無愛想な仕立て屋と、ふわふわ受付嬢 〜ぬいぐるみ仕立て屋さんの日常〜

miigumi

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【第16話:さくらのふくを、あなたに】

 夜の桜は、昼とは違う静けさがあった。

 風が吹けば、花びらがさらさらと舞って、
 ゼクの肩に、ココの髪に、そっと触れるように落ちてくる。

 ベリィは、ココに抱っこされたまま、おとなしくしていた。
 グルルも小さな袋の中で、口をぽかんと開けている。

「……ゼクさん」

「ん」

「桜って、なんか、不思議ですよね。
 一年のうちのほんの一瞬しか咲かないのに……
 咲いてる時は、誰よりも目立って、でもすぐに散っちゃう」

 ゼクは返事をしなかったが、
 ベリィを見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……だから、忘れられねぇんだろ」

 ココは驚いて、思わずゼクを見た。

「……そうかもしれませんね」


 しばらくふたりで、ただ桜を眺めていた。

 遠くで風が吹き、また花びらがひとひら舞う。

「……ねえ、ゼクさん」

「ん」

「ぬいぐるみに、春の服を作りませんか? “桜のふく”って名前で。
 ピンクとか、淡い白とか……ふわっとして、ちょっと切ない感じの」

 ゼクは少しだけ目を伏せて、
 桜の花びらを一枚、手のひらで受け止めた。

「……いいな」

 その一言が、なんだかいつもより柔らかくて、
 ココは嬉しくなってしまった。

「ベリィさんにも似合いますよ。
 グルルには……お花が頭に乗っかってそうだけど」

 ふたりで小さく笑った。

 春の夜の、ぬいぐるみとふたりだけの、ちいさな桜見。


 店に戻ったら、まず布を選ぼう。
 ゼクが縫って、ココが飾って――
 “桜のふく”という、誰かの心をそっと包む一着を。

 ココは心の中で決めていた。

 いつか、この服に「好き」を縫い込める日が来るかもしれない。
 それがどんな形でも、この春の想いだけは、ちゃんとぬいぐるみに残したいと思った。
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