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8 襲撃
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学園の帰り道、画材屋に寄っていたルーカスは、帰りが遅くなっていた。
日はすでに沈みかけ、辺りは薄暗さを増していた。ルーカスは乗り合い馬車に揺られ、ヘイウッド家近くの降車場で降りる。屋敷までは徒歩で数分の距離だった。
足早に歩を進めていたその時、不意に後ろから突き飛ばされた。
一体、どこから現れたのか——。
倒れたルーカスが見上げると、数人の粗暴な男たちが取り囲んでいた。
いかにもチンピラといった風体で、口調も荒い。
「おー、噂通り、なかなかの面だな」
「……っ?!」
「ひひっ、どう料理してやろうか」
「何したって構わねえって話だぜ」
「命だけは取るなってな……ははは!」
「やめろ!お前たちは何なんだ!」
「悪いな。お前に恨みはねえよ」
「ただ、目障りなんだとさ」
ルーカスは立ち上がろうとするが、すぐに複数人に抑え込まれ、殴る蹴るの暴行が始まった。
「何をしている!」
街の警備隊のひとりが騒ぎに気づき、怒声を上げながら駆け寄ってくる。
「やべっ、警備隊だ!」
「捕まったら報酬がパーだ!」
「逃げろ!」
男たちは暴行を中断し、一斉に走り去った。ルーカスは遠ざかる足音を耳にしながら、意識を失いかける。
(何したっていい)
(命は取るな)
(報酬)
(目障り)
意識が完全に途切れる直前、彼らが口にしていた言葉が頭の中に残っていた。
――誰が、こんなことを。
==================
ルーカスが意識を取り戻した時、彼はヘイウッド侯爵家の客室のベッドに横たわっていた。
「ルーカス!」
マーガレットの悲痛な声が耳に届く。
声の方へ首を向けようとした瞬間、顔に鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「痛むのね……。どこが痛む? 話せそう?」
ベッドの傍らで、涙を浮かべたマーガレットが彼を見つめていた。
「マーガレット、ルーカスは重傷だ。今は矢継ぎ早に話しかけるべきではない」
「……申し訳ありません、お兄様。ルーカスも……ごめんなさい」
《マーガレット様が謝ることなんてないのに》——ルーカスはそう思ったが、口の中が酷く裂けているのか、声を出そうとした瞬間に血の味と鋭い痛みが走った。
「……っ」
「かなり痛むようだな。鎮痛剤は早めに飲んだ方がいい」
そう言ったのは、侯爵家の主治医である。白髪と白い髭を蓄えた初老の医師だった。
「ルーカス、起き上がれるか?」
ルーカスは頷き、ゆっくりと起き上がろうとする。しかし、両脇腹に激痛が走り、思わず体が傾く。右手で体を支えようとしたが、力が入らず、そのまま右に崩れた。
「ルーカス!」
慌てたマーガレットがルーカスの右半身を支えた。だが、ルーカスは彼女の手に触れられるのが居た堪れず、右腕を引こうとする——動かない。
「……せん…せい、右腕が……動きません……」
「そうだろう。折れている。右腕だけじゃない、肋骨も数本折れていた。幸い、内臓に刺さってはいなかった。不幸中の幸いだったな」
マーガレットは真っ青な顔で医師の言葉に耳を傾け、震える手でルーカスの体を支えていた。
「ルーカス、誰かに恨まれるような心当たりは?」
マーガレットの兄、サミュエルが尋ねた。だがルーカスが答える前に、マーガレットが声を上げた。
「お兄様! ルーカスはそんな人ではございません!」
「だが、襲撃の状況は不自然だ。ここは治安の良い地区だぞ。警備隊が目撃した限りでは、犯人たちはこの辺りの住人ではないようだ」
事件後、ルーカスは駆けつけた警備隊に助けられた。学園の身分証を所持していたため、すぐに身元が判明し、ヘイウッド家へと搬送されたのだった。
「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
ルーカスは、サミュエルとマーガレットに深く頭を下げた。
「今回の件、身に覚えはありません。ただ……彼らは“報酬”という言葉を口にしていました」
「報酬、だと?」
「はい。『何をしてもいい、命だけは取るな』と……そう言っていました」
「つまり、誰かに雇われた可能性があるということか」
「……はい。状況からして、そうとしか思えません」
「そんな……ひどいわ……誰が……何のために……!」
マーガレットは再び顔を青ざめさせ、動揺を隠せなかった。ルーカスの重傷を見てから、ずっと取り乱してばかりだった。
「マーガレット、騒ぎすぎだ。どうした、お前らしくもない」
「……申し訳ありません」
「まあまあ、サミュエル様。若いご令嬢が血を流す者を目にしたのです。しかも、それが自らが庇護する者であれば尚更でしょう」
主治医がサミュエルをたしなめる。
「マーガレット様、僕は大丈夫ですから」
ルーカスは左手でマーガレットの手に軽く触れ、そっと右半身を支える腕を解いた。
「ルーカス、無理しないで……」
マーガレットは眉間に皺を寄せ、苦しげに囁いた。
「お見苦しいところをお見せし、ご心配をおかけして……」
「そんな……煩わしいなんて思ってないわ」
「マーガレット、ルーカスには今は休んでもらおう。鎮痛剤を飲んで、まずは体力の回復が先だ」
「……ありがとうございます、サミュエル様。マーガレット様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。先生にもご面倒をおかけして……」
ルーカスは、申し訳なさそうに一人ひとりに頭を下げた。そして、医師の用意した鎮痛剤を飲むと、再び深い眠りに落ちた。
