無愛想な仕立て屋と、ふわふわ受付嬢 〜ぬいぐるみ仕立て屋さんの日常〜

miigumi

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【第14話:気づいて、ほしいこと】

 その日、やってきたのは静かな青年と、その手に抱かれた白い猫のぬいぐるみだった。

「すみません、この子の……背中の綿、もう一度入れてほしくて」

 ぬいぐるみは、真っ白な猫の形。
 けれど首元のリボンはほどけ、片耳の縫い目もゆるんでいる。

「……誰かに投げられたか、引っ張られたな」

 ゼクがぬいぐるみを受け取り、静かにそう言った。

 青年は、どこか迷ったように、けれど思い切ったように言葉を続けた。

「……これは、昔、幼なじみにもらったものでして。
 彼女、もう引っ越して会えないんですけど、
 最後の日、何も言えなかったんです。だから……この子だけが、覚えててくれる気がして」

 その言葉に、ココは胸がちくりとした。

 “言えなかった想い”――その重さを、自分も、知っている気がした。


 ゼクは静かに、ぬいぐるみの耳を縫い直しながら、ぼそりとつぶやく。

「……気づいてほしかったんだな」

「……え?」

「渡すだけじゃ、伝わらねぇことはある。
 でも、大事にされたものは、見ればわかる。ぬいぐるみも、そうだ」

 青年が目を見開き、小さく笑った。

「……そうですね。ありがとうございます」


 青年が帰ったあと、ココはその猫のぬいぐるみにそっと触れた。

 背中には、ゼクが目立たないように縫った、
 “新しいリボン”がひとつ、ちょこんとついていた。

「ゼクさん……さっきの言葉、自分にも向けて言ってました?」

「……知らねぇよ」

「ふふ。ベリィさん、見てましたもんね」

 棚の上では、ベリィが静かにちょこんと座っている。

 気づいてほしい。
 でも、気づかれたくない。
 その気持ちは、猫のぬいぐるみだけじゃないことを、
 ゼクもココも、きっとどこかでわかっていた。
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