『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi

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9章

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第84話『町を届ける、わたしたちのかたち』

 *

 王都・仮店舗予定地。

 広場の一角に、まだ何もない空間がぽっかりと開いている。
 リィナはそこに立ち、静かに目を閉じて想像していた。

 (ここに、ピノの冷菓屋。ユルのレジカウンター。モルの読み聞かせ絵本コーナー……)

 「広すぎず、せまくなく、“ただいま”って言える距離感にしたいな」

 レオが隣で図面を広げて言った。

 「“しろくま通りの温度”を、王都にそのまま再現する。
 それができるのは、あなたと仲間たちだけです」

 *

 ピノとセリルは冷菓用のカウンターの設営中。

 「ぴ(机が水平じゃない! この角度ではスプーンが滑る!)」
 「師匠ぉぉぉ、レベルがたかすぎますぅぅ!」

 モルは「おためしよみきかせ ひろば!」と書いた旗を立て、すでに子どもを呼び込み始めていた。

 そして、ユルはノートを片手に、広場の片隅に立っていた。

 「ここ、夕方になると、風がよく通る。……声が、届きやすい場所」

 リィナは隣に立ち、聞く。

 「声?」

 「“ありがとう”とか、“おいしい”とか。……この場所は、“声がやさしく返ってくる”」

 (ああ、ユルの“発見”って、すごく町っぽいな)

 「……じゃあ、ここが“ユルの定位置”だね」

 ユルはうなずいた。

 「……うん。“まあるい音の場所”って名前にする」

 *

 夜、リィナとレオは灯りの消えた広場で、腰かけて話していた。

 「……“町を届ける”って、物じゃなくて、
 “この空気”をまるごと包むってことだったんですね」

 「はい。そして、それを“戻す場所”があるからこそ、“運べる”んです」

 リィナは、そっと手を差し出す。

 「じゃあ、運び終えたら――また、一緒に帰ってくれますか?」

 レオはその手を、丁寧に握り返す。

 「何度でも。あなたの“ただいま”が聞こえる場所へ」
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