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第9章
第2話
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「ここで舞踏会を開くんだ。その招待状をデュレー公爵家に送ればいい」
「シモンの? この別邸で?」
「そう、ホストはシモンだ」
「そんな! それじゃ、デュレー公爵は来ないわ。お詫びになんてならないじゃない」
「僕が行ったところで、どうせうやむやにだれるだけだ」
身分が違う。
シモンの家は伯爵家だ。
当主であるシモンのお父さまがホストになるのならともかく、この別邸でシモン自身がホスト役となるのなら、絶対にデュレー公爵ご本人は来ない。
「シモンの名前で招待状を出したところで、デュレー公爵は来られない。だけど、僕がここにいる。きっと彼は、自分の代わりにコリンヌを寄こすだろう」
ノアを振り返る。
コリンヌが、ここに来るの?
「いやいやいやいや、ちょっと待て! それはさすがに無茶すぎる!」
「あぁ、なるほど」
ポールは妙に納得した様子でうなずく。
「ま、いいんじゃね?」
「それは名案ね! デュレー公爵は、すっごく悔しがるでしょうけど」
エミリーまで乗り気だ。
「じゃ、シモン。そういうことで」
シモンはノアからの突然の提案に、ただただ困惑している。
「いやいや無理だって。やったことないんだけど、ホストなんて……」
「いいじゃないか。いずれはすることになるんだ。僕もポールも手伝うよ。それに、アデルとエミリーにとっても、いい経験になるんじゃないの?」
「はいはい! 私は手伝うわよ!」
「俺も~」
シモンだけが困ったように盛大なため息をつき、ソファにぐったりと座り込む。
「全く。なんて提案をしてくれるんだ……。ふざけんなよ、このわがまま王子……」
「あはは。さぁ、こうなったら忙しくなるぞ。まずは会場となる広間を視察しに行こう」
みんなで一階の広間へ移動する。
夏の別荘だ。
招待したとしても、2、30人が限界といったところだろう。
舞踏会の規模としては、さほど大きくはない。
「いいじゃないか。仲のいい身内だけの小さな舞踏会なら、ホスト役デビューとしても悪くない」
「ひと夏の思い出?」
「そ。いいだろ?」
「……。そう上手くいくもんか」
何だかすっかり元気のなくなったシモンを挟んで、ポールとエミリーはやたら張り切っている。
ノアも楽しそうだ。
「ねぇ、ノア?」
「どうしたの、アデル」
「……ノアは、コリンヌに会いたいの?」
「あぁ、会いたいね。ぜひこの屋敷に招待したい」
見上げた彼は、本当に彼女を呼び寄せたいようだった。
ノアにとってコリンヌは、他とは違う特別な存在のような気はしていたけど、それに間違いはないみたい。
それからの日々は、本当に大変だった。
招待状を送る相手を選び、それをシモンに書かせる。
その間に客間の整理と楽隊の手配をし、食事のメニューを考えると、仕入れを頼み、使用人の数もさらに追加させた。
「コリンヌは、数日でも滞在出来ないのかな」
「僕が引き留めようか?」
「ノアが?」
「それなら、デュレー公爵も断れないだろ?」
「逆に乗り込んで来たらどうすんだよ」
「さすがに今回は、それはないと思うね」
ノアとポールは楽しそうにしている。
私はそんなノアの腕を、そっと掴んだ。
「ノアは、コリンヌさまにお会いしたかったの?」
「アデルにも紹介するよ。本当に来てくれればいいんだけど。こればっかりは分からないからね」
「……そっか。そうだね」
見上げる嬉しそうな横顔に、つい胸が痛む。
私ももっと、楽しそうにしていなければならないのに……。
ホームパーティーの当日を迎えた。
その日は朝からエミリーが張り切っていて、誰よりも早く起きて会場の飾り付けに口を出している。
「エミリーは、本当に今日が楽しみだったのね」
「もちろんよ。アデルはそうじゃないの?」
エミリーにですら、何だか本音を言いにくい。
言いにくいけど、言わずにはいられない。
「コ、コリンヌさまは、ノアのお妃候補の一人だから……」
「だからデュレー公爵は、ここまで乗り込んで来れたのよねぇ~」
「そ、それは、やっぱりコリンヌとノアには、仲良くなってほしいっていうか……」
「仲はいいでしょ。じゃなきゃ、呼ぼうとか言わないだろうし」
「え? そんなにあの二人は、仲がよかったの? いつから?」
「えぇ? なに言ってんのアデル」
そう言うと、ようやく振り向いたエミリーは、私の肩をポンと叩いた。
「さ、もう一度招待客のリストを確認しておきましょ」
違う。
このままじゃ、素直にシモンの初めてのパーティーを楽しめない。
この大好きな大切なみんなの前で、私は自分の一番みっともない、恥ずかしい姿を見せたくない。
