エルグリムの悪夢~転生魔王は再び世界征服を目指す~

岡智 みみか

文字の大きさ
22 / 27
第8章

第1話

しおりを挟む
 削り出した岩の形を、そのまま生かした巨城の中へ入ってゆく。

結界がさらに強化されている。

俺は自分の身を保つための魔法を強化した。

そうでなければ、このまま中には入れない。

すぐにでも体が溶け出しそうだ。

城周辺の施設は跡形もなく破壊されていたが、内部は比較的、そのままに残されているようだった。

まぁ、どこに悪夢が隠されているのか分からないのだから、仕方ないか。

磨き上げられた黒い床石は、歩き回るザコどものせいで、すっかりくすんでいる。

そのエントランスにあたる大ホールを、ディータとフィノーラは見上げた。

「すっげぇな。なんだこのホール!」

「天上は吹き抜けになってるのね」

「巨大なドラゴンやモンスターたちが、ひっきりなしに出入りしていたんだ。比較的間口は、広く作られていたんだよ」

 ここへ初めて、フレアドラゴンを連れ込んだ時は楽しかったな。

鎖に繋ぎ引きずられ、大暴れしたんだ。

おかげで装飾の何もかもが壊され、以来ずっとそのままだ。

散々見世物にして楽しんだ後で、なぶり殺した。

あの時の恨めしそうな目は、いまだに覚えている。

あの怒りと苦しみに満ちた目は、アイツが一番だった。

それにしても聖騎士団のやつらも、ついでに壁の壊れたところも、直しておいてくれればいいのに。

コイツら、そういうことはしないんだなぁ。

「計画的なのか全くの考えなしか。この山脈の中といい地下といい、全てが複雑なダンジョンになっていて、未だにその全てが攻略されていない。与えられた地図は、現在分かっているところまでのものだ。俺たちの指命は、このダンジョンの全貌解明でもある」

「なんで大賢者ユファさまは、直接捜索しないんだ? その方が早いだろ」

「お忙しい方なんだ。他にやるべきことが、沢山おありになる」

 フン。そうか。

ということは、本当にまだ悪夢は見つかっていないし、そこにかけておいた術も、解かれていないということだ。

だからユファと生き残ったかつての仲間たちは、この城に入れない。

「気分は悪くない?」

 フィノーラが話しかけてくる。

「ここの空気、確かに悪いわ。エルグリムはまだ死んでない、滅んでないって、ようやく分かった。ここに来た今なら、それが理解できる」

「だよな。ここにはまだ、魔王の力が残っている。これこそが確かな、生きている証だ」

 黒い城内に、外からの光りが降り注ぐ。

俺はようやく居城に戻ってきた感激に、全身が震えている。

この城は、俺とその仲間たちで造ったんだ。

地下のダンジョンも、ほぼ覚えている。

「なんだナバロ。怖ぇのか?」

 ディータの言葉に、イバンは微笑む。

「恐れることはない。ここに魔王はいない。私たちといれば、絶対に大丈夫だ」

「そうだね、イバン。みんなと一緒に居れば、きっと大丈夫だ」

 通路には、所々にロープが張られていた。

地図を見ると、シロと判断された所を区切っているらしい。

その案内に従って、奥へ奥へと進む。

「こんな大きな城で、エルグリムは一人で暮らしていたのかしら」

「常に大勢の魔物たちが仕えていた。今、グレティウスで採れる魔法石は、全てその魔物たちに与えられていた魔力が、石化したものだと言われている」

「だとしたら、本当に凄い魔力の持ち主だったんだな。人間じゃねぇ」

「血の通った人間は、何百年も生きたりはしないし、あんな残酷非道な真似も出来ない」

 黒い城の、城下町を見下ろす通路を抜け、野外の崖上に設置された祭壇横を通る。

空に突き出たその場所には、灯籠と台座がまだ残されていた。

「ここが処刑場跡だ」

「最悪。何人もの人が殺されたんでしょう?」

「何百、何千って話しじゃなかったか?」

「かつてこの地に繁栄した国王にその妃たち、王子、王女、王族に並ぶ騎士や貴族たち。僧侶や名だたる名君も、戦士たちも全て、ここで殺され魔物たちに生け贄として与えられた」

