蓬莱皇国物語 最終章〜REMEMBER ME

翡翠

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断罪

 武たちが退場し、次いで政府側が退場した。

 残っているのは殿上を許されている高位貴族と皇家に所属する者だけになった。

 本来ならば宴へ移行するのが、出席を許されるはずの政府側の人間が帰されてしまった。

 今更、皇后や皇太子の正妃が発表されるはずはない。それならば叙位叙勲の時に発表されている。当然ながら嵐子に何某かの称号が与えられるとも思えない。

 貴族たちが気になっていたのは、武の側近である雫が残り、久方の隣に立っていることだった。

 彼を宮中で見かけるのは珍しくはない。外戚とはいえ、母が元皇女の雫は皇帝の従兄弟であり、年齢も近く親しいらしいと皆が思っている。

 だが今、この場で彼が残ったのは何故なのか?

 しかも彼は書類の束を久方に手渡し、それがそのまま皇帝に献上された。

「ふむ」

 前以て内容は知らされていた様子の皇帝は、書類に軽く目を通して雫を招いた。

「これはまぎれもなく事実なのだな?」

「はい。私自身が調べたものもございますが、大変に優秀な部下に恵まれておりまして、彼の調査が間違っていたことはこれまでありません」

 本当は貴之本人もここに残したがったが、彼の身位では少し無理があった。それに新たに配された警護官ばかりでは不安だった。武たちが御園生邸に立ち寄る話も聞いていたこともあり、貴之にはそちらを優先してもらう判断をした。

 これから始まるのは紫霞宮暗殺未遂の主犯の断罪だった。武が一度は完全に薨去したことで、雫たちの怒りは頂点に達していた。それは皇帝の相談役『長老』の地位にいる久方も同じであった。また貴之の父、芳之も同じでだろう。でなければあの殴り込みに対して沈黙をするはずがない。

 皇帝に手渡された書類の最初にあるのは、武の薨去時の詳細な診断書だった。使用された毒の成分が細かく記載され、主成分は月下百合の中でも最も毒性が強いとされる根から抽出された毒。そこに俗に言う『九條家の毒』が混合されていた。

 九條家の毒はその名前こそ知られているが、慈恩院家の『媚薬』と共に配合は知られてはいない。だが皇国における『薬師』の頂点に立つ慈恩院家は以前から成分を把握して対処法も持っていた。

 今回、九條家の毒に月下百合の根の毒を混ぜたのは、その毒性の強さで慈恩院家の対処ができないようにしたのだとわかる。彼らは確実に武の息の根を止めたかったのだ。目論見通り武は周たちの懸命の治療の甲斐なく、毒の投与から一時間あまりで息を引き取った。

 彼らにとっての誤算は蓮の存在を知らなかったことだ。『禁忌』として儀式の作法が完全に封印されて忘れられているものを、現代において執り行う者がいたことは予想はできなかっただろう。

 彼を信じ黄泉返り後の治療の準備をしていた、周や慈恩院家の人間たちの奮闘が未だ症状は残るものの今の状態まで回復させたのだ。

 皇帝が書類から顔を上げて周囲を見回す。慌てて目を伏せる者、逆に挑戦的な目をする者。まだその書類が何であるのかを説明されていないため、困惑顔で皇帝を見つめ返す。その眼差しに曇りはなく、一目で今回の件には無関係であるとわかった。

「のう、実資。蓬莱山の此度の噴火を貴公はどう考えるか」

 実は宮中に於いて今回の大噴火は武の薨去と関係があるのではないか、という噂がまことしやかに流れていたのだ。実は一部は武たちに味方する貴族たちが水面下で広めたものでもあった。山体崩壊まで起こすような異常な噴火だ。何かの凶兆として畏れていた者もいたために、それとなく匂わされてあっと言う間に人から人へと伝わった。

「何を申されますやら。噴火は単なる自然現象でございましょう」

 何を当たり前なことをと実資は呟いた。

「本来はそうだ。余も自然現象だろうと思いたくはある。だが古い記録に月三貴神にたいそう愛でられた皇子が、心無い者に生命を奪われた時、蓬莱山が噴煙が空を覆い尽くすほどの噴火をしたとある。その結果、その年は八月だと言うのに霜が降りたほどの冷夏になったそうだ。

 当然ながら農作物は育たず、牛や馬、道端の野良犬や野良猫もやせ細って、最後には数多くの餓死者を出したとある。

 今回の様子に似てはいないか?

