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3章
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■第32話『ふたりの看板、やさしさのかたち』
*
「ねえ、ピノ、モル」
リィナは朝の開店準備をしながら、くるっとふたりに振り返った。
「そろそろ、看板に“ピノとモル”って入れてみようかなって思ってるんだけど……どう?」
「ぴっ!?(主役交代!?)」
「えっ、ピノは主役だよ! でもモルもすごく頑張ってるから、“ふたり”っていいなって」
「……ボク、いいの? ほんとに、ピノのとなり、いっても?」
「うん。リィナのお店にとって、大事な“ふたり”だから」
ピノは少しふくれっ面をしていたけれど、モルの嬉しそうな顔を見ると、
そっとリィナの手にくちばしをあずけて「ぴ」とひと鳴きした。
(……つまり“許可”)
「じゃあ、今日から“ふたりの看板”だね!」
新しく描き直した手描きの看板には、ころんとしたピノと、
にこっと笑うモルのイラストが並んでいた。
【しろくま通りのピノ屋さん】
~ピノとモルのまあるいおやつ~
*
看板が変わったその日、常連のマルシェさんがニコニコしながらやって来た。
「看板、かわいくなったじゃない! ピノちゃんもモルくんも、いい顔してる!」
「ありがとございます!」
「うちの子も、モルくんが計算してるの見て“すごい”って言ってたのよ。
ねえ、今度“まあるいドーナツ”とかやらない?」
「やります! むしろ、もうアイデアノートに描いてました!」
店の中には、やさしい笑い声が広がっていた。
*
閉店後。
リィナはカウンターでノートを開きながら、しみじみと呟いた。
「未来って、ずっと先のことだと思ってたけど……
今こうして“明日何作ろう”って思えることが、もう“未来”なんだね」
レオはその隣で、少し目を伏せて頷いた。
「……そうですね。あなたはちゃんと“未来を作っている”」
「レオさんにも、ピノにも、モルにも――それができてるのが、うれしい」
「……守りたくなる理由が、また増えました」
その言葉に、リィナは照れたように笑い、ピノはレオをじーっと見上げる。
「ぴぴ(また調子に乗ってる)」
「ぴぴっ(でもまぁ、悪くない)」
モルはリィナの膝に頭をのせながら、うとうとと眠っていた。
*
――その夜。
店の外れ、小道の影から、誰かが看板を見上げていた。
「……あれが、“ピノ屋さん”か。なるほど、“魔物と共に生きる者”ね」
マントの影から覗くのは、鋭い金の目。
「そろそろ、直接会わせてもらおうか――“白獅子の影にいる少女”に」
*
「ねえ、ピノ、モル」
リィナは朝の開店準備をしながら、くるっとふたりに振り返った。
「そろそろ、看板に“ピノとモル”って入れてみようかなって思ってるんだけど……どう?」
「ぴっ!?(主役交代!?)」
「えっ、ピノは主役だよ! でもモルもすごく頑張ってるから、“ふたり”っていいなって」
「……ボク、いいの? ほんとに、ピノのとなり、いっても?」
「うん。リィナのお店にとって、大事な“ふたり”だから」
ピノは少しふくれっ面をしていたけれど、モルの嬉しそうな顔を見ると、
そっとリィナの手にくちばしをあずけて「ぴ」とひと鳴きした。
(……つまり“許可”)
「じゃあ、今日から“ふたりの看板”だね!」
新しく描き直した手描きの看板には、ころんとしたピノと、
にこっと笑うモルのイラストが並んでいた。
【しろくま通りのピノ屋さん】
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*
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「ありがとございます!」
「うちの子も、モルくんが計算してるの見て“すごい”って言ってたのよ。
ねえ、今度“まあるいドーナツ”とかやらない?」
「やります! むしろ、もうアイデアノートに描いてました!」
店の中には、やさしい笑い声が広がっていた。
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閉店後。
リィナはカウンターでノートを開きながら、しみじみと呟いた。
「未来って、ずっと先のことだと思ってたけど……
今こうして“明日何作ろう”って思えることが、もう“未来”なんだね」
レオはその隣で、少し目を伏せて頷いた。
「……そうですね。あなたはちゃんと“未来を作っている”」
「レオさんにも、ピノにも、モルにも――それができてるのが、うれしい」
「……守りたくなる理由が、また増えました」
その言葉に、リィナは照れたように笑い、ピノはレオをじーっと見上げる。
「ぴぴ(また調子に乗ってる)」
「ぴぴっ(でもまぁ、悪くない)」
モルはリィナの膝に頭をのせながら、うとうとと眠っていた。
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――その夜。
店の外れ、小道の影から、誰かが看板を見上げていた。
「……あれが、“ピノ屋さん”か。なるほど、“魔物と共に生きる者”ね」
マントの影から覗くのは、鋭い金の目。
「そろそろ、直接会わせてもらおうか――“白獅子の影にいる少女”に」
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