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【第9話:針の音より静かに】
その日、店に来たのは見慣れない青年だった。
「こんにちは~、あれ? もしかして、ココさん?」
青年は明るく笑いながら、ココに手を振った。
ココは少し驚いた顔で返事をする。
「……え、エリオくん? ギルドの書庫係の?」
「そうそう! 近くまで来たから寄ってみたんだ。ココさん、今日お休みだって聞いたけど、もしかしてここが噂の……」
彼の視線が、ゼクに向いた。
「この店の人、めっちゃこわ……いや、渋いですね!」
ゼクは何も言わずに、静かに糸を引いた。
•
その後もしばらく、ココとエリオの笑い声が店内に響いていた。
「そういえばあのとき、ぬいぐるみに名前つけたのってココさんでしょ?」
「えっ、違うよ! それは、わたしじゃなくて……」
ゼクの手元にある布が、ほんのわずかに引きつった。
(なんだ、この感じは)
ふと、ベリィの目と目が合った気がした。
「……ゼクさん、今日も手袋、使ってます。すっごくあったかくて」
エリオが驚いたように振り向く。
「えっ、手袋? プレゼントですか?」
「ううん、“サイズ間違えて作った”んですって」
ココは笑った。
ゼクは無言のまま、針に糸を通し直した。
•
夕方、エリオが帰ったあと。
「……ごめんなさい、ちょっとうるさかったですね」
「……別に」
ゼクの声が、いつもより低い気がした。
ココは一瞬だけ首をかしげたが、ベリィの顔を見てほっとしたように微笑んだ。
「今日、なんだかぬいぐるみたち、ソワソワしてましたね」
「……そうだな」
ゼクの目が、棚に並ぶぬいぐるみたちの方をゆっくりと見やる。
ベリィはいつも通り。だけど、どこか「ふふん」と笑っているようにも見えた。
(……何を見てやがる)
ゼクはそう思ったが、声には出さなかった。
針の音が、どこかいつもより、少しだけ重かった。
その日、店に来たのは見慣れない青年だった。
「こんにちは~、あれ? もしかして、ココさん?」
青年は明るく笑いながら、ココに手を振った。
ココは少し驚いた顔で返事をする。
「……え、エリオくん? ギルドの書庫係の?」
「そうそう! 近くまで来たから寄ってみたんだ。ココさん、今日お休みだって聞いたけど、もしかしてここが噂の……」
彼の視線が、ゼクに向いた。
「この店の人、めっちゃこわ……いや、渋いですね!」
ゼクは何も言わずに、静かに糸を引いた。
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その後もしばらく、ココとエリオの笑い声が店内に響いていた。
「そういえばあのとき、ぬいぐるみに名前つけたのってココさんでしょ?」
「えっ、違うよ! それは、わたしじゃなくて……」
ゼクの手元にある布が、ほんのわずかに引きつった。
(なんだ、この感じは)
ふと、ベリィの目と目が合った気がした。
「……ゼクさん、今日も手袋、使ってます。すっごくあったかくて」
エリオが驚いたように振り向く。
「えっ、手袋? プレゼントですか?」
「ううん、“サイズ間違えて作った”んですって」
ココは笑った。
ゼクは無言のまま、針に糸を通し直した。
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夕方、エリオが帰ったあと。
「……ごめんなさい、ちょっとうるさかったですね」
「……別に」
ゼクの声が、いつもより低い気がした。
ココは一瞬だけ首をかしげたが、ベリィの顔を見てほっとしたように微笑んだ。
「今日、なんだかぬいぐるみたち、ソワソワしてましたね」
「……そうだな」
ゼクの目が、棚に並ぶぬいぐるみたちの方をゆっくりと見やる。
ベリィはいつも通り。だけど、どこか「ふふん」と笑っているようにも見えた。
(……何を見てやがる)
ゼクはそう思ったが、声には出さなかった。
針の音が、どこかいつもより、少しだけ重かった。
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