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第7章
第4話
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「不思議。ここでこうして並んで座ることがあるなんて、思いもしなかったですわ」
「明後日にはレランドへ戻る。こうしてゆっくり話す機会は……。いくらでもあるか」
紅い目が笑っている。
もう会えなくなるのは分かっている。
だからそんなことを言うのね。
「そうよ。望めばいつでも会えるわ」
「はは。ならよかった」
扇を広げ、笑った口元を隠すフリをして顔を埋める。
扇を持っていてよかった。
今にも泣き出しそうな顔を、夜の闇と一緒に隠せるから。
「初めてこの城で出会った時、もちろん俺の目的はエマさまだった。だけど君がいるなら、それでいいと思った。エマさまは予想通り素晴らしく美しい人で、一瞬で心を奪われた。だけどルディ、君がレランドに来てくれるなら、それでいいと思ったんだ」
「だけど私は、あなたの望む人ではなかったでしょう?」
「……。それは、そうなんだが……」
言いよどむ彼に、にっこりと微笑んで見せる。
こうして会いに来てくれただけで、十分だ。
彼の特別な人になれなくても、私にとってあなたは、いつまでも変わらずそこにある人。
「私も殿下のことが……。好きになりました。それはもちろん、最初はなんて酷い人だろうと思いましたけど、それも誤解だと分かったからです。あなたの聖女を思う心と、国を思う心が本物だと知れたからです」
だからこそあなたには、私じゃ駄目だったのだ。
触れたくても触れられなかった髪に手を伸ばす。
初めて触れた紅い髪は、想像よりずっとつるつるとひんやりしていた。
指に絡ませようとしても、するりとほどけてしまう。
「どうかこの先、殿下にもよい人が現れますように。あなたの幸せを、心より祈っております」
両手の指を組み、世界樹へ祈るように彼に祈る。
目を閉じたのは、こぼれそうな涙を押し戻すため。
「君はこれからどうする? 聖堂の管理者を続けるのか?」
「お姉さまに手伝いを頼まれております。きっともうあの灰色の制服を着ることはないでしょう」
彼はとても驚いたような顔をして、すぐに横顔を向けた。
怒っているように見えるのは、きっと私の気のせい。
「殿下も本国にもどれば、忙しい日々が待っているのでしょう?」
「だろうな。きっと忙しすぎて、すぐに君のことも忘れるだろう。君がそうやって忘れようとしているように」
「忘れろと言ったのは、あなたの方ですけど」
「俺がいつそんなことを言った?」
「まぁ、そんなことももう忘れてるのね」
「どうすれば分かってもらえる? 俺が本気だったってことを」
「お姉さまへのプロポーズ、とても素敵でした」
「そうじゃないだろ!」
あなたはそうじゃなくても、それが現実だ。
私は聖女にはなれない。
だからそういうことにしておかないと、この恋は報われない。
「残念ながら、今回はこの国の聖女を差し上げることは出来ませんでしたが、またお越しくださいませ。その時には、殿下と寄り添えあえるような乙女が、聖堂にいるかもしれませんわ。そしたらその方が殿下の花嫁候補として、共に……」
「聖女かどうかなんて、関係なかったんだ」
冷たい夜の風に彼の温かな手が私の頬に触れ、唇に触れる。
「それでも君がそう思うのなら、そうだったのだろうな。俺はその誤解を解いておきたかっただけだ」
そっと胸に抱き寄せられる。
わずかに触れた頬が燃えあがる炎のような熱を持ち、彼の心臓を高鳴らせていた。
「私だって、聖女に生まれたかった……」
呟いた肩を、彼はもう一度強く抱きしめる。
「君が何者だろうと、もう俺には関係ないんだ」
「ありがとう。リシャール」
白く広い胸に顔を埋める。
激しく打ち付ける彼の心音の記憶が、これからの私を慰めてくれる。
「エマお姉さまとは、何をお話したの?」
「君を泣かすことは許さないって。ルディをレランドには渡せないって、そう言われた」
「聖女でもないのに?」
「聖女でなくてもだ」
抱き寄せる彼の手が、私の髪をかき上げる。
このまま「好きだ」と言ってしまえたら、どれほど楽になれるだろう。
「元気でね。あなたにはあなたの役目があるように、私にも私の役割がある。私はここで、お姉さまを手伝うわ。あなたはあなたで、どうか思うままに、望む道を進んでね」
手を伸ばし、彼の唇に触れる。
その形の確かめるように、指の先で輪郭をなぞった。
次にこの人が触れるのは、どんな令嬢のどんな髪だろう。
どんな柔らかな手に、この唇からキスを落とすのだろう。
「さようなら」
背を伸ばし、そっとキスをする。
誰かの唇が、こんなに柔らかいなんて知らなかった。
ドレスの裾を持ち上げ、逃げるように東屋を後にする。
涙があふれ出す前に、彼の元を去りたかった。
泣いている姿なんて、見せたくなかった。
もつれそうな足を必死で動かす。