サミュエルは、ルーカスを襲った犯人——いや、黒幕の存在について、思考を巡らせていた。
日はすでに沈みかけ、辺りは薄暗さを増していた。ルーカスは乗り合い馬車に揺られ、ヘイウッド家近くの降車場で降りる。屋敷までは徒歩で数分の距離だった。
足早に歩を進めていたその時、不意に後ろから突き飛ばされた。
一体、どこから現れたのか——。
倒れたルーカスが見上げると、数人の粗暴な男たちが取り囲んでいた。
いかにもチンピラといった風体で、口調も荒い。
「おー、噂通り、なかなかの面だな」
「……っ?!」
「ひひっ、どう料理してやろうか」
「何したって構わねえって話だぜ」
「命だけは取るなってな……ははは!」
「やめろ!お前たちは何なんだ!」
「悪いな。お前に恨みはねえよ」
「ただ、目障りなんだとさ」
ルーカスは立ち上がろうとするが、すぐに複数人に抑え込まれ、殴る蹴るの暴行が始まった。
「何をしている!」
街の警備隊のひとりが騒ぎに気づき、怒声を上げながら駆け寄ってくる。
「やべっ、警備隊だ!」
「捕まったら報酬がパーだ!」
「逃げろ!」
男たちは暴行を中断し、一斉に走り去った。ルーカスは遠ざかる足音を耳にしながら、意識を失いかける。
(何したっていい)
(命は取るな)
(報酬)
(目障り)
意識が完全に途切れる直前、彼らが口にしていた言葉が頭の中に残っていた。
――誰が、こんなことを。
==================
ルーカスが意識を取り戻した時、彼はヘイウッド侯爵家の客室のベッドに横たわっていた。
「ルーカス!」
マーガレットの悲痛な声が耳に届く。
声の方へ首を向けようとした瞬間、顔に鋭い痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「痛むのね……。どこが痛む? 話せそう?」
ベッドの傍らで、涙を浮かべたマーガレットが彼を見つめていた。
「マーガレット、ルーカスは重傷だ。今は矢継ぎ早に話しかけるべきではない」
「……申し訳ありません、お兄様。ルーカスも……ごめんなさい」
《マーガレット様が謝ることなんてないのに》——ルーカスはそう思ったが、口の中が酷く裂けているのか、声を出そうとした瞬間に血の味と鋭い痛みが走った。
「……っ」
「かなり痛むようだな。鎮痛剤は早めに飲んだ方がいい」
そう言ったのは、侯爵家の主治医である。白髪と白い髭を蓄えた初老の医師だった。
「ルーカス、起き上がれるか?」
ルーカスは頷き、ゆっくりと起き上がろうとする。しかし、両脇腹に激痛が走り、思わず体が傾く。右手で体を支えようとしたが、力が入らず、そのまま右に崩れた。
「ルーカス!」
慌てたマーガレットがルーカスの右半身を支えた。だが、ルーカスは彼女の手に触れられるのが居た堪れず、右腕を引こうとする——動かない。
「……せん…せい、右腕が……動きません……」
「そうだろう。折れている。右腕だけじゃない、肋骨も数本折れていた。幸い、内臓に刺さってはいなかった。不幸中の幸いだったな」
マーガレットは真っ青な顔で医師の言葉に耳を傾け、震える手でルーカスの体を支えていた。
「ルーカス、誰かに恨まれるような心当たりは?」
マーガレットの兄、サミュエルが尋ねた。だがルーカスが答える前に、マーガレットが声を上げた。
「お兄様! ルーカスはそんな人ではございません!」
「だが、襲撃の状況は不自然だ。ここは治安の良い地区だぞ。警備隊が目撃した限りでは、犯人たちはこの辺りの住人ではないようだ」
事件後、ルーカスは駆けつけた警備隊に助けられた。学園の身分証を所持していたため、すぐに身元が判明し、ヘイウッド家へと搬送されたのだった。
「……ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
ルーカスは、サミュエルとマーガレットに深く頭を下げた。
「今回の件、身に覚えはありません。ただ……彼らは“報酬”という言葉を口にしていました」
「報酬、だと?」
「はい。『何をしてもいい、命だけは取るな』と……そう言っていました」
「つまり、誰かに雇われた可能性があるということか」
「……はい。状況からして、そうとしか思えません」
「そんな……ひどいわ……誰が……何のために……!」
マーガレットは再び顔を青ざめさせ、動揺を隠せなかった。ルーカスの重傷を見てから、ずっと取り乱してばかりだった。
「マーガレット、騒ぎすぎだ。どうした、お前らしくもない」
「……申し訳ありません」
「まあまあ、サミュエル様。若いご令嬢が血を流す者を目にしたのです。しかも、それが自らが庇護する者であれば尚更でしょう」
主治医がサミュエルをたしなめる。
「マーガレット様、僕は大丈夫ですから」
ルーカスは左手でマーガレットの手に軽く触れ、そっと右半身を支える腕を解いた。
「ルーカス、無理しないで……」
マーガレットは眉間に皺を寄せ、苦しげに囁いた。
「お見苦しいところをお見せし、ご心配をおかけして……」
「そんな……煩わしいなんて思ってないわ」
「マーガレット、ルーカスには今は休んでもらおう。鎮痛剤を飲んで、まずは体力の回復が先だ」
「……ありがとうございます、サミュエル様。マーガレット様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。先生にもご面倒をおかけして……」
ルーカスは、申し訳なさそうに一人ひとりに頭を下げた。そして、医師の用意した鎮痛剤を飲むと、再び深い眠りに落ちた。
サミュエルは、ルーカスを襲った犯人——いや、黒幕の存在について、思考を巡らせていた。
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