『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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3章

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■第31話『モル、はじめてのおつかえ』

 *

 「い、いらっしゃいませ……!」

 それは、少し震えた声だったけれど――
 モルが、カウンターに立って初めて言えた“お迎えの言葉”だった。

 「おぉ、今日はあの子が店番なのかい?」

 入ってきたのは、パン屋のおじいさん。
 少し驚いたような顔をしたけれど、すぐに優しく微笑んで言った。

 「いちばん甘いクッキー、ひとつもらえるかな?」

 モルは頑張って選んだクッキーを手渡し、ぎこちなく、

 「……いち、たす、いち……ありがとう!」

 「……あはは、よくできました。うちの孫より元気じゃな」

 笑い声とともに、クッキーは売れていった。

 *

 その後も、小さな子どもたちが興味津々でやってきた。

 「モルー! クッキーちょうだいー!」

 「昨日、“いちたすいち”って言ってた! 言ってたー!」

 「お手紙書いたよ! いつもありがとうー!」

 モルは戸惑いながらも、何度も何度も頭を下げて、「どぞ!」とクッキーを渡した。

 (……すごいな、モル)

 リィナはカウンターの奥から、そっとモルの背中を見つめていた。

 見た目や種族を超えて、「ありがとう」と「どうぞ」を返す姿。
 それは、リィナが目指していた“お菓子屋さん”の未来だった。

 (私、もうただのお菓子好きじゃなくて……ちゃんと、“店主”なんだ)

 *

 その日の夕方、閉店後。
 リィナはモルの前に、そっとメダルを差し出した。

 「これ、“今日がんばったで賞”。モル、すごくがんばったよ」

 「……モル、うれしい。すっごく、うれしい!」

 ピノが、少し離れたところで小さく羽をばたつかせる。

 「ぴぴっ!(ちょっとだけ、認めてやる)」

 「ぴぴ?(でもリィナは渡さないからな?)」

 「……ピノとモルって、なんだかんだ仲良くなってるよね」

 「ぴっ」「うん!」

 照れ隠しなのか、ピノはモルの頭に羽で“ぽふ”とタッチしてから、さっと棚の上へ飛び上がった。

 (……やさしいなあ、ほんとに)

 *

 その夜、リィナはノートにこう書いた。

 《モルが初めての“ありがとう”を受け取った日》
 《わたしは、やっぱり“このお店の店主”になっていた》

 ページの端には、モルの描いた“まるい顔のクッキー”のスケッチが貼られていた。
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