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第18話 意地悪
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優子が部屋を出ると、かなえは急に笑顔を作り、「さ、召し上がれ」とのたまわった。
仕方なく堤たちが羊羹に手をつけると、かなえは満足げな表情で話を続けた。
「それで、ええと、そうそう。連絡をいただいたんですけど。何でも相当急ぐとかで、電話をもらった三日後には、もう我が家を尋ねていらっしゃったの。お兄様と二人でね。普通はもう少し、先様に配慮して日をあけるものでしょう? ちょっと常識がないとは思いましたけど。まあ短い間とはいえ、お付き合いのあった方ですしね」
またしてもかなえが相槌を要求して堤を見た。立川を気に入ったのではなかったのか。
「明子さんのお兄様というのが、なんて言うんでしょう、こう、ちょっと、今までお目にかかったことがないような方で――」
「ええ、分かります」
立川が真面目な顔で同意した。
「そうでしょう! もう、私、後悔しましたわ。この家にあげるんじゃなかったって。あんな方と、ほんのいっときでも面識を持つなんて! 明子さんを恨みましたわ」
まあ、そうだろう。こんな上流階級の獣人とは、決して交わらないところで生きてきた獣人だ。
「でも、私、ピンときましたのよ。お兄様が三千代さんに会いたい理由が」
立川が前のめりで問う。
「はっきり理由を言ったんですか?」
「まさか! ただ妹が世話になったのでご挨拶をしたいとかなんとか。絶対に嘘だと思いましたけど。まあ、なんて言いますか、三千代さん次第と言いますか――」
かなえが言葉を濁した。
「三千代さんなら面白がって会うかもしれないと、思われたんですか?」
立川の助け舟に乗って、かなえは饒舌になった。
「そうそう、そうなんです。三千代さんは下々の者を踏みつけて面白がるような――あら、私ったら、嫌だわ。おほほほほ。今の言葉は忘れてくださる?」
かなえはそう言って緑茶を飲んだ。右手で持った茶碗の底を左手で添える仕草は、育ちの良さをこれ見よがしにアピールするかのようだ。
立川が先を促す。
「それで三千代さんには何と仰ったんですか?」
「あら別に。そのままですわ。明子さんがお兄様と一緒にお会いしたいそうですよ、って。案の定、三千代さんはお会いするって即答しましたわ。それで、私が間に入って訪問日時を調整してさしあげましたの」
かなえは「えっへん」と言わんばかりにドヤ顔をした。
堤は無視して立川に代わって質問を続けた。
「三千代さんからは何かありましたか? その、兄妹と会った後で」
「いえ別に。その後のことなど、私には関係のないことですから」
「三千代さんは、かなえさん程には、お兄様の風体に驚かれなかったんですかね?」
「さあ――。あの方がどういう方たちとお付き合いしているかなんて知りませんもの。嫌なら追い返せばいいだけのことじゃありませんか」
三千代のことは、思い出しただけで不機嫌になるようだ。
「ちなみに、かなえさんは三千代さんとは、どのくらい親しかったのですか?」
かなえは堤を睨みつけたが、堤が引かないため仕方なく折れた。
「親しいだなんて。たまにサークルで顔を合わせることがあったくらいですわ。あちらは学習院でしょう。私は雙葉ですの」
「はあ――」
堤は何と言っていいのか分からなかった。学習院と雙葉は、早慶みたいなライバル関係にでもあるのか?
「三千代さんは、ご自分の現状から目を背けて、何かにつけ、『子爵だったお祖父様が』とか『宮様が』とか、仰っていましたけど、逆に痛々しくて。みんな話を合わせてあげていたんですのよ」
「なるほど。こちらの今泉家は――」
堤に皆まで言わせず、かなえが憮然とした顔で言い放った。
「主人の曾祖父が開運事業を手広く展開しておりましたの。戦後没落した華族などとは違いますわ」
立川が「あちゃー」という顔をしている。タブーな話題があるなら先に言え。
「とにかく、私が明子さんのお兄様にお会いしたのは、一月に一度だけですし、その後、三千代さんと何があったのかなど、知りません。聞いておりませんから」
この辺りで出て行った方がよさそうだ。
「そうですか。お手間を取らせてすみません。今日はありがとうございました」
堤が立ち上がったので、立川もティーカップをカチャンと置いて立ち上がる。
「いいえ。ろくにお構いもしませんで」
優子を呼ぶかと思ったが、口を開きたくない様子だったので、かなえに会釈だけして二人は部屋を出た。
廊下に出ると優子が控えていた。
「もうお帰りですか?」
「はい、お邪魔いたしました」
「ではこちらへ」
廊下から玄関へ行くだけなのに先導している。ご主人様にそう命じられているのだろうか。
「では、我々は、こちらで失礼します」
「失礼します」
堤たちが玄関を出ると、門扉が開く音が聞こえた。
堤と立川は、今泉邸の前に停めていた車内で、かなえから聞いた話を整理した。
「あの婆さん、三千代に何の情報も与えないまま、あのろくでもない男をわざと会いに行かせたな」
「ですよね。かなえは三千代のことを相当嫌っていたんでしょうね」
「でもま、佐藤洋太が三千代と会ったのは事実だな」
「明子に面会の様子を聞きに行きますか?」
「そうだな。どんな様子かは想像つくがな」
「それにしても、金持ちって、あんなのばっかなんですかね」
