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二章:崩壊の始まり
失踪
バルチェ子爵夫人はバルチェ邸中に響き渡るほどに大きく甲高い悲鳴に似た声を出す。
「アイビーは一体何処にいるの!?」
一列に並ばされた使用人たちは皆顔を見合わせ、小さく首を振る。その様子が気に入らなかったのか、夫人は思い切り椅子を蹴飛ばした。ビクビクと肩を振るわせながら、一歩前に出た執事長は申し訳なさそうに口を開けた。
「お、奥様お言葉ですが……お嬢様がいなくなられたのは一週間ほど前です。その際奥様は探す必要がない、そうおっしゃったじゃありませんか。旦那様も、そうおっしゃっておりました」
「それがなんだっていうの?その時は遊びに出かけでもしたのかと思ったのよ!」
それは無理があるだろう。使用人の誰もがそう思う。夫人はアイビーがいなくなったと伝えられた時、夜会に呼ばれているから、と浮かれて娘そっちのけだったのだ。彼女がいなくなってから丸一日経っても夫人は夜会から帰ってこず、他の貴族と遊び歩いていることは使用人にもありありと想像できた。
黙っている使用人たちに苛立った夫人は口元に大きな皺を寄せ、いつもとは別人のような顔になった。それは、とてもじゃないが美人とは言えないものである。
「アイビーを探し出しなさい。あの娘には私の夢を叶えてもらわないといけないの」
利己的だ。そう考えながらも、使用人たちは頷くしかない。バルチェ子爵が家にとんと興味のない今、彼らの主は夫人である。アマリリスの死から少しずつ王国に混沌が広がっていることは誰もが知っていることだ。口には出さないだけで。勤め口なんてそう簡単に見つかるものではない。
「あ」
皆が黙りこくっていると、ひとりの侍女が小さく声を出した。一気に視線が彼女に注がれる。侍女はしまったと顔を真っ青にして俯いた。それを見た夫人が目を吊り上げ、侍女に詰め寄る、
「何、何よ。何かあるなら早く言いなさい」
「え、あ、……」
侍女は慌てて周りを見渡したが、誰も助け舟を出してくれる素振りはない。侍女は恐る恐る口を開いた。
「アマリリス様の従者、コルツフットも同時期に見かけなくなっていたな、と……」
アマリリス、その名前を聞いてから夫人はわかりやすく顔を歪ませ、コルツフットの名前を聞いてからもっと皺が深くなった。
「あの下民ッ……」
夫人の顔が完全に憎悪の塊になったことに、皆は震え上がった。侍女は弁明をするように拙いながらに続ける。
「し、しかし、アマリリス様の死後ですのでっ。関係のないことかもしれません。余計なことを申し上げたかも──」
「そんなはずないでしょう!?あの下民はまだこの屋敷の雇用関係にあるわ。辞表も出していないのに消えるなんて。そうよ……考えてみたらおかしいんだわ……まさか、あの下民がアイビーを……?」
狂ったようにブツブツと呟き始めた夫人を皆は異様なものでも見るかのように見つめていた。
「アイビーは一体何処にいるの!?」
一列に並ばされた使用人たちは皆顔を見合わせ、小さく首を振る。その様子が気に入らなかったのか、夫人は思い切り椅子を蹴飛ばした。ビクビクと肩を振るわせながら、一歩前に出た執事長は申し訳なさそうに口を開けた。
「お、奥様お言葉ですが……お嬢様がいなくなられたのは一週間ほど前です。その際奥様は探す必要がない、そうおっしゃったじゃありませんか。旦那様も、そうおっしゃっておりました」
「それがなんだっていうの?その時は遊びに出かけでもしたのかと思ったのよ!」
それは無理があるだろう。使用人の誰もがそう思う。夫人はアイビーがいなくなったと伝えられた時、夜会に呼ばれているから、と浮かれて娘そっちのけだったのだ。彼女がいなくなってから丸一日経っても夫人は夜会から帰ってこず、他の貴族と遊び歩いていることは使用人にもありありと想像できた。
黙っている使用人たちに苛立った夫人は口元に大きな皺を寄せ、いつもとは別人のような顔になった。それは、とてもじゃないが美人とは言えないものである。
「アイビーを探し出しなさい。あの娘には私の夢を叶えてもらわないといけないの」
利己的だ。そう考えながらも、使用人たちは頷くしかない。バルチェ子爵が家にとんと興味のない今、彼らの主は夫人である。アマリリスの死から少しずつ王国に混沌が広がっていることは誰もが知っていることだ。口には出さないだけで。勤め口なんてそう簡単に見つかるものではない。
「あ」
皆が黙りこくっていると、ひとりの侍女が小さく声を出した。一気に視線が彼女に注がれる。侍女はしまったと顔を真っ青にして俯いた。それを見た夫人が目を吊り上げ、侍女に詰め寄る、
「何、何よ。何かあるなら早く言いなさい」
「え、あ、……」
侍女は慌てて周りを見渡したが、誰も助け舟を出してくれる素振りはない。侍女は恐る恐る口を開いた。
「アマリリス様の従者、コルツフットも同時期に見かけなくなっていたな、と……」
アマリリス、その名前を聞いてから夫人はわかりやすく顔を歪ませ、コルツフットの名前を聞いてからもっと皺が深くなった。
「あの下民ッ……」
夫人の顔が完全に憎悪の塊になったことに、皆は震え上がった。侍女は弁明をするように拙いながらに続ける。
「し、しかし、アマリリス様の死後ですのでっ。関係のないことかもしれません。余計なことを申し上げたかも──」
「そんなはずないでしょう!?あの下民はまだこの屋敷の雇用関係にあるわ。辞表も出していないのに消えるなんて。そうよ……考えてみたらおかしいんだわ……まさか、あの下民がアイビーを……?」
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