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第26話
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「配分を変えるわね」
イヴァは機動ロボたちに、何かの指示を追加した。
迷路の外に待機していたロボットたちが動き出す。
「禁則条件は変更しないの?」
「相変わらず気が早いな」
ディーノが笑った。
新しく投入された機動ロボは、迷路の通路幅に合わせて、体型をコンパクトな車両型に変形させていた。
搭載された電子銃で、仲間の乗るバイクを狙い撃つ。
「災害救助モードに入れかえるわよ」
ディーノとイヴァは、迷路の外、フィールドの隅でライド型の機動ロボに搭乗し、他のロボットたちの操作をしている。
「そこにいるあんたたちも、怪我をしてる仲間を優先して助けてあげなさい」
拡声器から、イヴァのため息が聞こえる。
撃ち落とされた機体の下になった仲間の元に、機動ロボが近寄る。
片腕で機体を持ちあげると、もう一本のアームで体をつまみあげた。
そうなると、人間が体当たりしても、機能を一時停止させたりはしない。
ぶつかってきた仲間を共につまみあげると、フィールドの外に運び始めた。
イヴァの機体が、ディーノの機体に近寄る。
拡声器やマイク越しではない、直接の会話をしようと、二人の距離が縮まった。
今だ!
俺は、スイッチを押した。
可動式の床面が動き出す。
フィールド上の機動ロボたちは、自身のバランスをとるために、そのハイスペックな演算処理能力を分散させた。
わずかな時間、彼らの動きが止まる。
その瞬間、仲間たちが自分の体をぶつけた。
「バカね」
イヴァのため息が聞こえる。
人間に衝突された機体は、バランスを保ったまま静かにアームを下ろすと、足元にしがみついた人間を拾い上げた。
「これがスクールの警備ロボと、キャンプベースの機動ロボの違いよ。あなたたちがいつもからかって遊んでいたのが、どんなおもちゃだったか、よく分かったでしょ」
つまみ上げた人間を次々と運び出し、収監し終えると、再びフィールドに戻ってくる。
「さ、お仲間の数が半分に減ったわよ。まだ続ける気?」
ディーノが、標準を動き回るジャンの機体に合わせた。
ドンッという発射音と共に、撃ち落とされる。
「ジャン!」
落下する機体から、彼はふわりと地上に飛び降りた。
「悪いが、そろそろ勤務終了時刻が迫ってるんだ」
ディーノは機体から飛び降りると、その足でフィールドを蹴った。
俺が操作していないのに、床板が動きだす。
操作回路をとられた巨大迷路が、床下に消えた。
ディーノの体が、ジャンの目の前に飛び出す。
ジャンは手にしていた強制終了棒を振りかざした。
ディーノはそれを片腕で受け止めると、ジャンの下腹に強く拳を打ち込む。
「対人の喧嘩には慣れてないから、こうなっちゃうのは仕方ないよなぁ」
ふらつくジャンの前で、彼は指を鳴らした。
「人間同士が直接殴り合うなんて、信じられないだろ? だけどな、それをロボットに許すわけにはいかないってんで、最後は生身の人間が必要なんだよ」
ジャンは姿勢を立て直し、細く長い警棒を構える。
「人間同士で傷つけ合っていいなんて、習ってないもんな」
その警棒の先を、ディーノがつかんだ。
彼の長い足が、真横に飛ぶ。
「『子ども』は、あんまり見ない方がいい」
俺の目の前に、機動ロボが立ちふさがった。
アームが伸びる。
俺はその横をすり抜けて、走り出した。
それに伴走するかのように、半分の高さになった機動ロボがついてくる。
逃げ出した子どもを捕まえようとする大人のように、両腕を広げたロボットが、ゆっくりと近づいてくる。
