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そして、明日へ
しおりを挟むクリスマス、年末年始。賑やかに過ごした武たちは、ロサンゼルスへ向かう機内にいた。ファーストクラスを貸切って、気の置ける身内と一緒のフライト。
前回は雫と周、それにワシントンの蓬莱大使館へ赴任する外交官とのフライトだった。何が待ち受けているのか。不安で胸が一杯だったのを記憶している。それでも夕麿に会いたかった。
ベルト着用のサインが消えた。武は席を立って夕麿の元へ行く。
「どうしました?」
今、自分が泣き出しそうな顔をしているのはわかっている。
「夕麿…」
驚く夕麿の胸に飛び込んだ。
「武?」
ひとしきり泣くと武はやっと話せるようになった。
半年前の不安を思い出した事。今、こうして夕麿と一緒にロサンゼルスへ向かっている事に、胸が一杯になってしまった事を。何も聞かされないまま、異変を感じている心を抱いて武は半年前に機上にいた。絶望に染まって行く自分を懸命に奮い立たせて。
「武…辛い想いをさせてしまいましたね」
「良いんだ。今、夕麿は俺と一緒にいてくれるから」
夕麿の温もり、匂い。 大好きな声。 武は幸せだった。
「夕麿…俺、明日を信じる。 今なら信じられる」
一年前、今しか信じられないと言った。 一年前の武にとっては、明日は夕麿を失うかもしれない日だった。 皆を失う日だった。 だから怖かった。 見たくはなかった。
でも今は違う。 夕麿と歩いて行きたい。 皆と一緒に生きて行きたい。
「武、明日は永遠に続く未来です。 今が明日になれば、明日が今になります。 そして…また、新たな明日が存在します」
「うん」
夕麿の長い指が優しく武の髪を撫でた。
「明日を信じる事は未来を信じる事。 未来を信じる事は永遠を信じる事」
「うん。 だったら今は…永遠への前日だね」
今の連続が明日になり、明日の連続が未来になる。 未来は永遠へと続いて行く。
「夕麿、愛してる。 ずっと、俺の側にいて」
愛しい人の顔を見上げて言うと、唇が降りて来て重ねられた。
「ぁン…ン…」
口付けの甘さに全身が溶けてしまいそうだった。 銀色の糸を引いて離れると、今度は両手を伸ばして武から唇を重ねた。 しっかりと抱き締められる喜びにまた涙が溢れた。
「愛しています、武。 私をずっとあなたのお側に置いてください」
「離れたら承知しないからな」
「離れません」
二人はまだ20年に満たない時間しか生きてはいない。 おとぎ話のように人生はこれで終わりにはならない。 これから何十年。 二人が歩いて行く未来に、どのような事が待ち受けているのかは…誰にもわからない。
今、しっかりと互いの手を握り締めて歩き出す。
明日に向かって。
永遠への前日である『今』を生きて。
愛する人と一緒だから。
大切な皆と一緒だから。
未来はきっといつもそこにいて誘ってくれるだろう。
《完》
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