『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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4章

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■第34話『その時に備えて、できることを』

 *

 「……面白い。白獅子が“静かに笑って”いるとはな」

 ゼイランの報告は、王都のとある会議室で静かに響いていた。

 長机の先に座るのは、王国上層部の中でも特に“対魔物政策”に関与する枢密顧問たち。

 「そして彼は、“魔物を連れた少女”を盾にしていたと?」

 「否、守っていた。彼女が中心にあり、レオはその傍に立っていた――
  彼が“誰かの後ろに立つ”姿を初めて見たよ」

 「面白い。……この“少女”に、一度接触を図ってみるべきだな」

 「構いません。ただし、“軽く扱えば、彼は剣を抜く”。それだけは覚えておくといい」

 静かな波紋が、王都からしろくま通りへ向かって広がり始めていた。

 *

 そのころ、リィナは店の奥で焼きたてのパウンドケーキを冷ましていた。

 「今日はミントと柑橘のパウンドケーキ! 名前は……“風と光のケーキ”にしようかな」

 「ぴっぴ!(オシャレ!)」

 「モル、ほめる!! ボク、ナマエ、ぜったいオボエル!」

 平和なやりとりの中で、ピノがふと真剣な顔になり、チョークをくわえて黒板に「剣」の絵を描きはじめる。

 「ぴ……(トレーニングしたい)」

 「……ピノ?」

 「ぴぴ(リィナ、まもりたい)」

 ピノの静かな決意に、モルも胸をぽんぽんと叩いて名乗り上げる。

 「モルも、リィナと おみせ まもる! ボク、つよくなる!」

 それからというもの、閉店後には“木剣での構え”や“転ばないためのバランス”など、
 小さな“自主訓練”がひっそり始まった。

 リィナはそれを微笑ましく見守りながらも、ふと胸がきゅっとする。

(……こうして笑っていられる日が、ずっと続くのかな)

 *

 その夜。

 レオは、店の裏庭で静かに剣を振っていた。

 「やはり、風が変わったか……」

 月の光に照らされる銀の刃。
 その動きは静かで、鋭く、そして何より――覚悟に満ちていた。

 (王都が動くということは、“彼ら”もまた来る。
  そして今度こそ、リィナは真ん中に立たされるだろう)

 「……この剣で、守れるなら。何度でも、抜く」

 “白獅子”の名が再び動くときが、近づいていた。
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