 幸いにも紫霞宮は黄泉返って、大噴火は沈静した。

 しかし彼の生命を一度は奪った月下百合は、ドローンの調査で流れ出した溶岩流によって絶滅した可能性が報告された」

 月下百合は蓬莱山の麓にのみ自生している固有種である。蓬莱山が小さな噴火などを繰り返す上に、月下百合の猛毒性から中央島と呼ばれる小島は禁足地になっている。

 謁見の間に集う貴族たちから呻き声の様な物が漏れ、すぐにそれは互いが交わす囁き声の会話になった。

「そ、それは伝説でございましょう?今回の噴火は偶然です」

 大噴火が武の暗殺への神の怒りとは、首謀者である彼らは絶対に認めたくはないだろう。認めれば神々からの報復に怯えなければならない。それだけは回避したのは当たり前である。長きに亘って皇家の外戚として貴族たちのてっぺんでふんぞり返ってきたのだ。思い当たるフシなどそれこそ、皇帝が手にしている書類の何倍もの数があるはずだ。

「それで、陛下。その束にはどの様な戯言が連ねられているのです」

 実資と皇帝の会話に業を煮やしたのか、嵐子がルールを無視して口を開いた。しかも悪辣な言葉を吐いて。

「新年の宴をされないのは結構ですが、わざわざ皆を残してのこれに何かの有用な意味があると?おまけに火山の噴火がどうのこうのと、此方わたしたちにさも関係があるような申されよう。おかしな者たちに何を吹き込まれたのです」

 彼女の言葉はまるで子供に問い質すようだった。さすがにこれには年齢の近い雫でさえ溜息が出た。それを玉座の皇帝が見て苦笑した。

「ご不満の様ですがそうして口を開かれたのを鑑みるに、私の報告書の中身が何であるのか、心当たりがあられるみたいですね」

 皇帝の生母に対するにしては不遜な言い方だった。本来の雫はこんな真似はしない。それだけ武暗殺の企てにはらわたが煮えくり返る思いをしているのだ。

「な……馬鹿なことを言うでない!」

「ですから先ほどから見てもいない内容に『戯言』だの、『おかしなこと』だの、『意味がない』だのと言う根拠はどこにあるのですか。あなたの心や記憶の中に根拠があるのではないですかな」

 雫は不遜な口調で一歩も退く気はなかった。

「そちらこそ何を根拠にかような口を利く!」

 激昂する嵐子を真っ直ぐに見つめて、雫は彼を知る者たちが聞けば絶句するような声でこう告げた。

「禁足地に立ち入る許可を出すように命令をだしたのはあなたですよね?ちゃんと証言者がいるのですよ」

 嵐子の命令で島への上陸を許可した役人が、月下百合の毒が皇家の貴種の暗殺に使用されたと聞いた上に、蓬莱山の大噴火を見て恐ろしさのあまりに申し出たのだった。

「あ、あれは学術的調査の希望だったからじゃ!」

「ほう、九條 実時はいつから学者になったのか教えていただきたい。それともあれですかな、月下百合の毒の研究をされていたとか?」

 ちなみに九條家の別邸に雫と貴之が殴り込みをかけた後、すぐに調査の手が入っていた。そして邸内から月下百合数本に毒を抽出するための器具、抽出された毒が液体の形で発見されている。しかも『九條家の毒』と混合した者もあった。それは武の血液から採取した毒成分と完全に一致していた。

「お待ちください。それだけで御息所さまを責められるのはおかしゅうございます」

 慌てて口を出したのは実資だった。実時は嵐子・実資たちの再従兄弟の息子にあたる。

「誰がそれだけだと言いました?」

 もしここに清方や周がいたらこう感じただろう、雫が珍しくキレていると。

「そうだな。成瀬、あれを皆に聞かせてやるがいい」

「はっ」

 皇帝の言葉に神妙な顔で返事をして、雫はスーツのポケットからSDカードを取り出して久方に手渡した。すぐに背後の機械に入れられる。これは元々、広い謁見の間全体に玉座周辺の音声がちゃんと伝わるように設置されたもので、目立たない形であちこちにスピーカーが配置されている。ここをそのまま宴に使用することもあるため、音楽を流す用にSDカードやROMも使えるのだ。

