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劇場の食堂は、昼下がりの光が大きな窓から差し込み、木製のテーブルや椅子に柔らかい影を落としていた。
香ばしいパンの香りと、料理の湯気がほのかに漂い、静かだが活気のある空間になっている。
アナベルは、翻訳の監修作業が一区切りついたあと、次の台本を手に昼食を摂っていた。サンドイッチを頬張りながら、ルクリト語の台本に目を通す。
(素敵なお話になりそう……ロマンチックコメディー、やっぱり大好き)
思わず頬が緩み、テーブルの上で軽く微笑むアナベル。
「熱心だね」
背後から柔らかい声がかかり、振り向くと、昼食のトレイを持ったエリオットが立っていた。窓の光に照らされて、少し肩に光が反射している。
「新しい台本だね?まだ翻訳は終わってないから、僕の手元には来てないけど……アナベルの表情を見ると、面白そうな話かな?」
微笑みながら話すエリオットに、アナベルは少し頬を赤らめて答える。
「私は、難解なストーリーよりも、笑えて心が温まって、みんながハッピーになる物語が好きです」
「ふふ、今回はそんなお話かな?」
「はい! 主人公が、とても優しく前向きで、つい応援したくなるキャラクターなんです」
「いいね。主人公は男性?女性?」
「男性です。きっと、エリオットさんにぴったりです!!」
勢いよく言ってしまったあと、アナベルは慌てて口元を覆い、顔を真っ赤にする。
「あ、すみません……なんだか、私、もう大人なのに……めちゃくちゃ子どもっぽくなっちゃって」
「っ……!あはははは!」
エリオットは大きく笑い出す。声に温かみがあり、食堂の空気に響いた。
「いや、アナベル。そこは君のいいところだから、反省しなくて大丈夫だよ」
真っ赤な顔のアナベルを見つめ、エリオットは胸の奥で不意に芽生えた感情に気づく。
(……どうして、君はこんなに可愛いんだろう。笑っているだけで、胸が苦しくなるなんて……)
鼓動がやけに速くなり、視線を外せない。
(この気持ち…何なんだ?)
一方、アナベルはエリオットの気持ちに全く気づかず、話を続ける。
「カロリーヌさんからは『淑女の風上にも置けないわ』って、毎回注意されてます」
カロリーヌの物真似をしながら、おどけて話すアナベル。エリオットはますます笑いをこらえられない。
「明日、アナベルはお休みだったよね?」
「はい」
「実は、リバー伯父さんがもうすぐ誕生日で……」
「え! リバー所長が?!」
「一緒にプレゼントを選んでもらえないかな?」
「もちろんです! 私も所長にプレゼントを渡したいです」
「よかった。じゃあ、待ち合わせして一緒に買い物に行こう」
「はい!よろしくお願いします」
喜んで約束したが、アナベルは一歩冷静になる。
(ええっ!? エリオットさんと休日に……いや、違う。あくまでも所長の誕生日プレゼントを買うだけ……デートじゃない)
頭の中でさまざまな感情が渦巻き、百面相のような表情で忙しいアナベルだった。
***
アナベルが下宿に戻ると、台所からカロリーヌが顔を出す。
「おかえりなさい。ん?何か良いことあった??」
カロリーヌは鮮やかな赤いリボンで髪をまとめ、目を輝かせてアナベルに詰め寄る。身振り手振りを交え、好奇心いっぱいの様子だった。
お昼の食堂でのエリオットとのやり取りをカロリーヌに話すと、大騒ぎになった。
「やだっ!それってデートじゃない!」
テンション高めで、身振り手振り話し始める。
「エリオットも回りくどいわね。もうちょっと直接的に誘えばいいのに」
「いや、目的はあくまでリバー所長の誕生日プレゼントです」
「ふふふ~、それはどうかしら?」
カロリーヌも自身のプレゼント選びの経験を交え、話が脱線する。
「あ、カロリーヌさん、所長のプレゼント買いました?」
「まだ、買ってないのよ。というより、むしろ私がもらいたいくらいよ」
「誕生日でもないのに?」
「ええ、そうよ。リバーの世話を焼いているからね」
「仲が良いですね!」
「愛しのギルバートの弟だから、仕方なくよ!」
*
なんだかんだで、翌日の買い物にはカロリーヌも同行することになった。
約束の待ち合わせ場所は、王都の中心部にある賑やかな商店街の入り口付近。
小さな噴水が広場の中央にあり、周囲には石畳が敷かれ、カフェや雑貨店がたくさん並んでいた。
アナベルとカロリーヌが石畳の広場に現れると、エリオットは一瞬足を止め、目を見開いた。
「エリオット、ちょっといいかしら?」
カロリーヌはエリオットの肩を組み、柱の影まで誘導し、小声で耳打ちする。
「目線は固定してなさい。前からアナベルが妙な人間に尾行されているのよ」
「えっ!」
思わず振り向きそうになるエリオットを、ヘッドロックで抑えるカロリーヌ。
「振り返らないで。大した相手じゃないけど、尾行している人間が変わったの。
今日は私も買い物に付き合うふりをして、尾行している人間を拘束するわ。単独犯なのか、黒幕がいるのか、正体を吐かせるつもりよ」
「なんで、アナベルが……」
「そこは私に任せなさい。ただ、相手は男だし……もし、私がやられそうになったら、お願いね、エリオット」
「いや、絶対に、カロリーヌがやられるわけないよ……」
