アルパラナ城外のならず者

岡智 みみか

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第3章

第4話

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「お嬢さん。ここは大切な商取引をする場だ。遊びに来るところではないですぞ」
「お話しに来たんです。うちの商品が届かないって」
「ほう。取り引き記録は残されているのかな?」
「残されています。ここにその覚え書きが……」

 体にしっかりと巻き付けていたポシェットの中から、契約書を差し出す。
それだけじゃない。
配達に来た御者が落としていった証拠の、粗悪なカカンだってある。
私がそれを差し出すか差し出さないかのうちに、ドモーアは契約書をひったくるように奪い取ると、ガサガサと広げた。
チラリと目をやっただけで、カカンの袋ごとすぐに後ろにいた付き人に投げ渡す。

「では、これはうちで詳しく調査することにいたしましょう。それでいいかな?」
「は、はい……」

 ドモーアは私とエンリケの脇を通り過ぎ、中央階段をエントランスホールへ下りてゆく。
その威圧感に胸の鼓動が止まらない。
これまで守護隊長をこんな間近で見たことはなかったし、これからもきっとないだろう。

「あの! 守護隊長さま! もう一つお願いがあります!」

 堂々としたその背に向かって叫ぶ。
彼は頭だけで、ぐるりと大きく振り返った。

「どうされたのかな?」
「もう一度、もう一度リッキー商会の調査をお願いします。あの人の店が、不祥事を出すわけがないんです。ちゃんとしていました。彼の店と取り引きのあった人たちなら、誰もが知っています。お願いです。今ならまだ間に合います。どうかやり直すチャンスをお与えください」
「キミは? リッキー商会の関係者なのかな?」

 彼の黒い瞳が、静かに階段の下から私を見上げた。

「違います。だけど、彼の店とは取り引きがありました。今はサパタ商会にお世話になっています。雑貨屋トリノのフィローネです。どうかよろしくお願いします」
「なるほど。実はリッキー商会に関しては、キミと同じような陳情が絶えなくてね。私もどうしたものかと思っていたところなんですよ」
「ほ、本当ですか?」

 つい喜びが浮き出てしまう。
ドモーアは大きなしわを寄せにっこりと笑った。

「私は常に、この街の平安について考えていますよ。あなたのご期待にも、出来る限り沿えるようお応えしましょう」

 ツンと高い鼻を上に向け、ドモーアが階段を下りてゆく。
ロビーで商談をしている大勢の客に見送られながら、彼は部下たちを引き連れ、颯爽と門を出て行った。
一時の静けさを見せたロビーが、再び活気を取り戻す。

「トリノ雑貨さん。お待たせしました。今日はどういったご用件で?」

 名を呼ばれ、我に返った。
前回担当してくれたのと同じ男の子が、ひょっこりと顔を見せる。

「ねぇエンリケ。どうする?」
「どうするって言われてもなぁ」

 私がニヤリと笑ったら、彼も同じように笑った。
肩にかかるオレンジの髪をパサリと振り払う。

「あら、ごめんなさい。もうあなたたちに用はないから。入荷した不良品の件、アシオスの守護隊長へ直々に調査をお願いしたの。だからもう平気よ。大人しく首を洗って待ってなさい」
「は?」

 王室から直属の任の受けた自治組織である守護隊は、たとえ貴族の関係する商会であっても、その命令に逆らうことは出来ない。
商会側の彼は目を丸くして驚いていたけど、私たちが今日ここへ来た目的は、もう果たされてしまった。

「帰りましょ、エンリケ」

 フンと高らかに鼻を鳴らすと、会館を出る。
重い鉄格子が閉まると同時に、思いっきり笑いあった。

「あはは。やったね。あの驚いた顔を見た?」
「見た見た! アイツ、これから滅茶苦茶怒られるんだろうな」
「当然よ。だって絶対おかしいもん。どこかで手配ミスでもあったんじゃない?」
「なんだよフィローネ。それじゃ、もう今回の件は許してやるのか?」
「まさか。えー。でも、どうしよっかなぁー!」

 吹く風が頬に気持ちいい。
あぜ道を歩くステップがふわりと舞い上がる。
くるりと一回転して、エンリケを振り返った。

「ま、今後こういうことが絶対起きないようにって約束するなら、許してあげてもいいかもねぇ」
「ふふ。フィローネにしたら、随分意地悪じゃないか?」
「あら。これでも寛大な処置を授けたつもりなんだけど」
「ま、向こうの出方しだいだな」

 草原の広がる緩やかな丘を下ると、アシオスの街が一望できる。
これで何も心配することはなくなった。
私は晴れやかな気持ちで草原を一気に駆け下りる。

「ただいまー!」
「あらあら、フィローネ。上機嫌ね」

 裏庭で洗濯物を取り込んでいたカミラに飛びついた。

「ふふ。ね、今日の晩ご飯なに?」
「今日は卵とダイジー豆のトマト煮込みよ」
「やった! 私も手伝うね」

 その日の夕飯は、とても楽しい時間になった。
エンリケも一緒に四人でテーブルを囲むと、弾むおしゃべりに終わりはなく、アシオスの夜はあっという間に更けていった。

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