 何事が始まるのかと貴族たちが固唾を飲んでいる間に音声が流れ始めた。

『な……貴様ら、あの男を倒して来たと言うのか⁉』

 男の声がわずかに震えている。

『九條 実時さんよ、俺の部下を甘く見てもらちゃ困るな。彼は我が国一強い武道家だぞ?』

 わざとらしい雫の口調に皇帝と久方が苦笑する。音声には微かに吹き出した貴之らしい声も入っていた。

『ま、殺してはいないが。こっちはあんたたちと違ってそういうのは好みじゃないんでね』

『何が言いたい』

『説明するまでもないだろうが。あんたが音大のホールでやったことの一部始終を紫霞宮殿下が録音なさってたんだ。あのお方は肝の座ったお人でな、とっさの判断で後のことを考えてスマホの録音機能をONにされてたんだ。

 間抜けなあんたはあの方に今く乗せられて名前を名乗っているよな?覚えてないとは言わせないぞ?』

『そんな手には乗らんぞ!』

『事実なんだが。既に特務室で音声分析している。今夜には久方さまの手に渡って、陛下にお聞きいただくことになるだろう』

 この言葉に皇帝が無言で頷いた。

『正直にこちらの質問に答えるならば手荒いことはしない。忘れるな、北米のグリズリーでも素手で倒せる男がここにいる』

 貴之にすれば『倒せるか』の問いかけに『多分』と言ったことはあるが、実行したわけではないので持ち出されても本当は困っただろう。だがゲオルグを戦闘不能にしたのだ。実時が彼にどれくらいの信頼を置いていたかは不明だが、相手の恐怖心を煽るには十分過ぎるはずだった。

『拷問による自白は……』

『そんなの知ってるさ。こっちは法の番人も兼用してんだ。あんたたちは法律で裁かれるんじゃない。裁定を下されるのは皇帝陛下だ。何としても真実を暴けとの勅をいただいている』

 実は久方が前以て武の身に何事かあった場合の勅をもらっていたのは確かだ。だがそれでも現役の身での暴挙といえる行動を法的に裁かれても仕方がないという覚悟を二人ともしていた。結局は何もなかったわけであるが。

『で、室長、どうしますか?骨を折るならば一応は治療可能ですが、切り落とすならば残りの人生は大変でしょうね』

 貴之が不敵に言い放つ。おそらくは現場では刀を手にしていた分、かなりの恐怖感を煽っただろう。しかも貴之の声は聴く者が全身の毛を逆立ててしまうほどの響きを持っていた。

 『威圧』も武道の技の一つともいえる。武道の神髄は本来、戦わずして相手に勝つことである。普通の人間はこのような時の彼の前にいるだけで恐怖にすくみ上ってしまうだろう。

 しかもこの時は熊のような巨漢を倒して来たというおまけまであった。

 実時が言葉にならない声を上げる。

 他者の苦痛を好む人間は往々にして自身の苦痛には弱い。この男は武の暗殺だけではなく、九條家や嵐子たちに都合の悪い相手を害して来たはずだ。直接手を下したものは少ないであろうが、他者を使っての悪事は身体の指を全部使っても足らない数であろう。その中には紫霄学院内での殺害等も含まれているだろう。

 雫も貴之も、あの場にいなかった他の者たちにも、この男は八つ裂きにしても腹の虫がおさまらない相手だ。

 やり取りをしている間に委縮している実時を貴之が縛り上げていたのだが、音声のみの状態ではそこまでは伝わらない。ゆえに恐怖に動けないでいるのだとしか皆には思えなかった。

 音声はまだ続く。

『貴之、試しに指を一本折ってやれ』

『了解しました』

 まるでその辺りに落ちている木の枝でも拾って折るようなやり取りである。命じた雫の声にも、応えた貴之の声も冷静そのもので感情の揺らぎがない。

 実時の悲鳴が広い謁見の間に響き渡った。

『おいおい、まだ何もしていないだろうが』

 雫が声をあげて笑う。

 貴族たちは成瀬 雫という男の普段の人と成りを見知ってはいる。どちらかと言うと温厚な部類にだろう。その彼が聞こえて来る音声の中では別人のように、冷酷で残虐なことを口にしている。そこに含まれた彼らの怒りがどれほどに強いものであるのかを、ピリピリとした肌感覚で感じていた。

