18時12分の金曜日

岡智 みみか

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 スマホのアラームで目を覚ます。
部屋の広さより駅近の利便性で選んだワンルームマンションには、シングルベッドが一つ。
ネットで見つけたお気に入りのローチェストと、背の低い丸テーブルを並べれば、ソファを置く余裕はないから、ちょっといい座椅子を買った。
いくら仕事が忙しくても、部屋の中だけは散らかさないようにと、心に決めている。

 三分おきに設定したスヌーズの二回目で起きるのも、いつものパターン。
もそもそと布団から這い出すと、ベッドに腰を下ろしたまま、大きく伸びをした。
立ち上がり、一番最初にすることはキッチンでお湯を沸かすこと。

 最近買った白いケトルは、本当に可愛くて便利でお気に入り。
朝はちゃんと食べたい派だけど、今朝はコーヒーとシリアルバーだけですます。
水色のマグカップにいれた、たっぷりのコーヒーにミルクを注ぐと、大豆バーの袋を開けた。
サクリとした食感をかみしめる。
それを口にくわえたまま、全身を映す鏡の前に立った。

 くねくねと体を左右上下にひねり、見よう見まねのモデルポーズを決める。
最近ちょっと太ってきたんだよね。
ダイエットしなくちゃ。
お腹のお肉をつまんでは引っ張って放すを繰り返す。
体重を戻すなら、増えた時にさっさと戻すこと。
早めが肝心。

「それに……。ねぇ?」

 この日が来るのを、ちょっと前から楽しみにしていた。
いつもはパパッと済ませるメイクも、今日くらいは時間をかけなくちゃ。
空になったマグカップをさっと洗うと、洗面所に立てこもる。
着ていく服は、昨日の夜から決めておいたんだよね。
先週末に買ったばかりの、落ち着いた白とブルーのワンピース。
ぎりぎりお仕事着でありながら、デート服にもなりそうなところを攻めてみた。
メイクの仕上げに新色リップをバッチリ決めたら、顔は完成。

「ふふ。これでまた私に惚れ直しちゃうかもよ?」

 ここまでは完璧。
次はヘアメイクだ。
短く切ったショートヘアの髪を、トリートメントワックスでふんわり持ち上げ、左右に流れをつけたらおしまい。
鏡の前で上手くいった仕上がり具合に満足し、永遠にそれを眺めていたら、いつの間にか出社する時間になっていた。
メイクポーチに生理用品、ハンカチ、ティッシュとハンドクリーム。
グミと付箋。
必要なものが全て詰め込まれた通勤バッグを手に取ると、家を飛び出した。

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