いばりんぼうとおこりんぼう 〜殺人現場でボーイ・ミーツ・ガール〜

もーりんもも

文字の大きさ
37 / 49

第37話 吉岡の取材④

しおりを挟む
 吉岡はまだ時間に余裕があるため、念のため佐藤が住んでいたアパートまで行ってみることにした。

 グーグル先生の言う通りに歩いたはずなのに、「オレンジヴィラ」が見つからない。
 近くまで来ているはずなんだが――と、キョロキョロしながら歩き回っていると、スーツを着た男たちが、道端でお婆さんを捕まえて、写真を見せながら話をしているところに出くわした。
 吉岡は、まだ警察が話を聞いている、という意味で驚いたのだが、彼らにはそうは映らず、自分たちが警察だと気づいて驚いたと解釈したらしい。吉岡を睨みつけながら近づいてきた。

(うわあ。参ったなあ。まだ聞き込みをしていたのか――)

「すみません。この近くにお住まいの方ですか?」

 上司らしい年配の男性に声を掛けられた。

「いえ、違いますけど」

 吉岡の答え方が反抗的に感じられたのか、二人の目つきが鋭くなった。それを見て早めに全面降伏することにした。

「逮捕された犯人の住所がネットで晒されていたんで、ちょっと来てみたんです」

 そう言って、目的地を印刷したマップを見せた。若い方は、あからさまに面倒臭そうな表情に変わった。

「君、職業は?」
「あ、大学院生です」
「なんか身分証持ってる?」
「はい」

 学生証を見せると、二人揃って、写真と顔を見比べて、ふーんと納得していた。
 好奇心を抑えられない吉岡は、ずっと聞きたかった質問をぶつけてみた。

「あの、佐藤が窓から侵入したってニュースでは言っていますけど、どうやって入ったんですか? 逃走時に佐藤が閉めたにしては、閉まりすぎですよね?」

 軟化していた二人の態度が一気に硬化に転じた。

「お前、何を知ってる?」

 吉岡は胸ぐらを掴まれるかと思った。本物の刑事の凄みは経験するものではない。

「あ、す、すみません。申し遅れました。私、畑野優里の友人で。彼女からちょっとだけ話を聞いているので。ああ、すみません、本当に」

 またしても、「ああ――」と二人の男は項垂れた。
 吉岡は二人の刑事と少しだけ話しをしたが、物分かりのいい人に当たったようで、すぐに解放された。

 お陰で、結局、目的地へは行けなかったのだが――さすがに刑事の裏をかいてまで現場に行く勇気はない――、警察も密室の謎を解き明かしていないらしいことが、二人の様子から分かった。
 成果としては十分――いや、上出来だ。
 吉岡は、自分の後ろ姿を二人の刑事がじっと見ているだろうと思い、真っ直ぐ千川駅を目指した。
 駅の周辺にはカフェが無かったため、ひとまず池袋駅まで戻り、ランチを兼ねて休憩することにした。





 池袋駅で地下鉄を降り改札を抜けると、途端に人混みが襲来した。
 さすが乗車人員全国二位の駅だ。ぶっちぎり一位の新宿駅の乗降客数には及ばないが、それでも慣れていない田舎者だと、人混みの中をぶつかりながら歩くことになるだろう。

(池袋か。久しぶりだな。ジュンク堂に寄ってみようか……)

 普段利用しない駅で降りると、どうしても、あちこち寄り道をしたくなってしまうが、店に入るなら十二時前には入った方がいいので、ルミネにあるケーキが美味しいカフェに入ることにした。
 店内は、ほぼ女性のグループで占められていた。よくて男女のカップル客だ。
 男一人客の吉岡は目立ったようで、あちこちから視線を感じる。だが無類の甘味好きにはよくある試練だ。もう慣れている。

 メニューを見て、ハーフカットのケーキが選べるパスタランチにしようと即決したのだが、甘党としては大きなケーキを丸々食べたい気もして、決心が揺らいだ。
 早く注文して食べないと、ランチ休憩の人たちの迷惑になるのだが、生クリーム盛り盛りのスポンジケーキにするか、鮮やかなカットフルーツと白いクリームの薄い層が連続するミルクレープにするか、なかなか結論を出せないでいた。
 優柔不断な吉岡は、二択で悩んだときは辞書に掲載された場合の後の方を選択するという自分ルールを持っている。
 そのルールに従い、ケーキは泣く泣くミルクレープにした。

