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1章
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◆第20話 「この日常を守るために」
(……あいつは、敵だ)
カウンターの端から鋭く観察していた。
言葉、視線、立ち居振る舞い。どれも作られている。
だが、底が浅いわけではない。
逆に“作り込まれているからこそ”、本物の悪意が透けて見える。
(カリス……やはり、王都の情報部か)
その名を思い出すだけで、喉元に冷たいものがこみ上げる。
人間社会での“粛清”を任務とし、魔族の存在を忌み嫌う男。
“ただの店主”であるミレイアに向けたあの視線は、
ただの疑念ではなかった。
――あれは、“排除”の目だ。
「今度、ゆっくり話をしましょう。……あなたの未来について」
あの言葉の裏には、“選択肢”など存在しない。
従うか、消えるか――それだけだ。
にもかかわらず――
「……え? あ、はい……お話、なら」
微笑みながら頷いたミレイアの顔に、恐れも警戒もなかった。
(……この女は)
天然だ。とびきりの。
あれほど露骨な“敵意”に対してさえ、疑いの目すら向けない。
ラテが警告するように唸っても、「どうしたの~?」と撫でて終わる。
だからこそ、彼女は“人を惹きつける”のだろう。
だからこそ、誰かが守らなければならない。
――だから、自分が守る。
(この程度のやり方で、奴らが引き下がるとは思えない)
ヴァルとして通うだけでは、守れない時が来る。
“シュヴァルツ”として――
いや、“彼女の傍にいる一個人”としての策が必要になる。
シュヴァルツは、目を閉じて考える。
結界を張るだけでは足りない。
もし彼女が拉致されれば、追跡の術が必要。
店の構造、出入口、物陰の位置……すべてを再確認する。
(逃がすための裏口を作っておくか。ラテにも運搬用の指示を教えておくべきだ)
ああ、煩わしい。
だが、そうせずにはいられない。
あの笑顔が脅かされる未来を――絶対に許さないと決めたから。
「……ヴァルさん?」
名前を呼ばれて、目を開けた。
そこには、両手いっぱいのプリンを抱えたミレイアがいた。
「余っちゃったから、どうかなって。ほら、元気出る味だよ?」
その顔は、何も知らない。
守られていることも、狙われていることも。
ただ純粋に、誰かのために笑っている。
「……ありがとう」
そう答えた声は、ヴァルではなく――
シュヴァルツ自身のものだった。
(何があろうと、この場所を守る。たとえすべてを敵に回しても)
プリンの甘さが、決意を押し固めていく。
(……あいつは、敵だ)
カウンターの端から鋭く観察していた。
言葉、視線、立ち居振る舞い。どれも作られている。
だが、底が浅いわけではない。
逆に“作り込まれているからこそ”、本物の悪意が透けて見える。
(カリス……やはり、王都の情報部か)
その名を思い出すだけで、喉元に冷たいものがこみ上げる。
人間社会での“粛清”を任務とし、魔族の存在を忌み嫌う男。
“ただの店主”であるミレイアに向けたあの視線は、
ただの疑念ではなかった。
――あれは、“排除”の目だ。
「今度、ゆっくり話をしましょう。……あなたの未来について」
あの言葉の裏には、“選択肢”など存在しない。
従うか、消えるか――それだけだ。
にもかかわらず――
「……え? あ、はい……お話、なら」
微笑みながら頷いたミレイアの顔に、恐れも警戒もなかった。
(……この女は)
天然だ。とびきりの。
あれほど露骨な“敵意”に対してさえ、疑いの目すら向けない。
ラテが警告するように唸っても、「どうしたの~?」と撫でて終わる。
だからこそ、彼女は“人を惹きつける”のだろう。
だからこそ、誰かが守らなければならない。
――だから、自分が守る。
(この程度のやり方で、奴らが引き下がるとは思えない)
ヴァルとして通うだけでは、守れない時が来る。
“シュヴァルツ”として――
いや、“彼女の傍にいる一個人”としての策が必要になる。
シュヴァルツは、目を閉じて考える。
結界を張るだけでは足りない。
もし彼女が拉致されれば、追跡の術が必要。
店の構造、出入口、物陰の位置……すべてを再確認する。
(逃がすための裏口を作っておくか。ラテにも運搬用の指示を教えておくべきだ)
ああ、煩わしい。
だが、そうせずにはいられない。
あの笑顔が脅かされる未来を――絶対に許さないと決めたから。
「……ヴァルさん?」
名前を呼ばれて、目を開けた。
そこには、両手いっぱいのプリンを抱えたミレイアがいた。
「余っちゃったから、どうかなって。ほら、元気出る味だよ?」
その顔は、何も知らない。
守られていることも、狙われていることも。
ただ純粋に、誰かのために笑っている。
「……ありがとう」
そう答えた声は、ヴァルではなく――
シュヴァルツ自身のものだった。
(何があろうと、この場所を守る。たとえすべてを敵に回しても)
プリンの甘さが、決意を押し固めていく。
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