『転生モブと魔獣の相棒ごはん屋 秘密を抱えた常連様に惹かれて』

miigumi

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1章

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◆第19話 「汚れを知らぬ者」

やわらかい木の扉をくぐった瞬間、カリスは微かな圧を感じた。

魔力――いや、“結界”の残り香。
高位のものだ。確かに誰かが、彼女を守っている。

(守られている、か。……それは誰に?)

視線を巡らせる。
魔獣。客。……そして、カウンターの端に座る、黒髪の男。

気配が異なる。静かだが、目が鋭い。
(あれが“護衛”か? なるほど、面白い)

「いらっしゃいませ!」

声が飛んできた。
振り向いた先に、少女が立っていた。

前情報では20歳。
だが、実際に対面してみれば、もっと幼く見える。
無垢だ。どこまでも、澄んでいる。

(こんなものが、本当に……)

「席はこちらでよろしいですか?」

「ええ、ありがとう」

微笑を浮かべる。
“優しい旅人”を演じるのは慣れている。

「おすすめはラテプレートです。うちの看板魔獣がモデルなんです」

「看板……魔獣?」

くすりと笑うように返した彼女は、
「はい、ラテです。……ちょっとだけ、ひとに厳しいんですけど」と言って
足元のモフモフに目を向けた。

魔獣は、こちらを睨んでいた。
静かに、しかし確実な敵意。
本能が働いている。自分の“下心”を察知している。

(だが、問題はそこではない)

ミレイア・ユリア・ローゼン。

本当に、“ただの店主”なのか?
それとも、自覚のないまま魔族と繋がっている――もしくは利用されているのか。

「あなたの料理、評判ですよ。王都でも囁かれています。“魔族すら通う食卓”と」

「えっ……そんな、魔族なんて。うち、そんなすごくないですよ~」

「……気づいていないんですか?」

「気づくって、何を……?」

ふわふわと笑う彼女の目には、一片の警戒もなかった。

まるで花のような無垢。
誰に踏まれても、ただ風に揺れて咲く。

(……理解できない)

人間は、誰もが打算と防衛で生きている。
それを捨てる者は、死ぬか、堕ちるかだ。

けれど彼女は、ただそこに“在る”だけだ。
何の企みもなく、誰かを癒して、笑っている。

だからこそ――気に入らない。

(壊すなら、今が最も美しい。誰の手にも渡る前に)

「ミレイアさん」

彼女の名を、初めて“正確に”呼んだ。

シュヴァルツが、ぴくりと顔を上げるのが見えた。

そして、ラテの喉から低い唸り声が響いた。

カリスは、微笑みを崩さなかった。

「今度、ゆっくり話をしましょう。……あなたの“未来”について」
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