(もういっそのこと、スポンジケーキはテイクアウトしようか)

 食い意地が張っているせいか、吉岡は注文した商品が席に届くまで、厨房から出てくる店員を目で追ってしまう癖がある。
 それも、「自分の席に来い!」と念じながら見るので、店員からすればかなりキモい客だと思う。
 それでも過去に一度もトラブルになっていないのは、友人曰く「顔面偏差値の高さ」らしいが。
 満席に近いと料理はなかなか出てこない。待っている間、手持ち無沙汰なので、優里にもう少しだけ午前中の成果を連絡しようと思ったが、まだ既読がついていなかったため止めた。


◆◆◆


 畑野家では、家族で相談した結果、高木家の初七日の法要が終わってからお見合いの返事をすることに決めた。
 四月十九日の週に、仲人さんから連絡があればそのときに返事を、もしなければ二十四日の土曜日にこちらから連絡を入れることにしたのだ。
 優里は、「それまでの間よく考えるように」と、両親に言われた。もちろん、道長とLINEで連絡をとっていることは打ち明けていない。
 正直、お見合いのことよりも事件の方が気になって仕方がなかった。



 目を見開いて亡くなったあの人が、二晩続けて優里の夢に出てきては、「なぜ」と、彼女に問いかける。優里は、どちらかといえば三千代の味方だと主張するところで毎回目が覚める。
 夢見の悪さは体調不良に直結する。十三日の朝は、さすがに会社を休もうかと思ったほどだが、家にいてもワイドショー三昧になるだけだと思い出社した。

 そんな優里の状況を知らない吉岡は、昨日同様に軽いLINEを送って寄越す。
 今日もお腹ピーピー疑惑を持たれてしまうと思いながらも、優里は通知を目にする度、LINEを確認するためにスマホを持ってはトイレに駆け込んでいた。

 吉岡は朝イチのLINEで、容疑者の佐藤について彼の自宅周辺で聞き込みをすると言っていた。
 優里はトイレの個室に入り、スマホの画面に表示されている吉岡のアイコンを見て、ため息をついた。
 彼は、アイコンに自分の写真を使っていた。アカデミックな雰囲気で撮られているので、学内で撮影されたものかもしれない。少し気怠い表情は、女子ウケ抜群だろう――と、そんなことはどうでもいいのだ。
 優里は返信が面倒なので、既読が付かないようにアイコンを長押ししてメッセージを表示させた。全文は表示されないが、最初の二行で十分だった。

 ――佐藤容疑者がDV男だった。

 それを見るなり優里は気分が悪くなり、トイレに吐いてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

授業

高木解緒 (たかぎ ときお)
ミステリー
 2020年に投稿した折、すべて投稿して完結したつもりでおりましたが、最終章とその前の章を投稿し忘れていたことに2024年10月になってやっと気が付きました。覗いてくださった皆様、誠に申し訳ありませんでした。  中学校に入学したその日〝私〟は最高の先生に出会った――、はずだった。学校を舞台に綴る小編ミステリ。  ※ この物語はAmazonKDPで販売している作品を投稿用に改稿したものです。  ※ この作品はセンシティブなテーマを扱っています。これは作品の主題が実社会における問題に即しているためです。作品内の事象は全て実際の人物、組織、国家等になんら関りはなく、また断じて非法行為、反倫理、人権侵害を推奨するものではありません。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

沢田くんはおしゃべり

ゆづ
青春
第13回ドリーム大賞奨励賞受賞✨ありがとうございました!! 【あらすじ】 空気を読む力が高まりすぎて、他人の心の声が聞こえるようになってしまった普通の女の子、佐藤景子。 友達から地味だのモブだの心の中で言いたい放題言われているのに言い返せない悔しさの日々の中、景子の唯一の癒しは隣の席の男子、沢田空の心の声だった。 【佐藤さん、マジ天使】(心の声) 無口でほとんどしゃべらない沢田くんの心の声が、まさかの愛と笑いを巻き起こす! めちゃコミ女性向け漫画原作賞の優秀作品にノミネートされました✨ エブリスタでコメディートレンドランキング年間1位(ただし完結作品に限るッ!) エブリスタ→https://estar.jp/novels/25774848

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

処理中です...