 この後、数人の刃物を手にした男たちが乱入して来たのだが、貴之があっと言う間に叩き伏せてしまった。ただ、そのうちの一人が日本刀で襲撃して来たゆえ貴之も刀で応戦したのだが、この男が意外に腕が立った。向こうは躊躇ためらいもなく切り付けて来る。

 男自身は貴之に自分が勝てるとは思ってはいなかったであろう。それでも傷の一つくらいは……という気迫があった。実際には素人の破れかぶれの攻撃が一番恐ろしい。彼らには間合いも呼吸もなくがむしゃらに突っ込んで来る。目の前の男はまるで素人というわけでもなさそうではある。が、まさに窮鼠猫を嚙むの勢いで刀を振り回す。貴之にだけ向かって来るのであれば他の物と同じく叩き伏せればよかったが、既に部屋に何人の人間がいて、それが誰であるのかも見えてはいない様子だった。

 雫はかわすことはできるであろうが、縛り上げられている実時に何かあっては証言が取れない。このタイミングで取れなければ次はないかもしれない。それはそのまま武の生死にかかわって来る。

 貴之は迷わずに刀の刃を返した。峰打ちではなく彼を斬る判断を下したのだ。

 数度、刃がぶつかる音が響いて鈍く重い音がした瞬間、凄まじい悲鳴を男が上げたのを雫ははっきりと記憶していた。振り返ると男の腕が刀を握りしめたままで廊下に転がっていた。

 血飛沫が斬った貴之だけでなく、少し離れた雫や実時にも飛んで来た。むろん、貴之が浴びたものに比べれば少なくはあったが。

 返り血に染まり、鮮血の滴る刀を手に立つ姿は壮絶だった。それでもきっと敦紀ならば美しい絵画にしてしまうのだろうなどと、心のどこかで考えた自分の異常さに雫は嗤った。

 お陰で恐怖にパニックになった実時がベラベラとしゃべりだしたのであるが、この惨劇の音声はさすがに聞かせるわけにはいかないとSDカードに収録し音声には削除されている。

 壊れたように実時は聞いてもいないことまで話し出した。

 すべては武こそが直系の皇子である事実よりも、皇家の血筋の前皇后への激しい嫉妬心。そして彼女の死後も頑なに新たな皇后も、それに代わる准后も定めなかった先帝への深い恨みが原因だった。

 最初は紫霄の学院都市に幽閉できればよかった。歴代の特別室の住人の様に儚くなって消えていくだろう。元々、身体が弱いらしいから。

 この時の嵐子たちには現皇太子の虚弱体質と同じような状態なのだろうと考えたらしい。そもそもの原因が違うのだが、想像もつかなかっただろう。武の虚弱の一番の原因が『皇家の霊感』による感受性の強さゆえのストレスであるのだと。

 嵐子の暴走を止めずに実資が加担に走ったのは、かつての許婚者である高子がその夫と共に武の後ろ盾になったのが原因だった。それが今回の様な直接的な犯行へと変わるものになった。

 しかも関わっていたのは嵐子、実資だけではない。今上皇帝の女御で皇太子・薫の生母である現梅壺の御息所、そして皇太子宮の女御も加担していた。彼女たち二人は嵐子の末の妹と実資の娘だった。

 嫉妬と恨みに一族の覇権の安寧を考えて、一番の邪魔者である武を完全に排除したかったのだ。

 虚弱体質の皇太子宮には早くから複数の女御が入内していたが、未だに皇子も皇女も誕生してはいない。

 もしも同性を伴侶にしている武が、女性の側室を入れるように命じられたならば、正統な血筋の皇子が誕生するかもしれない。

 もしもその子に皇統が移るようなことがあったならば……

 武が耳にしたならば馬鹿々々しいと言っただろう。

 だが彼女たちにしたら武の同性婚は半ば自分たちが強制したものだ。武が同性を、夕麿を選択して学院都市を出たのを悔しがった。だから留学先まで陰謀をめぐらし、魔手を伸ばしたのだ。

