アルパラナ城外のならず者

岡智 みみか

文字の大きさ
31 / 43
第4章

第2話

しおりを挟む
 執務室から続く隠し通路を抜け、城の外に出る。
俺たちが外に出る時は、三人とも髪を黒く染めていた。
公式にはほとんど表に出たことのない俺は、国民に顔を知られていない。
髪を同じ黒に染め碧い目をしていれば、多少の誤魔化しがきくし、身代わりともなれる。
この二人を自分の側近に選んだのは、二人が俺と同じ碧い目をしていたからだ。

「その商会とやらはどこだ」
「行ってみますか?」
「あぁ」

 城の外は午後の日が回ったところだ。
借りた馬にまたがり街を駆け抜けると、草原の向こうに小さな館が見えてくる。
色の濃い青で統一されたその建物は、貴族の館にしては随分小さくみすぼらしい。
ドモーアなんていうバカに売り渡す屋敷としては、妥当なものに思えた。

 馬で乗り付けると、柵状の門は開いたままだった。
門番らしきものもいるにはいるが、俺たちを見てもごにょごにょと口を動かすだけで、なんの対応もしない。
前庭には訪問客のものであろう馬車や荷車が整理されないまま散在し、随分と見苦しい状態におかれている。
屋敷の客だったらしい、それなりに身なりを整えたヨボヨボの爺さんが、俺たちの横を通り過ぎ敷地から出ていった。
それに対しても、門番は頭を一つ下げただけだ。

「勝手に入っていいのか?」

 声だけは聞こえていたのか、門番の男がチラリとみあげた。
ディオスは馬の手綱を引き直す。

「おそらく出入りは自由かと」
「元貴族の屋敷が、聞いて呆れるな」

 中に入り込んでも、馬を預かろうという気配もない。
繋いでおくためのそれらしき場所を見つけ勝手に置くと、やはり開け放したままになっている正門から、エントランスホールに入った。
館内も前庭と変わらず果てしなくごちゃついている。

「場末の酒場と変わらないな」

 待てと言われた待機場所に腰を下ろしていると、再び席を移動させられる。
どうやら案内された別のテーブルで商談を行うらしい。
すぐ隣でも別の取り引きが行われているというのに、随分といい加減な店だ。

「初めまして。私はサパタ商会のアレハンドロと申します。こちらはカンデラ」

 まだ若い、俺と大差のない年齢の男女二人組と握手を交わす。
ディオスとパブロとも、続けて握手を交わした。

「本日はどういったご用件で?」

 随分と上から目線の話し方だ。
平民の格好をしているとはいえ、店の店員が客に対してする態度ではない。

「これを買い取ってくれないか」

 こなれた口調で話し始めた男の前に、城から持ち出した小袋を投げ置いた。
商会に来るのに手ぶらでは話にならないだろうと、用意してきた手土産だ。
袋はフィローネからもらったもので、白い布地に赤い糸で何かの草の模様が刺繍されている。
ガシャリと音を立てたその袋の口を、男が開いた。

「これは……。どこで入手を?」

 中に詰めてきたのは、毎日のように腐るほど贈られてくる宝石や装飾品の類いだ。
引き出しにあったものを、適当に放り込んだ。

「出所を訪ねるような、まともな商会だったのか? この店は」
「商品を乱暴に扱わないで下さいということです。失礼ですが、とても宝飾品を専門に扱う方とは思えない行動でしたので」

 カンデラと名乗った女が、毛の長い布を張った台の上に一つ一つ持ってきた品を乗せ、鑑定を始める。

「家の中で余り過ぎていてね。処分に困っていたんだ」
「そうですか。残念ですが、こちらの商品はお預かり出来ません」
「ほう。それはどうして?」
「偽物です。何の価値もない」
「あはははは。それは面白い」

 この宝石が偽物なら、城にあるものも全て偽物だ。

「偽物でも、いくらか値は付くだろう。これだけの数があるんだ。いくらになる」
「当店では、盗品のお取り扱いはしておりません」
「おや。そうだと聞いて、わざわざここに来てみたんだが?」

 毅然とした態度をとる女の前で、俺はニヤリと微笑んでみせる。
店員の二人は顔を引きつらせた。

「やはり、こちらの品物はお断りします」
「言い値で売り渡してやろうというのに、随分な損を選ぶんだな」
「これが盗品でないと保証出来るなら、話は別です」
「信用の問題か」
「そうです」

 白い肌に尖った目と鼻をしたこの女にとって、この店はどういう存在なのだろう。
そんなことが、ふと頭を過ぎる。

「この全てが偽物で価値がないというのなら、お前たちで処分してくれ。ゴミと思うなら、捨てろ」

 俺が席を立つと、ディオスとパブロも続いて立ち上がった。

「それは困ります!」
「問題ない。俺がいいと言ってるんだ。いいだろ」

 それでもまだ納得のいかない女を前に、俺は小袋を持ち上げると、机の脇にあったゴミ箱へそれを落とした。

「俺はこれを捨てた。お前たちもそれを見た。それまでだ」
「……。分かりました。こちらへお越しください」

 ようやく動いたか。
エントランスホールを取り囲むようにぐるりと巻いた階段を登り、女は俺たちを二階へ案内した。

「こちらへどうぞ」

 扉が開かれる。
広々とした書斎のような部屋に、赤い巻き毛とそばかす面の男が座っていた。
ペドリと共にジュルの店にいた男のようだが、相手は俺たちに気づいていない。
彼は咥えていた煙草の煙を吐き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結

まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。 コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。 「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」 イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。 対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。 レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。 「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」 「あの、ちょっとよろしいですか?」 「なんだ!」 レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。 「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」 私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。 全31話、約43,000文字、完結済み。 他サイトにもアップしています。 小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位! pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。 アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。 2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

処理中です...