今にも転んでしまいそうな体で、ようやく自室にたどり着いた。
ベッドに倒れ込む。
誰もいないことが確かな部屋で、声を上げて泣いた。
「明後日にはレランドへ戻る。こうしてゆっくり話す機会は……。いくらでもあるか」
紅い目が笑っている。
もう会えなくなるのは分かっている。
だからそんなことを言うのね。
「そうよ。望めばいつでも会えるわ」
「はは。ならよかった」
扇を広げ、笑った口元を隠すフリをして顔を埋める。
扇を持っていてよかった。
今にも泣き出しそうな顔を、夜の闇と一緒に隠せるから。
「初めてこの城で出会った時、もちろん俺の目的はエマさまだった。だけど君がいるなら、それでいいと思った。エマさまは予想通り素晴らしく美しい人で、一瞬で心を奪われた。だけどルディ、君がレランドに来てくれるなら、それでいいと思ったんだ」
「だけど私は、あなたの望む人ではなかったでしょう?」
「……。それは、そうなんだが……」
言いよどむ彼に、にっこりと微笑んで見せる。
こうして会いに来てくれただけで、十分だ。
彼の特別な人になれなくても、私にとってあなたは、いつまでも変わらずそこにある人。
「私も殿下のことが……。好きになりました。それはもちろん、最初はなんて酷い人だろうと思いましたけど、それも誤解だと分かったからです。あなたの聖女を思う心と、国を思う心が本物だと知れたからです」
だからこそあなたには、私じゃ駄目だったのだ。
触れたくても触れられなかった髪に手を伸ばす。
初めて触れた紅い髪は、想像よりずっとつるつるとひんやりしていた。
指に絡ませようとしても、するりとほどけてしまう。
「どうかこの先、殿下にもよい人が現れますように。あなたの幸せを、心より祈っております」
両手の指を組み、世界樹へ祈るように彼に祈る。
目を閉じたのは、こぼれそうな涙を押し戻すため。
「君はこれからどうする? 聖堂の管理者を続けるのか?」
「お姉さまに手伝いを頼まれております。きっともうあの灰色の制服を着ることはないでしょう」
彼はとても驚いたような顔をして、すぐに横顔を向けた。
怒っているように見えるのは、きっと私の気のせい。
「殿下も本国にもどれば、忙しい日々が待っているのでしょう?」
「だろうな。きっと忙しすぎて、すぐに君のことも忘れるだろう。君がそうやって忘れようとしているように」
「忘れろと言ったのは、あなたの方ですけど」
「俺がいつそんなことを言った?」
「まぁ、そんなことももう忘れてるのね」
「どうすれば分かってもらえる? 俺が本気だったってことを」
「お姉さまへのプロポーズ、とても素敵でした」
「そうじゃないだろ!」
あなたはそうじゃなくても、それが現実だ。
私は聖女にはなれない。
だからそういうことにしておかないと、この恋は報われない。
「残念ながら、今回はこの国の聖女を差し上げることは出来ませんでしたが、またお越しくださいませ。その時には、殿下と寄り添えあえるような乙女が、聖堂にいるかもしれませんわ。そしたらその方が殿下の花嫁候補として、共に……」
「聖女かどうかなんて、関係なかったんだ」
冷たい夜の風に彼の温かな手が私の頬に触れ、唇に触れる。
「それでも君がそう思うのなら、そうだったのだろうな。俺はその誤解を解いておきたかっただけだ」
そっと胸に抱き寄せられる。
わずかに触れた頬が燃えあがる炎のような熱を持ち、彼の心臓を高鳴らせていた。
「私だって、聖女に生まれたかった……」
呟いた肩を、彼はもう一度強く抱きしめる。
「君が何者だろうと、もう俺には関係ないんだ」
「ありがとう。リシャール」
白く広い胸に顔を埋める。
激しく打ち付ける彼の心音の記憶が、これからの私を慰めてくれる。
「エマお姉さまとは、何をお話したの?」
「君を泣かすことは許さないって。ルディをレランドには渡せないって、そう言われた」
「聖女でもないのに?」
「聖女でなくてもだ」
抱き寄せる彼の手が、私の髪をかき上げる。
このまま「好きだ」と言ってしまえたら、どれほど楽になれるだろう。
「元気でね。あなたにはあなたの役目があるように、私にも私の役割がある。私はここで、お姉さまを手伝うわ。あなたはあなたで、どうか思うままに、望む道を進んでね」
手を伸ばし、彼の唇に触れる。
その形の確かめるように、指の先で輪郭をなぞった。
次にこの人が触れるのは、どんな令嬢のどんな髪だろう。
どんな柔らかな手に、この唇からキスを落とすのだろう。
「さようなら」
背を伸ばし、そっとキスをする。
誰かの唇が、こんなに柔らかいなんて知らなかった。
ドレスの裾を持ち上げ、逃げるように東屋を後にする。
涙があふれ出す前に、彼の元を去りたかった。
泣いている姿なんて、見せたくなかった。
もつれそうな足を必死で動かす。
今にも転んでしまいそうな体で、ようやく自室にたどり着いた。
ベッドに倒れ込む。
誰もいないことが確かな部屋で、声を上げて泣いた。
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