そのロボットに抱きつくように、俺はしがみつく。
ロボットは俺たちを決して傷つけることのないよう、機能を停止して完全な受け身になる。
動きをとめたその隙に、俺はまた走り出し、ロボットたちも追いかけっこを再開する。
完璧なまでに、移動速度を一致させたロボットから、アームが伸びた。
「ヘラルド!」
ニールが何かをこちらへ突き飛ばした。
それは悲鳴をあげて地面に倒れる。
俺は彼女に駆け寄った。
「ルーシー!」
ルーシーを認識した機動ロボは、緊急停止信号を受けて、その動作を停止させる。
「ヘラルド、こっちだ」
ニールは倒れたルーシーの腕をつかむと、彼女を引きずりあげる。
「どこへ行くんだ」
「ジャンを助ける」
切れた口の端から血を流し、ジャンは人工芝の上にうずくまっていた。
その周囲を、ぐるりと機動ロボが取り囲む。
ディーノはその中心に立っていた。
ニールはルーシーを、背後から一体のロボットにぶつける。
ガクンという音を立てて、機能を停止したロボットは、ただの金属の塊と化した。
そのルーシーを、すぐに隣のロボットめがけて突き飛ばす。
「ルーシー!」
全てのロボットが、動きを止めた。
ニールが彼女の腕をつかむより早く、ディーノがその手を引き寄せる。
「何をやってる!」
ニールはそのまま、二人に体をぶつけた。
ルーシーを抱きかかえたディーノは、そのまま後方に突き飛ばされ、起立した巨大ロボにぶつかる。
傾いた機体は、隣のロボットに向かって倒れた。
「危ない!」
ディールは、ルーシーをロボットたちの外に投げ飛ばした。
うずくまったジャンの上に、一体の機体が影を落とす。
ディーノはその下にもぐり込むと、ロボットを支えた。
ニールが、ジャンを連れて外に出る。
そのディールの上に、さらにもう一体のロボットが倒れ込んだ。
物理的に、肉と骨の潰れる音が、脳内に響く。
水はけがよいはずのフィールドの上に、赤くねっとりとした液体が広がる。
空気中に広がったその成分に反応して、全てのロボットたちが緊急警報を鳴らした。
「ディーノ!」
イヴァの悲鳴が、フィールドに響く。
彼女の強拳が、ニールの顎を割った。
「やめろイヴァ! マスクをつけろ!」
天井付近から、ヴォウェンの声が聞こえる。
大きな作動音がして、競技場のエアコンが動き出した。
「鎮静ガスだ!」
甘いにおいが、気流に乗って流れ出す。
イヴァはディーノの体へ駆け寄り、俺たちはガスから逃げるように、競技場を後にした。
イヴァは機動ロボたちに、何かの指示を追加した。
迷路の外に待機していたロボットたちが動き出す。
「禁則条件は変更しないの?」
「相変わらず気が早いな」
ディーノが笑った。
新しく投入された機動ロボは、迷路の通路幅に合わせて、体型をコンパクトな車両型に変形させていた。
搭載された電子銃で、仲間の乗るバイクを狙い撃つ。
「災害救助モードに入れかえるわよ」
ディーノとイヴァは、迷路の外、フィールドの隅でライド型の機動ロボに搭乗し、他のロボットたちの操作をしている。
「そこにいるあんたたちも、怪我をしてる仲間を優先して助けてあげなさい」
拡声器から、イヴァのため息が聞こえる。
撃ち落とされた機体の下になった仲間の元に、機動ロボが近寄る。
片腕で機体を持ちあげると、もう一本のアームで体をつまみあげた。
そうなると、人間が体当たりしても、機能を一時停止させたりはしない。
ぶつかってきた仲間を共につまみあげると、フィールドの外に運び始めた。
イヴァの機体が、ディーノの機体に近寄る。
拡声器やマイク越しではない、直接の会話をしようと、二人の距離が縮まった。
今だ!