「エ、エミリーは……! コリンヌのこと、どう思ってるの?」
「コリンヌ?」
彼女は不思議なものを見るように、私をのぞきこんだ。
「どうしたのアデル?」
「だ、だって、コリンヌは、ノアと……。その……。け、結婚したいと、思ってるはずだし?」
エミリーはポカンとした顔で、私を見つめる。
「だ、だから、コリンヌが来たら、やっぱりノアはそれなりの対応しなくちゃいけないんだろうし、だったら私も、お城の舞踏会みたいに、ちゃんとしなくちゃいけないのかなーなんて。そしたらドレスとかも、もっとちゃんと……」
突然、エミリーは豪快に笑い始めた。
「やだ。アデルったら、もしかしてヤキモチ焼いてるの?」
「ち、ちがっ、そんなんじゃなくて! だって、コリンヌはそのために……」
「うふふ。アデルかわいー」
エミリーはニヤニヤしながら、変な角度まで首をかしげ、下から私をのぞき込む。
「えへへ。私は優しいから、ノアさまには内緒にしといてあげるー。すぐにしゃべっちゃうかもだけどー」
「な、ちょっと、なに言って……」
「あ、ほら。愛しのノアさまが呼んでるわよ。いってらっしゃい!」
彼女にドンと背中を押され、ふらりとよろける。
「アデル? 大丈夫?」
その私の背に、ノアの手が回った。
そのままの流れで、正面エントランス横の応接室へ連れて行かれる。
「シモンと最終確認しておこう」
彼もすっかり、この小さな舞踏会に夢中だ。
その準備と段取りについて、一生懸命話している。
あれだけ約束したのに、やっぱり私のことは見てくれない。
「ね、ノアはコリンヌのこと好き?」
「好きだよ。なんで?」
「あ、うん。やっぱり、そうなんだ。わ、私、実はあんまりしゃべったことがなくて……」
「あぁ、来たら紹介する」
シモンと一緒に、もう一度舞踏会の進行を確認する。
開始時刻は間もなくだ。
本当にシモンのお友達だけが招待されている、小さな小さな舞踏会だ。
エミリーとポールとも、共通の知り合いが多い。
いつもの緊張感あふれる社交界のそれとは違う、本当に楽しい夏のパーティーだ。
ホスト役の誰もがメインゲストを楽しみにしているのに、私だけが落ち着かない。
今日のためにエミリーと新調した、レースのサマードレスの裾を持ち上げる。
「ねぇ、ノア」
「ん、なに?」
「このドレスどう? 変じゃない?」
「大丈夫だよ、問題ない」
やっぱりノアになんか、聞いてもダメだった。
私たちは、揃って玄関のすぐ脇にある応接室で待機している。
早速、最初の馬車が到着した。
「シモンの? この別邸で?」
「そう、ホストはシモンだ」
「そんな! それじゃ、デュレー公爵は来ないわ。お詫びになんてならないじゃない」
「僕が行ったところで、どうせうやむやにだれるだけだ」
身分が違う。
シモンの家は伯爵家だ。
当主であるシモンのお父さまがホストになるのならともかく、この別邸でシモン自身がホスト役となるのなら、絶対にデュレー公爵ご本人は来ない。
「シモンの名前で招待状を出したところで、デュレー公爵は来られない。だけど、僕がここにいる。きっと彼は、自分の代わりにコリンヌを寄こすだろう」
ノアを振り返る。
コリンヌが、ここに来るの?
「いやいやいやいや、ちょっと待て! それはさすがに無茶すぎる!」
「あぁ、なるほど」
ポールは妙に納得した様子でうなずく。
「ま、いいんじゃね?」
「それは名案ね! デュレー公爵は、すっごく悔しがるでしょうけど」
エミリーまで乗り気だ。
「じゃ、シモン。そういうことで」
シモンはノアからの突然の提案に、ただただ困惑している。
「いやいや無理だって。やったことないんだけど、ホストなんて……」
「いいじゃないか。いずれはすることになるんだ。僕もポールも手伝うよ。それに、アデルとエミリーにとっても、いい経験になるんじゃないの?」
「はいはい! 私は手伝うわよ!」
「俺も~」
シモンだけが困ったように盛大なため息をつき、ソファにぐったりと座り込む。
「全く。なんて提案をしてくれるんだ……。ふざけんなよ、このわがまま王子……」
「あはは。さぁ、こうなったら忙しくなるぞ。まずは会場となる広間を視察しに行こう」
みんなで一階の広間へ移動する。
夏の別荘だ。
招待したとしても、2、30人が限界といったところだろう。
舞踏会の規模としては、さほど大きくはない。
「いいじゃないか。仲のいい身内だけの小さな舞踏会なら、ホスト役デビューとしても悪くない」
「ひと夏の思い出?」
「そ。いいだろ?」
「……。そう上手くいくもんか」
何だかすっかり元気のなくなったシモンを挟んで、ポールとエミリーはやたら張り切っている。
ノアも楽しそうだ。
「ねぇ、ノア?」
「どうしたの、アデル」
