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第2章
第2話
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「殿下! 祈りを終えたばかりの聖女たちに、休息を与えてくださいませ。彼女たちは疲れております」
「あぁ、これは失礼。配慮が足りませんでしたね。では少しお休みなされた後、午後にでもお約束できますか。エマさまがお忙しいようでしたら、他の方にでもお願いしたいのですが……」
彼は紅い目で、そこに居並ぶ聖女たちをぐるりと見渡す。
獲物を狙うかのような鋭い目が、一人の聖女の前で止まった。
エマお姉さま付きの聖女たちだ。
その能力も人柄も保証されている。
「あなたのお名前は?」
彼女に向かって差し伸べられた手を、代わりにパッと掴む。
私はアプリコット色の髪を、バサリと後ろになぎ払った。
「殿下。ですから第一王子のお相手を、祈りを終えたばかりの聖女に務めさせるには、荷が重すぎるとさっきから言っているのです。私でよければ、いくらでもお相手いたしますけど?」
腰に手を当て、大きな顔で盛大にふんぞり返ってやる。
周囲からクスクスという微かな笑いが起きた。
たとえ笑われたって、そんなことはどうだっていい。
彼女たちをこの人から守るためなら、お安いごようだ。
「それは失礼いたしました。なるほど。勤めを終えたばかりの聖女さまには、休息が必要です。ですが、あなたに私の相手をお願いしてもよろしいのですか? ルディさま」
若干迷惑そうな顔をして、にっこりと笑顔で拒絶しようたって、そうはいかないんだから。
「もちろんでしてよ。私でよろしければ、よろこんでお相手いたしますわ」
「では、お願いいたします」
ツンと突き返した私に、エマお姉さまが耳元でささやく。
「どうしたのルディ。殿下にどこか、あなたの気を引くようなところでもあるの?」
「いいえ! そんなの、どこにもありませんわ」
「でしたら、他の方にお願いすれば……」
「お姉さま。だってリシャールさまは、とっても可哀想なのですもの。お姉さまにプロポーズしてお断りされたばかりなのを、少しでもお慰めさしあげたくて」
辺りに聞こえるよう、ワザと大きな声をあげて話しているのに、彼は顔色一つ変えること無く、にこにことすましている。
リシャールの相手を全く譲る気のない私に、お姉さまも諦めたようだ。
「ルディ。ほどほどにね」
「当然です。ちゃんと分かっていますわ。お姉さま」
聖女たちの一団が引き上げるのを見届けると、対決を前に気合い十分に鼻を鳴らす。
「さぁ、リシャールさま。この私が今からいくらでもお相手いたしますわ。どこを案内してさしあげましょうね」
「それでは、聖女たちの慰霊碑へ」
彼の言葉に、ハッと我に返る。
そんなところへ、自ら訪ねたいと申し出る客人なんて、今まで誰もいなかった。
「なぜそのようなところに?」
「なぜって、いけませんか」
燃えるような紅い目が、今は灯火のように伏し目がちに微笑む。
「ブリーシュア城内なら、まず初めにそこを尋ねるのがいいとずっと思っていたのです」
彼がどんな人であろうとも心からそれを望むなら、私も真摯に応えようと思う。
「分かりました。案内いたします」
朝の光が降り注ぐ世界樹の庭を、静かに後にする。
祈りの時間しか立ち入ることの出来ないその庭には、番兵によってすぐに門が卸された。
その特別な庭を囲む広い植物園の片隅に、聖女たちの慰霊碑はひっそりと建てられている。
そうと知らなければ誰もが見過ごすような、小さな石版のモニュメントだ。
「ここに咲く花を添えても?」
私がうなずくと、リシャールは慰霊碑を囲む生け垣に咲いた白い花を手折る。
それをそっと石版の上に重ねた。
ここには特定の誰かが眠っているわけではない。
世界樹に祈り続けることで、自らの命を捧げた全ての聖女たちを弔う碑だ。
彼はその前で静かに膝を折ると、両手を組み祈りを捧げている。
私もその隣で、静かに目を閉じた。
「私は聖女という役割を担う彼女たちに、敬意を示さずにはいらないのです」
「それは私も同感ですわ」
あたたかな光りが降り注ぐ。
今でこそ「聖女」などと呼ばれ大切にされているが、過去には奴隷のようにも扱われてきた者たちだ。
黙祷を済ませたリシャールは立ち上がる。
「ルディ。それはあなたに対しても、同じ気持ちですよ。聖堂に通い樹の守り姫となる決意をなさることは、王族の勤めとはいえ、勇気のいることです」
彼は私の手を取ると、しっかりと握りしめた。
紅い目に穏やかな光りが灯る。
「あなたが聖堂へ入る決意をされた時の話を、お聞かせくださいませんか。どんな屈強な男にも為しえぬことをなさるあなた方の話を聞くことは、私の楽しみの一つなのです」
強く握られたその感触の分だけ、私の心は重くなる。
「あの。申し訳ないのですけど……」
「はい。なんでしょう」
「あなたがお姉さまにプロポーズした本意を知らなかった私なら、よろこんでお話したでしょうけど、本心を知ってしまった今では、そのお言葉を素直に聞くことも出来ませんの」
聖女たちを守るためなら、誤解されたままの方がいいのかもしれない。
そうすれば、被害も小さくていい。
悪者になるのなら、自分一人で十分だ。
彼の手から、ゆっくりと自分の手を引き抜く。
「他に、城内で案内してほしいところはございますか?」
「では、聖女見習いの集う聖堂へ」
彼は今度こそ、はっきりと好奇心丸出しの笑みを浮かべた。
にこにこと無邪気を装った愛想笑いを浮かべたって、そんなものには騙されません!