俺は、スイッチを押した。
可動式の床面が動き出す。
フィールド上の機動ロボたちは、自身のバランスをとるために、そのハイスペックな演算処理能力を分散させた。
わずかな時間、彼らの動きが止まる。
その瞬間、仲間たちが自分の体をぶつけた。
「バカね」
イヴァのため息が聞こえる。
人間に衝突された機体は、バランスを保ったまま静かにアームを下ろすと、足元にしがみついた人間を拾い上げた。
「これがスクールの警備ロボと、キャンプベースの機動ロボの違いよ。あなたたちがいつもからかって遊んでいたのが、どんなおもちゃだったか、よく分かったでしょ」
つまみ上げた人間を次々と運び出し、収監し終えると、再びフィールドに戻ってくる。
「さ、お仲間の数が半分に減ったわよ。まだ続ける気?」
ディーノが、標準を動き回るジャンの機体に合わせた。
ドンッという発射音と共に、撃ち落とされる。
「ジャン!」
落下する機体から、彼はふわりと地上に飛び降りた。
「悪いが、そろそろ勤務終了時刻が迫ってるんだ」
ディーノは機体から飛び降りると、その足でフィールドを蹴った。
俺が操作していないのに、床板が動きだす。
操作回路をとられた巨大迷路が、床下に消えた。
ディーノの体が、ジャンの目の前に飛び出す。
ジャンは手にしていた強制終了棒を振りかざした。
ディーノはそれを片腕で受け止めると、ジャンの下腹に強く拳を打ち込む。
「対人の喧嘩には慣れてないから、こうなっちゃうのは仕方ないよなぁ」
ふらつくジャンの前で、彼は指を鳴らした。
「人間同士が直接殴り合うなんて、信じられないだろ? だけどな、それをロボットに許すわけにはいかないってんで、最後は生身の人間が必要なんだよ」
ジャンは姿勢を立て直し、細く長い警棒を構える。
「人間同士で傷つけ合っていいなんて、習ってないもんな」
その警棒の先を、ディーノがつかんだ。
彼の長い足が、真横に飛ぶ。
「『子ども』は、あんまり見ない方がいい」
俺の目の前に、機動ロボが立ちふさがった。
アームが伸びる。
俺はその横をすり抜けて、走り出した。
それに伴走するかのように、半分の高さになった機動ロボがついてくる。
逃げ出した子どもを捕まえようとする大人のように、両腕を広げたロボットが、ゆっくりと近づいてくる。
そのロボットに抱きつくように、俺はしがみつく。
ロボットは俺たちを決して傷つけることのないよう、機能を停止して完全な受け身になる。
動きをとめたその隙に、俺はまた走り出し、ロボットたちも追いかけっこを再開する。
完璧なまでに、移動速度を一致させたロボットから、アームが伸びた。
「ヘラルド!」
ニールが何かをこちらへ突き飛ばした。
それは悲鳴をあげて地面に倒れる。
俺は彼女に駆け寄った。
「ルーシー!」
ルーシーを認識した機動ロボは、緊急停止信号を受けて、その動作を停止させる。
「ヘラルド、こっちだ」
ニールは倒れたルーシーの腕をつかむと、彼女を引きずりあげる。
「どこへ行くんだ」
「ジャンを助ける」
切れた口の端から血を流し、ジャンは人工芝の上にうずくまっていた。
その周囲を、ぐるりと機動ロボが取り囲む。
ディーノはその中心に立っていた。
ニールはルーシーを、背後から一体のロボットにぶつける。
ガクンという音を立てて、機能を停止したロボットは、ただの金属の塊と化した。
そのルーシーを、すぐに隣のロボットめがけて突き飛ばす。
「ルーシー!」
全てのロボットが、動きを止めた。
ニールが彼女の腕をつかむより早く、ディーノがその手を引き寄せる。
「何をやってる!」
ニールはそのまま、二人に体をぶつけた。
ルーシーを抱きかかえたディーノは、そのまま後方に突き飛ばされ、起立した巨大ロボにぶつかる。
傾いた機体は、隣のロボットに向かって倒れた。
「危ない!」
ディールは、ルーシーをロボットたちの外に投げ飛ばした。
うずくまったジャンの上に、一体の機体が影を落とす。
ディーノはその下にもぐり込むと、ロボットを支えた。
ニールが、ジャンを連れて外に出る。
そのディールの上に、さらにもう一体のロボットが倒れ込んだ。
物理的に、肉と骨の潰れる音が、脳内に響く。
水はけがよいはずのフィールドの上に、赤くねっとりとした液体が広がる。
空気中に広がったその成分に反応して、全てのロボットたちが緊急警報を鳴らした。
「ディーノ!」
イヴァの悲鳴が、フィールドに響く。
彼女の強拳が、ニールの顎を割った。
「やめろイヴァ! マスクをつけろ!」
天井付近から、ヴォウェンの声が聞こえる。
大きな作動音がして、競技場のエアコンが動き出した。
「鎮静ガスだ!」
甘いにおいが、気流に乗って流れ出す。
イヴァはディーノの体へ駆け寄り、俺たちはガスから逃げるように、競技場を後にした。
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