無愛想な仕立て屋と、ふわふわ受付嬢 〜ぬいぐるみ仕立て屋さんの日常〜

miigumi

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【第12話:その声に、針を置いて】

 昼下がりの仕立て屋。
 ゼクは静かに、ベリィの肩を補強するための布を選んでいた。

 ココは、グルルの服に小さな翼の刺繍を入れている。
 ほんのり春が近づき、陽の光が少し暖かくなっていた。

 ――その時だった。

 外から、かすれた悲鳴のような声が聞こえた。

「やめてよ! その子、投げないでっ!」

 ゼクとココが同時に顔を上げる。
 次の瞬間、ココは布を置いて飛び出した。

「ココ!」

 ゼクもそれを追うように、無意識のまま立ち上がっていた。


 店の前の広場。
 そこでは、街の子どもたちが集まり、小さな女の子がひとり、
 必死にぬいぐるみを守っていた。

「うわ、なんだよこのボロぬい、きったねー!」

 年上の男の子が、それを奪い取ろうとしていた瞬間――

「おい」

 低い、重みのある声が響いた。

 ゼクだった。

 ただ立っているだけなのに、その場の空気が凍るようだった。

 男の子たちはビクッとして、一目散に逃げていった。

 残された女の子は、泣きながらぬいぐるみを抱きしめていた。

「ご、ごめんなさい……モモちゃんが、また……」

 ゼクは無言でしゃがみ、そのぬいぐるみをそっと見た。

 それは、以前一度だけ直した、“モモちゃん”だった。

 その体は、また大きく裂けていた。


 店に戻ると、ゼクは何も言わず、静かに作業を始めた。
 ココが手伝おうとする前に、ゼクはふと言った。

「……その子、“泣いてた”か?」

 ココは小さく頷いた。

「うん。でも、泣いてるの、モモちゃんだけじゃなかったです」

「……ああ」

 針の音が響く。
 怒っていたのか、悲しかったのか、自分でもよくわからない。
 でも、あの子の叫び声を聞いた瞬間、
 何かが、胸の奥で弾けた気がした。

 ――黙ってなんか、いられるわけなかった。


 修復されたモモちゃんは、そっと抱かれて、
 女の子の腕の中で、また小さく「おかえり」を呟いたように見えた。

 ゼクの手が、最後の糸を結ぶ時。

「……あんた、怒るとこわいですね」

 とココが笑った。

「……知らなかった」

「……俺もだ」

 ゼクは、小さく吐き捨てるように言った。

 けれど、ベリィは知っていた。
 “あの声”に反応して、ゼクが走り出した理由を。

 それが、ぬいぐるみの声でも、女の子の声でもなく――
“あの子(ココ)の声”だったことを。
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