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 特殊エリア攻略開始から3日目に、私のレベルが40を超えた。信じられない高速レベルアップだ。
 階層はずっと地下1階のまま。各階を進む前にフロアボスを倒さなければならず、それには、ボスと同レベル以上必要らしい。

 3日攻略を続けて、1日休みとなった。
 攻略以外にも、皆にはやらないといけないことがあるみたいだ。
 特に王太子の英人君は、王様が呪いで臥せっている間、実質国のトップになる。英人君と悠真君は、王城内の問題にも対処しないといけなかった。

 ラビリオ君は3日に1日お店を開けることにした。販売に人を雇う案もあったけど、彼は納得の行くお客さんに売るというこだわりが強いから、攻略が終わるまで、店は不定期営業となる。

 最初の休み、私はラビリオ君と共同で作る服の相談をした。

「ダンジョンで戦いながら、服のことをいろいろ考えていたぞ」

 ウサギさん、戦いながら考え事する余裕まであったらしい。

「そうなんだ。私もアイディアというか、良い素材が手に入ったんだよね」

 私はアイテムボックスからキラキラ光る糸の束を取り出した。

「私が裁縫するって言ったら、英人君がくれたんだ」

 悪魔のダンジョンで出た蜘蛛型の魔物がドロップしたそうだ。悪魔のダンジョンは攻略されて消滅したから、もう手に入らないレアものだ。

「おお、良いものだな。かなり強力な防具が作れるぞ! これなら、販売用にするより、レナとユウマの装備を作った方がいいんじゃないか?」

「ああ、そうかも」

 レイナの持っていた装備はレベル21用のものだから、急速にレベルの上がった今は物足りなくなっていた。王宮の宝物庫から使えそうなものを借りているけど、50ダンジョンのドロップ素材なら、それより良いものが作れる。

「なら、さっそくデザイン画を描くぞ」

 ラビリオ君はクレヨンみたいな筆記具を手にすごい速さでデザイン画を描いていった。何枚も出来上がるイラストを見ていく。

「ドレス可愛いけど、足を完全に隠す丈は、ダンジョン探索には向かないね」

 ラビリオ君は思いついたものを全部描いているみたいだ。PTOに合わないものは除外していく。

「うーん、これをもうちょっと変えてみて……」

 ラビリオ君のイラストを見ながら私も描いてみた。
 フード付きのローブだったものをだぼっとしたワンピースにフードがついた形に変えてみた。

「こんな感じが好きかなー」

 自分用に作るなら、好きなデザインにしたい。

「良いと思うぞ。素材との相性はどうだ?」

「そうだね。蜘蛛型魔物の糸はシルクに近いから、光沢が出すぎるね。綿みたいな素材を混ぜたい。そうだ……」

 私は特殊エリア1階でドロップした装備を取り出した。
 雑魚モンスターの装備ドロップ率はとても低い。出たのはパーティーの誰も使えないジョブの服だけだった。

「これを解体して糸だけ使おう」

「いい考えだな。ユウマの方はどうする? オレはこいつが良いと思うぞ」

 ラビリオ君が出してきたのは、魔法少女みたいなドレス。下にショートパンツをはくデザインなのが救いか。

「レースをたくさん使って、宝石もいっぱい埋め込むぞ」

「うん。あのね、ユウマ君は男の子……」

「それが何か問題あるのか?」

 つぶらな瞳でラビリオ君が私を見る。
 そうだね。もう、私がどうこう言うより、ご本人に完成品を渡して判断してもらう方がいいか。


 私たちはすぐに制作を開始して、手早く作業を進めていった。
 装備はレベルに合ったものの方が効果が高い。
 レベル上げスピードが速いので、急いで用意しないと、レベルが上がりすぎて使えなくなってしまう。

「じゃあ、生地を2種類作るね」

 いつもの裏庭の作業場に生産道具を出して布を織る。
 生地が出来たらラビリオ君のデザイン画に従って形にしていった。
 地球でリアルには1度もやったことのない作業だけど、ゲームスキルと同じ、魔法のように仕上がっていく。こんなの本来なら1日で完成させるの無理だよね。

 土台を作るとラビリオ君に渡し、装飾を入れてもらう。
 私のは小さなビーズと刺繍糸で飾られたフード付きワンピース、悠真くんのは胸元やベルトのリボンに大きな宝石が縫い付けられたドレスに仕上げられていった。

「ついに完成したぞ」

 ご機嫌なウサギさんに手渡された服を装備する。
 ステータスを確認すると、一気に上がっていた。装備効果がたくさんついたみたいだ。

「じゃあ、悠真君にも届けてくるね」

 お城で仕事をしている悠真君にもさっそく持って行くことにした。
 2人で宮殿に向かう。
 通行証として王家の紋章が入った宝石細工のペンダントをもらっていたので、自由に出入りできた。

 やっぱ、フードがあると便利だなぁ。
 顔を見られるとトラブルのおそれがある公爵令嬢と同じ外見だから、フード装備が欲しかったんだ。

 新しいフードを深くかぶって、私は悠真君のいる執務室を目指した。
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