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本編【カレンへの試練】
合否
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「時間が時間だから」と言う理由でミーシャを帰した後、カレンはローズマリーもといロイたちと合流した。
カレンが車に乗り込む。
「シャーロットって人の住所。ここに百人分の名前と住所のリストがあります」
カレンが震える手でロイにメモを渡す。
「わかりました。不合格ですね」
「……うん。でも……」
ショックだった。
「それは酷なんじゃないのっ?! あのミーシャっていう人曰く、本当にシャーロットって人の家にそれがあるんでしょう?!」
「そうですよ、ロイさん」
「僕が言いたいことはまだ終わったいませんよ。不合格ですが、結果は秀逸です。図らずとも百人分のリストを持っているとされる人物と繋がるなんて、運がいいですね」
「つまり何が言いたいの?」
アリスが詰め寄る。
「……不合格ですが、不合格寄りの繰上げ合格にしましょう、仕方ないので」
「仕方ないって」
レオンがぼやく。
「百人分の住所を確認するためには、僕はそのシャーロット・フォン・ルッツ少佐の家を訪ねないといけないんです。それは嫌です。よって、僕には確認のしようがありません。カレンさんのそのメモの住所を百人分とみなすしかありません」
「ってことは……?」
カレンが期待を込めた目でロイを見つめる。
「だから、合格です」
「え?」
「やったじゃん!」
「おめでとうございます!」
「その代わりこれから厳しく指導しますからね」
ロイはやや悔しげに言い放った。
この女、運が良すぎるにも程がある、と。
カレンは目を丸くしている。
自分の合格を信じられないかのようだ。
「こういうのでいいの?」
「本当なら、百人分の住所をでっちあげても、人の郵便物を拝借してもよかったんですよ」
ロイは無愛想に言う。
「思考の柔軟性を見ていたんです。『こう言われたからこう』が通用しないタイミングが多々ありますから。そういう点では不合格のレベルでしたね」
「そんな方法……なるほど。全然気づかなかった」
「わたしたちだって、見てたんだよ」
「はい。見させてもらいました。あ、紹介遅れました。レ、レオンっていいます。ロイさんとアリス嬢がお世話になってます」
レオンが軽く会釈する。
「はあ……、よろしくお願いします」
「勘違いしないでください。我々はまた貴女を認めたわけではありません」
「まだ粘るの? ま、キモチはわかるけどね。最悪なことに」
「どういうこと?」
「カレン、尾行と監視に気づかなさすぎ。そんなんだと、ただの協力者っていう『お人形』でも死ぬよ?」
「死ぬって。あと、『お人形』って?」
「ロイの協力者のこと」
「そう……頑張る」
「頑張ったって、死ぬものは死ぬんですよ」
ロイが冷徹に言う。
「うん……」
「死ぬよ?」
その一言が、その日以来いつまでもカレンの胸に刺さったままだった。そして、自分が踏み込んだ世界の重さに改めて打ちのめされそうにもなった。
「そう言えば、それで、私はロイ君の家に行けるの?」
「家? なぜ来る必要があるんです?」
ロイはキョトンとしている。
「そんな言い方しなくても……」
「だって、試験に合格したら『正式にお迎えに上がります』って言っていたでしょう? それに、おと、お友達だし」
カレンはバツが悪そうにもじもじしながら言った。
「さあ、言いましたっけ」
「え?! 言ってたよ。私聞いたもの」
「そうだとしても、現状貴女を呼ぶメリットはありませんね。ホームパーティでもするんですか」
「ホームパーティって」
アリスが鼻で笑う。
「ロイさんが一番嫌いな催し物っすね」
レオンも苦笑する。
「逆にお聞きしますが、なぜ僕の家に来れるかなんて心配するんですか?」
「だ、だって、そういうのいいなって……」
「そういうのとは?」
「お友達のおうちでお茶する……とか」
他愛もない会話を同年代の友人とお茶をしながら楽しむ。そんな茶会にカレンは憧れていた。幼少期から交友関係を制限されていたからだ。
「お茶はしなくても、訓練のためなら、百歩譲ってお誘いするかもしれませんね」
睨みつけるような鋭い目を向けられたカレンは、苦笑いをしながらその場を凌ぐしかなかった。
カレンが車に乗り込む。
「シャーロットって人の住所。ここに百人分の名前と住所のリストがあります」
カレンが震える手でロイにメモを渡す。
「わかりました。不合格ですね」
「……うん。でも……」
ショックだった。
「それは酷なんじゃないのっ?! あのミーシャっていう人曰く、本当にシャーロットって人の家にそれがあるんでしょう?!」
「そうですよ、ロイさん」
「僕が言いたいことはまだ終わったいませんよ。不合格ですが、結果は秀逸です。図らずとも百人分のリストを持っているとされる人物と繋がるなんて、運がいいですね」
「つまり何が言いたいの?」
アリスが詰め寄る。
「……不合格ですが、不合格寄りの繰上げ合格にしましょう、仕方ないので」
「仕方ないって」
レオンがぼやく。
「百人分の住所を確認するためには、僕はそのシャーロット・フォン・ルッツ少佐の家を訪ねないといけないんです。それは嫌です。よって、僕には確認のしようがありません。カレンさんのそのメモの住所を百人分とみなすしかありません」
「ってことは……?」
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「だから、合格です」
「え?」
「やったじゃん!」
「おめでとうございます!」
「その代わりこれから厳しく指導しますからね」
ロイはやや悔しげに言い放った。
この女、運が良すぎるにも程がある、と。
カレンは目を丸くしている。
自分の合格を信じられないかのようだ。
「こういうのでいいの?」
「本当なら、百人分の住所をでっちあげても、人の郵便物を拝借してもよかったんですよ」
ロイは無愛想に言う。
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「そんな方法……なるほど。全然気づかなかった」
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「はい。見させてもらいました。あ、紹介遅れました。レ、レオンっていいます。ロイさんとアリス嬢がお世話になってます」
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「はあ……、よろしくお願いします」
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「カレン、尾行と監視に気づかなさすぎ。そんなんだと、ただの協力者っていう『お人形』でも死ぬよ?」
「死ぬって。あと、『お人形』って?」
「ロイの協力者のこと」
「そう……頑張る」
「頑張ったって、死ぬものは死ぬんですよ」
ロイが冷徹に言う。
「うん……」
「死ぬよ?」
その一言が、その日以来いつまでもカレンの胸に刺さったままだった。そして、自分が踏み込んだ世界の重さに改めて打ちのめされそうにもなった。
「そう言えば、それで、私はロイ君の家に行けるの?」
「家? なぜ来る必要があるんです?」
ロイはキョトンとしている。
「そんな言い方しなくても……」
「だって、試験に合格したら『正式にお迎えに上がります』って言っていたでしょう? それに、おと、お友達だし」
カレンはバツが悪そうにもじもじしながら言った。
「さあ、言いましたっけ」
「え?! 言ってたよ。私聞いたもの」
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「だ、だって、そういうのいいなって……」
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