「酷い」

「まだ流された血の跡が残っているんだな」

 泣いて命乞いをする者、寝返りを誓う者、歯を食いしばり、苦痛と恐怖に耐える者。

色々だ。

滴り落ちた血はそこから崖を伝い、流れる川を赤く染めた。

「つーか、武器の携帯が必要ってことは、まだ魔物が潜んでるってことか?」

「ガイダンスをちゃんと聞いていなかったのか。報告数は少ないが、ゼロではない。怪我人や死者も出ている」

「悪夢発見の内部抗争じゃなくて?」

 ディータはそう言って、ニヤリと口角を上げる。

イバンはそれを無視し、淡々と答えた。

「発見の報告はまだない。そこに悪夢はなかったし、討伐されたモンスターの死骸も回収されている。ここに残る魔力の残余が、それらを呼び寄せているんだ」

 俺自身が自分の体を保つのさえやっとなんだ。

他の魔物たちは、とうていこの結界の中には入れまい。

さらに奥へと進む。

かつて舞踏会が開かれた大広間を横切り、美術品をいくつも並べた展示室脇を通る。

そこに飾られていたはずの、かつての国王たちの頭蓋骨や宝剣は、すでにない。

あの光り輝く宝石や王冠、首飾りはどうした? 

まさか全て処分されたとも考えにくい。

ユファどもが奪ったのか? 

あの白くピカピカと光る、新しい立派な中央議会の館へ、移されたのか……。

「どうした、ナバロ?」

 イバンの問いかけに、我に返る。

気づけばフィノーラとディータも、じっとこっちを見ていた。

「いや、何でもない」

 再び歩き出す。

大食堂から厨房を抜け、控えの間の、前を通った。

地図を頼りに進むイバンが、廊下の角を曲がる。

「こっちは?」

 俺が指で示した方向には、規制線のロープが張られていた。

分からないように何重にもマジックバリアまで仕掛けられていて、随分ご大層に侵入を禁止している。

「そこは……。なんだろうな。地図でも立ち入り禁止区域に指定されている。過去になにか、事件があったのかもしれない」

 その言葉に、フィノーラの顔に不安がよぎる。

「モンスターが出たとか?」

「殺された兵士たちの、怨霊なのかもしれないぜ。ナバロには分かるか?」

 ディータは俺を振り返った。

「いや……。イバンに聞けよ」

「私にも、そこまでは分からない。先を急ごう。この城はとてつもなく広い」

 図書館だ。

この先には、世界各国から集めた、様々な書物や珍しい資料を集めた博物館もあった。

確かにそれらには一つ一つ魔法をかけ、持ち出されないようにはしていたが、それはさっき見た宝石類に関しても同じことだ。

なのにここだけを封じているとは、どういうことだ? 

残っていた備品や装飾品は跡形もないのに……。

もしかして、そのままにされている? 

すぐにでも行って確かめたいが、今はそれが出来ない。

魔力を使う、余力がない。

奪われたものの大きさに、ギリギリと歯を食いしばる。

「……。なにもかも、全て取り戻すんだ……」

「そうよ、ナバロ。私たちはもう、誰にも支配されない。奪われない」

「大魔王の息の根を、完全に止めるためにここまで来たんだ」

 フィノーラは決意を固め、ディータはニヤリと微笑む。

イバンは力強くうなずいた。

「その通りだよ、ナバロ」

 さらに奥へと進む。

イバンの地図を見ると、俺のプライベートゾーンだった場所は、立ち入り禁止区域に指定されていた。

あの快適で過ごしやすかった俺の部屋は、どうなっているのか。

捕らえて飼っていたお気に入りの人魚やハルピュイアたちも、聖騎士団に皆殺しか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...