カロリーヌが買い物を同席した理由は、こうして尾行者の正体を暴くためだった。
香ばしいパンの香りと、料理の湯気がほのかに漂い、静かだが活気のある空間になっている。
アナベルは、翻訳の監修作業が一区切りついたあと、次の台本を手に昼食を摂っていた。サンドイッチを頬張りながら、ルクリト語の台本に目を通す。
(素敵なお話になりそう……ロマンチックコメディー、やっぱり大好き)
思わず頬が緩み、テーブルの上で軽く微笑むアナベル。
「熱心だね」
背後から柔らかい声がかかり、振り向くと、昼食のトレイを持ったエリオットが立っていた。窓の光に照らされて、少し肩に光が反射している。
「新しい台本だね?まだ翻訳は終わってないから、僕の手元には来てないけど……アナベルの表情を見ると、面白そうな話かな?」
微笑みながら話すエリオットに、アナベルは少し頬を赤らめて答える。
「私は、難解なストーリーよりも、笑えて心が温まって、みんながハッピーになる物語が好きです」
「ふふ、今回はそんなお話かな?」
「はい! 主人公が、とても優しく前向きで、つい応援したくなるキャラクターなんです」
「いいね。主人公は男性?女性?」
「男性です。きっと、エリオットさんにぴったりです!!」
勢いよく言ってしまったあと、アナベルは慌てて口元を覆い、顔を真っ赤にする。
「あ、すみません……なんだか、私、もう大人なのに……めちゃくちゃ子どもっぽくなっちゃって」
「っ……!あはははは!」
エリオットは大きく笑い出す。声に温かみがあり、食堂の空気に響いた。
「いや、アナベル。そこは君のいいところだから、反省しなくて大丈夫だよ」
真っ赤な顔のアナベルを見つめ、エリオットは胸の奥で不意に芽生えた感情に気づく。
(……どうして、君はこんなに可愛いんだろう。笑っているだけで、胸が苦しくなるなんて……)
鼓動がやけに速くなり、視線を外せない。
(この気持ち…何なんだ?)
一方、アナベルはエリオットの気持ちに全く気づかず、話を続ける。
「カロリーヌさんからは『淑女の風上にも置けないわ』って、毎回注意されてます」
カロリーヌの物真似をしながら、おどけて話すアナベル。エリオットはますます笑いをこらえられない。
「明日、アナベルはお休みだったよね?」
「はい」
「実は、リバー伯父さんがもうすぐ誕生日で……」
「え! リバー所長が?!」
「一緒にプレゼントを選んでもらえないかな?」
「もちろんです! 私も所長にプレゼントを渡したいです」
「よかった。じゃあ、待ち合わせして一緒に買い物に行こう」
「はい!よろしくお願いします」
喜んで約束したが、アナベルは一歩冷静になる。
(ええっ!? エリオットさんと休日に……いや、違う。あくまでも所長の誕生日プレゼントを買うだけ……デートじゃない)
頭の中でさまざまな感情が渦巻き、百面相のような表情で忙しいアナベルだった。
***
アナベルが下宿に戻ると、台所からカロリーヌが顔を出す。
「おかえりなさい。ん?何か良いことあった??」
カロリーヌは鮮やかな赤いリボンで髪をまとめ、目を輝かせてアナベルに詰め寄る。身振り手振りを交え、好奇心いっぱいの様子だった。
お昼の食堂でのエリオットとのやり取りをカロリーヌに話すと、大騒ぎになった。
「やだっ!それってデートじゃない!」
テンション高めで、身振り手振り話し始める。
「エリオットも回りくどいわね。もうちょっと直接的に誘えばいいのに」
「いや、目的はあくまでリバー所長の誕生日プレゼントです」
「ふふふ~、それはどうかしら?」
カロリーヌも自身のプレゼント選びの経験を交え、話が脱線する。
「あ、カロリーヌさん、所長のプレゼント買いました?」
「まだ、買ってないのよ。というより、むしろ私がもらいたいくらいよ」
「誕生日でもないのに?」
「ええ、そうよ。リバーの世話を焼いているからね」
「仲が良いですね!」
「愛しのギルバートの弟だから、仕方なくよ!」
*
なんだかんだで、翌日の買い物にはカロリーヌも同行することになった。
約束の待ち合わせ場所は、王都の中心部にある賑やかな商店街の入り口付近。
小さな噴水が広場の中央にあり、周囲には石畳が敷かれ、カフェや雑貨店がたくさん並んでいた。
アナベルとカロリーヌが石畳の広場に現れると、エリオットは一瞬足を止め、目を見開いた。
「エリオット、ちょっといいかしら?」
カロリーヌはエリオットの肩を組み、柱の影まで誘導し、小声で耳打ちする。
「目線は固定してなさい。前からアナベルが妙な人間に尾行されているのよ」
「えっ!」
思わず振り向きそうになるエリオットを、ヘッドロックで抑えるカロリーヌ。
「振り返らないで。大した相手じゃないけど、尾行している人間が変わったの。
今日は私も買い物に付き合うふりをして、尾行している人間を拘束するわ。単独犯なのか、黒幕がいるのか、正体を吐かせるつもりよ」
「なんで、アナベルが……」
「そこは私に任せなさい。ただ、相手は男だし……もし、私がやられそうになったら、お願いね、エリオット」
「いや、絶対に、カロリーヌがやられるわけないよ……」
カロリーヌが買い物を同席した理由は、こうして尾行者の正体を暴くためだった。
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