪はお前を置いていけばいい」
「それはないですよー」
立川は本当に泣きそうな顔をした。
「いいからアポ取れ! アポッ!」
「は、はい」
立川がメモの番号にかけると、すぐに相手が出たようで、あまりの早さに驚いた立川が吃っている。
「あ、や、あの、昨日お伺いした警視庁の立川ですが――」
スマホから漏れ聞こえる嬌声が、堤の足取りを重くした。
(ガキを相手にするのも疲れるが、この手のご老人もしんどいな)
アポを取るだけなのに長々と喋らされ、ようやくスマホを耳から離した立川は、「ふう」と息を吐いた。
「今日は家にいるそうなんで、いつでもいいらしいです。いやあ、お手伝いさんが出ると思ったのに、お婆さん本人が出たので驚きました」
「ご苦労さん」
大したことをしていないのに、つい、堤は労ってしまった。
今泉と書かれた表札は、長年風雨に耐えた貫禄があった。世田谷区の中でも岡本エリアは豪邸が多いところだ。電車の便など考慮したことがない金持ちたちが住んでいる。
今泉の家は敷地を塀で囲ってあり――百坪や二百坪どころではない広さだ――、庭木も成長して葉を茂らせているため道路からは母屋が見えなかった。
「ちなみに今泉さんはサークル発足当時からの初期メンバーで、今でも在籍中とのことです」
「だろうな。人形やそのドレスをいくら買おうが、ちっとも痛まないんだろうよ」
「家の中もすごいですよ」
立川はそう言うと、インターフォンを鳴らした。
「はい、どちら様でしょう?」と言う声に「警視庁の立川です」と答える。
「伺っております。どうぞ」
ウイーンと音を鳴らして鉄の門扉が内側へ開いた。
「今のはお手伝いさんですよ。多分、まだ二十代だと思われます」
立川がニヤつくものだから、その子に会いたいがために今泉を選んだのではないかと邪推してしまう。それを察知したのか、
「あ、違いますよ。お手伝いさんは関係ないです」
と、慌てて言い訳をした。余計に信憑性が増す。
「さ、ささ、行きましょう」
「上司を急かすとは、いい度胸してやがる」
まあ、肩を小突くくらいで勘弁してやる。
塀に設置された防犯カメラを見ていたのか、玄関にたどりつく前にお手伝いさんが扉を開けてくれた。確かに若くて綺麗なハムスターだ。
「いらっしゃいませ。奥様がお待ちです」
メイドのような制服ではなく、普通の普段着にエプロンを着けている。
「あ、私はメイドじゃなくて、家事手伝いの家政婦代行なんです」
堤はそんなに凝視したつもりがないのに、若い女性に思考を読まれて慌てた。立川が勝手に言い訳をした。
「いやあ、こんなお屋敷なので、つい、ドラマとかで見るようなメイドさんが何人もいるのかと思っちゃうんですよ。あははは」
さては昨日の立川に続いて、堤も同じ反応をしてしまったのだろう。
リビングに通され、いかにも高級そうな黒革のソファーに座ると立川が耳打ちしてきた。
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