【完結】綺麗なだけじゃ、生きていけない

とっくり

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 賑やかな商店街の一角。
 その中を、アナベル、エリオット、そしてカロリーヌの三人が歩いていた。

 アナベルは手にメモ帳を持ち、買い物リストを確認しながら歩き、背筋は自然に伸びている。
 エリオットは真剣な表情で商品を見定めつつも、時折アナベルに視線をやり、微笑みを漏らす。カロリーヌは華やかなリボンを揺らしながら、商店街の景色を楽しむ余裕たっぷりの表情をしていた。

「リバー所長、お幾つになるんですか?」
 アナベルがメモ帳に書き込むように、小声で尋ねる。

「リバー伯父さんは、四十二歳かな」
「ということは、カロリーヌさん…も?」

 カロリーヌはくすっと笑い、両手を腰に当てて肩を揺らす。

「んもー!レディに年齢を聞くなんて失礼しちゃうわっ。私は永遠の二十歳よ!」

「カロリーヌ、それだと僕より歳下じゃないか」
 エリオットが苦笑交じりに突っ込むと、カロリーヌは眉をひそめ、しかし軽やかに手を振る。

「あなた、無粋ねぇ。例えよ!た・と・え!」

 アナベルは真剣な顔でメモ帳に書き込む。
「カロリーヌさんは、永遠の二十歳…」

 それを見たエリオットは、思わず顔をしかめて笑う。

「こんなしょうもない情報をメモする必要ないよ!」
 と、慌ててアナベルを制する。

 その光景に、カロリーヌは満面の笑みを浮かべた。

「アナベルって本当に真面目で良い子だわっ」
 と言うや否や、逞しい腕で華奢なアナベルを抱きしめる。アナベルは一瞬驚き、顔を赤らめて小さく身を縮める。

「カロリーヌ!」

 慌ててエリオットが手を伸ばして引き剥がそうとするが、カロリーヌはビクともしない。

 そのままエリオットの耳元で声を落とし、カロリーヌは囁く。
「尾行人が動いたわ。接触してくるから、アナベルをお願いね」

 エリオットは驚きと緊張が混ざった表情で頷いた。

「私、お花摘みに行ってきまーす」

 カロリーヌはそう告げると、華やかなリボンを揺らしながら、まるで夕暮れの光の中に溶け込むように、通りの奥へと姿を消した。

「カロリーヌさん?」
「アナベル、とりあえず、プレゼント探しを続けようか」
 エリオットは笑顔でアナベルに話かける。

「はい。何が喜ばれますかね?」
「ひとまず、雑貨を見てみよう」

 二人は再びリバー所長のプレゼント探しに集中するのだった。




 商店街の片隅にある、落ち着いた雰囲気の健康グッズ売り場。
 木目の棚には、ツボ押しやマッサージ用品が整然と並び、店内にはかすかなアロマの香りが漂っている。
 外の賑やかさから少し隔絶された、静かで柔らかな光に包まれた空間だ。

「所長、肩が凝るのか、よく腕を回したり、解したりする動作していたんです。東方の国では、ツボ治療?というのがあって、そのツボを刺激すると、固まった筋肉がほぐれるそうなんです。この、木で出来たツボ押し器なんて、どうでしょうか」

 アナベルは手に持った小さな木製器具を差し出し、真剣な表情で説明する。目の奥には、知識を共有したいという熱意が光っていた。

「木の先端は丸くなっているのか。これは握りやすいね。肩のツボはこの辺かな?」

 エリオットは見本の品に添えられた人体図を確認しながら、自分の肩に器具を当てて軽く押す。肩の筋肉がほぐれる感触に、思わず眉を寄せて目を細める。

「これ、いいね!肩が解れる。自分で強さも加減できるし。いいな。僕も買おうかな」

「ふふふ、実は、私持っているんです!とても良くておすすめです」

 アナベルは満面の笑みを浮かべ、器具を差し出しながら、少し前かがみになって説明する。肩越しに見える柔らかな頬の色、真剣なまなざし、手元の小さな仕草すべてが、エリオットの視線を捕えて離さない。

 思わずエリオットは息を呑み、心の奥で何かが弾けるのを感じた。

「アナベルと揃いで、ちょっと嬉しいかも…」

 口に出す前に、その言葉は胸の奥で震えとなって波打つ。
 ふと、彼女の笑顔を見つめる自分に気づく。目の前のこの子を見ているだけで、なぜか心が温かく、胸の奥がざわつく。

(ああ……俺、アナベルのことが好きだ…)

 その自覚は、静かに、しかし確実に胸を支配した。胸の鼓動がやたらと早くなり、手のひらは少し汗ばんでいる。頭では理性が働こうとするが、心はもう否定できない。

「所長にも買ったら、三人でお揃いです」
 と、アナベルが無邪気に笑う声が、耳に柔らかく響く。

 その瞬間、エリオットは戸惑いながらも、確かに自分の感情の方向を理解した。胸の奥で、暖かく、少し甘い感覚がじんわりと広がる。

「……これは、困ったな」と、微かに笑みを浮かべながらも、胸の奥のざわめきに気づかずにはいられなかった。

 自覚した思いが、胸の中でふわりと膨らむ。目の前の笑顔が、ふとした仕草が、心を揺さぶり、鼓動が早まる。
 いつも冷静でいたはずの自分が、今だけは甘く蕩けそうになっていることに、エリオットは戸惑いながらも微笑まずにはいられなかった。
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