確かに――。高木家に今泉家。金持ちなんだろうが、かなえも三千代も、育ちの良さなんて微塵も感じられない。
それとも若い頃はお嬢様然としていたのだろうか。歳を取って醜くなったのなら分からなくもないか。
仕方なく堤たちが羊羹に手をつけると、かなえは満足げな表情で話を続けた。
「それで、ええと、そうそう。連絡をいただいたんですけど。何でも相当急ぐとかで、電話をもらった三日後には、もう我が家を尋ねていらっしゃったの。お兄様と二人でね。普通はもう少し、先様に配慮して日をあけるものでしょう? ちょっと常識がないとは思いましたけど。まあ短い間とはいえ、お付き合いのあった方ですしね」
またしてもかなえが相槌を要求して堤を見た。立川を気に入ったのではなかったのか。
「明子さんのお兄様というのが、なんて言うんでしょう、こう、ちょっと、今までお目にかかったことがないような方で――」
「ええ、分かります」
立川が真面目な顔で同意した。
「そうでしょう! もう、私、後悔しましたわ。この家にあげるんじゃなかったって。あんな方と、ほんのいっときでも面識を持つなんて! 明子さんを恨みましたわ」
まあ、そうだろう。こんな上流階級の獣人とは、決して交わらないところで生きてきた獣人だ。
「でも、私、ピンときましたのよ。お兄様が三千代さんに会いたい理由が」
立川が前のめりで問う。
「はっきり理由を言ったんですか?」
「まさか! ただ妹が世話になったのでご挨拶をしたいとかなんとか。絶対に嘘だと思いましたけど。まあ、なんて言いますか、三千代さん次第と言いますか――」
かなえが言葉を濁した。
「三千代さんなら面白がって会うかもしれないと、思われたんですか?」
立川の助け舟に乗って、かなえは饒舌になった。
「そうそう、そうなんです。三千代さんは下々の者を踏みつけて面白がるような――あら、私ったら、嫌だわ。おほほほほ。今の言葉は忘れてくださる?」
かなえはそう言って緑茶を飲んだ。右手で持った茶碗の底を左手で添える仕草は、育ちの良さをこれ見よがしにアピールするかのようだ。
立川が先を促す。
「それで三千代さんには何と仰ったんですか?」
「あら別に。そのままですわ。明子さんがお兄様と一緒にお会いしたいそうですよ、って。案の定、三千代さんはお会いするって即答しましたわ。それで、私が間に入って訪問日時を調整してさしあげましたの」
かなえは「えっへん」と言わんばかりにドヤ顔をした。
堤は無視して立川に代わって質問を続けた。
「三千代さんからは何かありましたか? その、兄妹と会った後で」
「いえ別に。その後のことなど、私には関係のないことですから」
「三千代さんは、かなえさん程には、お兄様の風体に驚かれなかったんですかね?」
「さあ――。あの方がどういう方たちとお付き合いしているかなんて知りませんもの。嫌なら追い返せばいいだけのことじゃありませんか」
三千代のことは、思い出しただけで不機嫌になるようだ。
「ちなみに、かなえさんは三千代さんとは、どのくらい親しかったのですか?」
かなえは堤を睨みつけたが、堤が引かないため仕方なく折れた。
「親しいだなんて。たまにサークルで顔を合わせることがあったくらいですわ。あちらは学習院でしょう。私は雙葉ですの」
「はあ――」
堤は何と言っていいのか分からなかった。学習院と雙葉は、早慶みたいなライバル関係にでもあるのか?
「三千代さんは、ご自分の現状から目を背けて、何かにつけ、『子爵だったお祖父様が』とか『宮様が』とか、仰っていましたけど、逆に痛々しくて。みんな話を合わせてあげていたんですのよ」
「なるほど。こちらの今泉家は――」
堤に皆まで言わせず、かなえが憮然とした顔で言い放った。
「主人の曾祖父が開運事業を手広く展開しておりましたの。戦後没落した華族などとは違いますわ」
立川が「あちゃー」という顔をしている。タブーな話題があるなら先に言え。
「とにかく、私が明子さんのお兄様にお会いしたのは、一月に一度だけですし、その後、三千代さんと何があったのかなど、知りません。聞いておりませんから」
この辺りで出て行った方がよさそうだ。
「そうですか。お手間を取らせてすみません。今日はありがとうございました」
堤が立ち上がったので、立川もティーカップをカチャンと置いて立ち上がる。
「いいえ。ろくにお構いもしませんで」
優子を呼ぶかと思ったが、口を開きたくない様子だったので、かなえに会釈だけして二人は部屋を出た。
廊下に出ると優子が控えていた。
「もうお帰りですか?」
「はい、お邪魔いたしました」
「ではこちらへ」
廊下から玄関へ行くだけなのに先導している。ご主人様にそう命じられているのだろうか。
「では、我々は、こちらで失礼します」
「失礼します」
堤たちが玄関を出ると、門扉が開く音が聞こえた。
堤と立川は、今泉邸の前に停めていた車内で、かなえから聞いた話を整理した。
「あの婆さん、三千代に何の情報も与えないまま、あのろくでもない男をわざと会いに行かせたな」
「ですよね。かなえは三千代のことを相当嫌っていたんでしょうね」
「でもま、佐藤洋太が三千代と会ったのは事実だな」
「明子に面会の様子を聞きに行きますか?」
「そうだな。どんな様子かは想像つくがな」
「それにしても、金持ちって、あんなのばっかなんですかね」
確かに――。高木家に今泉家。金持ちなんだろうが、かなえも三千代も、育ちの良さなんて微塵も感じられない。
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