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一章:アマリリス・バルチェの死
牙を剥く
フリージアが神殿の聖杯に祈りを捧げていると、ひとりの聖女が横に座って声をかけた。彼女はあどけない顔に残念そうな表情を浮かべる。
「フリージア様、最近ベラドンナ神官を見かけませんね。部屋から出ると毎朝挨拶してくれたのに」
「そうね」
フリージアは頬を膨らます聖女に向けて柔らかな笑みを浮かべる。
貴族出身でない聖女も貴族出身の聖女と勝手が違えど神殿付きの部屋にひとり、住まわされる。女所帯の場所の中、見目麗しい男の神官ベラドンナは聖女たちの憧れとも言える存在だったのだ。
「アマリリス様がお亡くなりになってから見かけることが減りましたし、とっても残念です」
そう言ってから聖女はフリージアにグッと顔を寄せ、囁いた。
「フリージア様がお優しいから、表立って言えないのでしょうけど愚痴くらいは聞きますよ。アマリリス様にお仕事を押し付けられて、大変だったでしょう。本音を言うと私、アマリリス様が亡くなって良かったと思います」
彼女の言葉にフリージアの眉が少し跳ねる。それに気づいていない聖女はにこやかにアマリリスのことを語り始める。彼女がいかに酷いのを。
聖女のお喋りに一区切りがついた頃、フリージアはようやく口を開いた。
「私の親友だったの。あまり非道いことを言わないで欲しいわ」
「フリージア様って本当にお優しいですねっ!」
フリージアの慈悲深い言葉に対して聖女が憧れを露わにし、目を輝かせる。フリージアはにっこりと口の端を上げ、軽く会釈をした。
「そろそろ、来てくれた方の治療に行かないと」
「あ、私も行きますよ」
立ちあがろうとする聖女を手で制した後、フリージアは小さく手を振った。
「私ひとりで大丈夫だから、あなたは休んでいて」
「はいっ」
聖女は浮かせた腰を落ち着きなく戻し、そわそわと手を弄り出す。
聖女の様子を確認してから、フリージアはそっと礼拝堂を後にした。急ぎ足で渡り廊下を歩いている中、フリージアは自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
「私は、後悔してない」
震える拳を固く握りしめながら、フリージアは病人の待っている治療室へと向かうのだった。
──
細かな彫刻が施された柱に、銀でできた翼の彫刻。とある礼拝堂らしき場所の壇上には純白の修道服を身に纏った存在がいた。ウィンプルから少しだけ覗く顔は麗しく、チャーチチェアにはまばらに人が座っている。皆、両手を組み合わせて何かを懇願するように言葉を発する。
「女神様……!」
「私たちに救いをお与え下さい……」
女神と言われた存在に人々は次々に頭を垂れる。皆、恍惚とした表情で女神をうっとりと見上げていた。それに応えるように女神は手を大きく広げた。
「この国の終焉はもう直ぐです」
艶やかな、落ち着いた声。女神の言葉に歓喜の声が上がる。
ステンドグラスの窓は光を受け、床に神々しい水玉模様を映していた。
今、ひとりの女神が王国に牙を剥いた。
「フリージア様、最近ベラドンナ神官を見かけませんね。部屋から出ると毎朝挨拶してくれたのに」
「そうね」
フリージアは頬を膨らます聖女に向けて柔らかな笑みを浮かべる。
貴族出身でない聖女も貴族出身の聖女と勝手が違えど神殿付きの部屋にひとり、住まわされる。女所帯の場所の中、見目麗しい男の神官ベラドンナは聖女たちの憧れとも言える存在だったのだ。
「アマリリス様がお亡くなりになってから見かけることが減りましたし、とっても残念です」
そう言ってから聖女はフリージアにグッと顔を寄せ、囁いた。
「フリージア様がお優しいから、表立って言えないのでしょうけど愚痴くらいは聞きますよ。アマリリス様にお仕事を押し付けられて、大変だったでしょう。本音を言うと私、アマリリス様が亡くなって良かったと思います」
彼女の言葉にフリージアの眉が少し跳ねる。それに気づいていない聖女はにこやかにアマリリスのことを語り始める。彼女がいかに酷いのを。
聖女のお喋りに一区切りがついた頃、フリージアはようやく口を開いた。
「私の親友だったの。あまり非道いことを言わないで欲しいわ」
「フリージア様って本当にお優しいですねっ!」
フリージアの慈悲深い言葉に対して聖女が憧れを露わにし、目を輝かせる。フリージアはにっこりと口の端を上げ、軽く会釈をした。
「そろそろ、来てくれた方の治療に行かないと」
「あ、私も行きますよ」
立ちあがろうとする聖女を手で制した後、フリージアは小さく手を振った。
「私ひとりで大丈夫だから、あなたは休んでいて」
「はいっ」
聖女は浮かせた腰を落ち着きなく戻し、そわそわと手を弄り出す。
聖女の様子を確認してから、フリージアはそっと礼拝堂を後にした。急ぎ足で渡り廊下を歩いている中、フリージアは自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
「私は、後悔してない」
震える拳を固く握りしめながら、フリージアは病人の待っている治療室へと向かうのだった。
──
細かな彫刻が施された柱に、銀でできた翼の彫刻。とある礼拝堂らしき場所の壇上には純白の修道服を身に纏った存在がいた。ウィンプルから少しだけ覗く顔は麗しく、チャーチチェアにはまばらに人が座っている。皆、両手を組み合わせて何かを懇願するように言葉を発する。
「女神様……!」
「私たちに救いをお与え下さい……」
女神と言われた存在に人々は次々に頭を垂れる。皆、恍惚とした表情で女神をうっとりと見上げていた。それに応えるように女神は手を大きく広げた。
「この国の終焉はもう直ぐです」
艶やかな、落ち着いた声。女神の言葉に歓喜の声が上がる。
ステンドグラスの窓は光を受け、床に神々しい水玉模様を映していた。
今、ひとりの女神が王国に牙を剥いた。
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