「……ノアは、コリンヌに会いたいの?」
「あぁ、会いたいね。ぜひこの屋敷に招待したい」
見上げた彼は、本当に彼女を呼び寄せたいようだった。
ノアにとってコリンヌは、他とは違う特別な存在のような気はしていたけど、それに間違いはないみたい。
それからの日々は、本当に大変だった。
招待状を送る相手を選び、それをシモンに書かせる。
その間に客間の整理と楽隊の手配をし、食事のメニューを考えると、仕入れを頼み、使用人の数もさらに追加させた。
「コリンヌは、数日でも滞在出来ないのかな」
「僕が引き留めようか?」
「ノアが?」
「それなら、デュレー公爵も断れないだろ?」
「逆に乗り込んで来たらどうすんだよ」
「さすがに今回は、それはないと思うね」
ノアとポールは楽しそうにしている。
私はそんなノアの腕を、そっと掴んだ。
「ノアは、コリンヌさまにお会いしたかったの?」
「アデルにも紹介するよ。本当に来てくれればいいんだけど。こればっかりは分からないからね」
「……そっか。そうだね」
見上げる嬉しそうな横顔に、つい胸が痛む。
私ももっと、楽しそうにしていなければならないのに……。
ホームパーティーの当日を迎えた。
その日は朝からエミリーが張り切っていて、誰よりも早く起きて会場の飾り付けに口を出している。
「エミリーは、本当に今日が楽しみだったのね」
「もちろんよ。アデルはそうじゃないの?」
エミリーにですら、何だか本音を言いにくい。
言いにくいけど、言わずにはいられない。
「コ、コリンヌさまは、ノアのお妃候補の一人だから……」
「だからデュレー公爵は、ここまで乗り込んで来れたのよねぇ~」
「そ、それは、やっぱりコリンヌとノアには、仲良くなってほしいっていうか……」
「仲はいいでしょ。じゃなきゃ、呼ぼうとか言わないだろうし」
「え? そんなにあの二人は、仲がよかったの? いつから?」
「えぇ? なに言ってんのアデル」
そう言うと、ようやく振り向いたエミリーは、私の肩をポンと叩いた。
「さ、もう一度招待客のリストを確認しておきましょ」
違う。
このままじゃ、素直にシモンの初めてのパーティーを楽しめない。
この大好きな大切なみんなの前で、私は自分の一番みっともない、恥ずかしい姿を見せたくない。
「エ、エミリーは……! コリンヌのこと、どう思ってるの?」
「コリンヌ?」
彼女は不思議なものを見るように、私をのぞきこんだ。
「どうしたのアデル?」
「だ、だって、コリンヌは、ノアと……。その……。け、結婚したいと、思ってるはずだし?」
エミリーはポカンとした顔で、私を見つめる。
「だ、だから、コリンヌが来たら、やっぱりノアはそれなりの対応しなくちゃいけないんだろうし、だったら私も、お城の舞踏会みたいに、ちゃんとしなくちゃいけないのかなーなんて。そしたらドレスとかも、もっとちゃんと……」
突然、エミリーは豪快に笑い始めた。
「やだ。アデルったら、もしかしてヤキモチ焼いてるの?」
「ち、ちがっ、そんなんじゃなくて! だって、コリンヌはそのために……」
「うふふ。アデルかわいー」
エミリーはニヤニヤしながら、変な角度まで首をかしげ、下から私をのぞき込む。
「えへへ。私は優しいから、ノアさまには内緒にしといてあげるー。すぐにしゃべっちゃうかもだけどー」
「な、ちょっと、なに言って……」
「あ、ほら。愛しのノアさまが呼んでるわよ。いってらっしゃい!」
彼女にドンと背中を押され、ふらりとよろける。
「アデル? 大丈夫?」
その私の背に、ノアの手が回った。
そのままの流れで、正面エントランス横の応接室へ連れて行かれる。
「シモンと最終確認しておこう」
彼もすっかり、この小さな舞踏会に夢中だ。
その準備と段取りについて、一生懸命話している。
あれだけ約束したのに、やっぱり私のことは見てくれない。
「ね、ノアはコリンヌのこと好き?」
「好きだよ。なんで?」
「あ、うん。やっぱり、そうなんだ。わ、私、実はあんまりしゃべったことがなくて……」
「あぁ、来たら紹介する」
シモンと一緒に、もう一度舞踏会の進行を確認する。
開始時刻は間もなくだ。
本当にシモンのお友達だけが招待されている、小さな小さな舞踏会だ。
エミリーとポールとも、共通の知り合いが多い。
いつもの緊張感あふれる社交界のそれとは違う、本当に楽しい夏のパーティーだ。
ホスト役の誰もがメインゲストを楽しみにしているのに、私だけが落ち着かない。
今日のためにエミリーと新調した、レースのサマードレスの裾を持ち上げる。
「ねぇ、ノア」
「ん、なに?」
「このドレスどう? 変じゃない?」
「大丈夫だよ、問題ない」
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