 それらは悉くあと一歩というところで失敗に終わり、次々と手駒を奪われたことによって逆に、疑惑が自分たちに向けられる可能性を恐れるようになった。

 このタイミングで貴之が九條家の関与を疑い始めた。ゆえに彼を殺害を企んだ。これも実父が庇って失敗した。

 先帝崩御は千載一遇せんさいいちぐうのチャンスだった。新たに即位した皇帝は嵐子所生だ。こちらの敵になることはあるまい。武側の警戒も強くなるだろうがスキは必ず出る。そう踏んでの実行だった。

 実時の暴露は最後に意外な方向へ向いた。

 武の祖母である前皇后を支えていたのが、夕麿の祖母である近衛 須磨子だった事実だ。これは全員が初耳だった。高子にしても近衛家に降嫁した後の彼女しか知らなかった。須磨子が降嫁してしばらくして、前皇后は病で崩御している。高子たちの父も今は亡く、経緯も真相ももうわからない。

 武と夕麿の結びつきのどこからどこまでがお膳立されていたのか、それともこれは神々が結縁したものであったのか。もう一人の候補であった雫にはわからなかった。

「弘徽殿御息所と梅壺御息所を北西宮ほくせいぐうに移す」

「陛下⁉」

 北西宮というのは文字通り御所宮殿の北西にある離宮である。現在はほとんど使用されてはいないが、中国古代史に登場する『冷宮れいぐう』と同じ役目のものである。『冷宮』とは犯罪などの過ちを犯した后妃や宮女たちを幽閉する場所で、そのほとんどが生きて出ることは叶わなかったと言われている。

 皇国の北西宮は冷宮ほど酷い扱いをするわけではない。ある程度の庭もあり、敷地内から出られはしないが宮内に閉じ込められるわけでもない。食事も衣装なども身分に応じた物が用意されるし、少数だが女官も配置される。だがこれまでの様に華やかな生活は失われる。外部からの接触は断たれ、親兄弟や友人との面会は禁じられる。

 今回は姉妹が同時に移されるわけだが、互いに交流することができない場所に入れられるため、同じ宮内にあっても別々の生活をすることになる。

 北西宮は罪人のための牢獄であるのだから。

「皇太子宮の九條家出身の女御は宿下がりを命じる」

 宿下がりとは実家に帰ることを意味する。この場合は単なる里帰りではなく、宮中から追放される意味になる。

「さて今回の一件はそもそも長きに亘る九條家の外戚としての専横が招いたことである。せめて彼女たちの暴走を諫めていたのならばまだ救いはあった。

 裁定を下す。九條家は准皇の皇子暗殺に加担した罪により、貴族籍から永久追放する。持てる資産の三分の二を罰金として徴収し、帝都及び旧都の居住することを禁じる」

 重い裁定だった。古来から貴族の祖の末裔として、摂関貴族として、全貴族の頂点にいた一族がすべてを失った瞬間であった。

 一族の人間が暗殺の実行犯として逮捕された事実も、貴族籍剥奪の理由でもあった。

「大儀であった。これで本日の謁見は終了する」

 結局、彼女たちによって皇太子の身代わりに双子の弟である薫がいた事実は、この時には誰も問題にも噂にもしなかった。




「雫さん、お疲れさまでした」

 控えの間で久方が声をかけて来た。

「ぐったりですよ」

「ですが今回の陛下の御裁定を宮で報告していただかなければなりません。もう一仕事残っておりますよ」

 武たちが住む場所は正式に親王の住処『六条が原宮』に定められ、雫を長とした専任警護官も大幅に増員されることになった。

「ひとまずは人員不足が解消されそうでホッとしてます」

 取り敢えずは暗殺の危機はこれで去ったと考えたい。完全に九條家の勢力を排除できるとは思ってはいないが、できればもうおとなしくしていて欲しい。この件で報復に動いても何も変わりはしないのだから。

 それでも雫にも久方にもまだまだ片付けなければいけないことがあった。

「お互いに当分はゆっくりはできないでしょうねぇ」

 遠い目をしてそう言った久方に雫は苦笑を浮かべながら、それでもしっかりと頷いたのだった。


 



 

 
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