「あぁ、これは失礼。配慮が足りませんでしたね。では少しお休みなされた後、午後にでもお約束できますか。エマさまがお忙しいようでしたら、他の方にでもお願いしたいのですが……」
彼は紅い目で、そこに居並ぶ聖女たちをぐるりと見渡す。
獲物を狙うかのような鋭い目が、一人の聖女の前で止まった。
エマお姉さま付きの聖女たちだ。
その能力も人柄も保証されている。
「あなたのお名前は?」
彼女に向かって差し伸べられた手を、代わりにパッと掴む。
私はアプリコット色の髪を、バサリと後ろになぎ払った。
「殿下。ですから第一王子のお相手を、祈りを終えたばかりの聖女に務めさせるには、荷が重すぎるとさっきから言っているのです。私でよければ、いくらでもお相手いたしますけど?」
腰に手を当て、大きな顔で盛大にふんぞり返ってやる。
周囲からクスクスという微かな笑いが起きた。
たとえ笑われたって、そんなことはどうだっていい。
彼女たちをこの人から守るためなら、お安いごようだ。
「それは失礼いたしました。なるほど。勤めを終えたばかりの聖女さまには、休息が必要です。ですが、あなたに私の相手をお願いしてもよろしいのですか? ルディさま」
若干迷惑そうな顔をして、にっこりと笑顔で拒絶しようたって、そうはいかないんだから。
「もちろんでしてよ。私でよろしければ、よろこんでお相手いたしますわ」
「では、お願いいたします」
ツンと突き返した私に、エマお姉さまが耳元でささやく。
「どうしたのルディ。殿下にどこか、あなたの気を引くようなところでもあるの?」
「いいえ! そんなの、どこにもありませんわ」
「でしたら、他の方にお願いすれば……」
「お姉さま。だってリシャールさまは、とっても可哀想なのですもの。お姉さまにプロポーズしてお断りされたばかりなのを、少しでもお慰めさしあげたくて」
辺りに聞こえるよう、ワザと大きな声をあげて話しているのに、彼は顔色一つ変えること無く、にこにことすましている。
リシャールの相手を全く譲る気のない私に、お姉さまも諦めたようだ。
「ルディ。ほどほどにね」
「当然です。ちゃんと分かっていますわ。お姉さま」
聖女たちの一団が引き上げるのを見届けると、対決を前に気合い十分に鼻を鳴らす。
「さぁ、リシャールさま。この私が今からいくらでもお相手いたしますわ。どこを案内してさしあげましょうね」
「それでは、聖女たちの慰霊碑へ」
彼の言葉に、ハッと我に返る。
そんなところへ、自ら訪ねたいと申し出る客人なんて、今まで誰もいなかった。
「なぜそのようなところに?」
「なぜって、いけませんか」
燃えるような紅い目が、今は灯火のように伏し目がちに微笑む。
「ブリーシュア城内なら、まず初めにそこを尋ねるのがいいとずっと思っていたのです」
彼がどんな人であろうとも心からそれを望むなら、私も真摯に応えようと思う。
「分かりました。案内いたします」
朝の光が降り注ぐ世界樹の庭を、静かに後にする。
祈りの時間しか立ち入ることの出来ないその庭には、番兵によってすぐに門が卸された。
その特別な庭を囲む広い植物園の片隅に、聖女たちの慰霊碑はひっそりと建てられている。
そうと知らなければ誰もが見過ごすような、小さな石版のモニュメントだ。
「ここに咲く花を添えても?」
私がうなずくと、リシャールは慰霊碑を囲む生け垣に咲いた白い花を手折る。
それをそっと石版の上に重ねた。
ここには特定の誰かが眠っているわけではない。
世界樹に祈り続けることで、自らの命を捧げた全ての聖女たちを弔う碑だ。
彼はその前で静かに膝を折ると、両手を組み祈りを捧げている。
私もその隣で、静かに目を閉じた。
「私は聖女という役割を担う彼女たちに、敬意を示さずにはいらないのです」
「それは私も同感ですわ」
あたたかな光りが降り注ぐ。
今でこそ「聖女」などと呼ばれ大切にされているが、過去には奴隷のようにも扱われてきた者たちだ。
黙祷を済ませたリシャールは立ち上がる。
「ルディ。それはあなたに対しても、同じ気持ちですよ。聖堂に通い樹の守り姫となる決意をなさることは、王族の勤めとはいえ、勇気のいることです」
彼は私の手を取ると、しっかりと握りしめた。
紅い目に穏やかな光りが灯る。
「あなたが聖堂へ入る決意をされた時の話を、お聞かせくださいませんか。どんな屈強な男にも為しえぬことをなさるあなた方の話を聞くことは、私の楽しみの一つなのです」
強く握られたその感触の分だけ、私の心は重くなる。
「あの。申し訳ないのですけど……」
「はい。なんでしょう」
「あなたがお姉さまにプロポーズした本意を知らなかった私なら、よろこんでお話したでしょうけど、本心を知ってしまった今では、そのお言葉を素直に聞くことも出来ませんの」
聖女たちを守るためなら、誤解されたままの方がいいのかもしれない。
そうすれば、被害も小さくていい。
悪者になるのなら、自分一人で十分だ。
彼の手から、ゆっくりと自分の手を引き抜く。
「他に、城内で案内してほしいところはございますか?」
「では、聖女見習いの集う聖堂へ」
彼は今度こそ、はっきりと好奇心丸出しの笑みを浮かべた。
にこにこと無邪気を装った愛想笑いを浮かべたって、そんなものには騙されません!
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