無愛想な仕立て屋と、ふわふわ受付嬢 〜ぬいぐるみ仕立て屋さんの日常〜

miigumi

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【第13話:気づかないふりが、できなくなる】

 あの日から、ゼクは何も言わなかった。

 ぬいぐるみを壊されそうになった女の子を助けたことも、
 声を上げたココを追いかけたことも。
 まるで、それが“いつものこと”かのように、黙って針を動かしている。

 ――でも、違う。

 ココは思う。

 ゼクは、普段なら決して店を飛び出したりしない。
 それなのに、あの時だけは、迷いも戸惑いもなく……真っ直ぐに。

 あの声を聞いて、すぐに。

(……私の声、でしたよね)

 あのときの空気、ゼクの背中、
 逃げていった男の子たちを見送る眼差し。
 全部が、はっきりと脳裏に焼きついている。


 その日も、ぬいぐるみの服を縫いながら、
 ゼクの横顔をちらりと見た。

 相変わらず、真剣な顔で針を動かしている。

(きっと、自分が動いた理由なんて、気づいてない)

 それが、少しだけ――ずるいと思った。
 でも同時に、愛しくも感じてしまった。

 この気持ちがなんなのか、まだ名前はつけられないけれど、
 「特別」だと認めるには、十分すぎるくらいだった。


 作業が終わった頃、ゼクがそっと紙袋を差し出してきた。

「……あの子に、これ。手紙と一緒に渡してくれ」

「え?」

「同じ布で、替えの服を作った。予備の耳も、つけといた」

 その言葉に、ココの胸がぎゅっとなる。

 怒ってるでもなく、照れてるでもなく、ただ――まっすぐ。

「ゼクさんって、本当にずるいです」

「……なんだ急に」

「そういう優しさ、見せないでって思うのに、
 もらったら、嬉しくなっちゃうじゃないですか」

 ゼクは少しだけ目を伏せて、ぽつりと呟いた。

「……捨てられるくらいなら、縫っといた方がいいだろ」

「はい。でも、私……捨てませんよ」

 ゼクが、ふと顔を上げた。

 ココは微笑んだ。
 その胸の中で、まだ名前のない気持ちが、静かにほどけていくのを感じながら。
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