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壊れた心
しおりを挟む男の名前は、《橘黒》――
大竜牙帝国の中でも特に歴史のある家に生まれた。双子の男児――
歴史のある家に産まれ。その上、一族の中でも稀な高い魔法への適性、膨大な魔力、それらを扱う柔軟な才。
そして、それらが霞んでしまう程に《強大》で《不気味》な力を持った。――魔物の存在。
魔物は、すべての種族が持っている。魔力と呼ばれる特殊な力を操る者に例外なく。
――魔力は『水』である。魔物は、その『源流』である。
遥か大昔の偉大な魔法学者がそう述べ、現在までに多くの学者がその言葉を元に魔法の開発やそれを応用した医療技術の発展が行われた。
そして、医療技術の発展と共に多くの国で、人類の天敵《異形》との戦う手段として、魔法や魔物の力が発展していた。
数年が経過し様々な技術の進歩によって、騎士と呼ばれる若者達に異形からの脅威に抗う力が与えられ、騎士養成所が当時の《倭》や四大陸の各地で設立された。
騎士養成所が設立され、数千年の節目に世界を震撼させる《事件》が起きた。
そして、それが橘黒を地獄へと引きずり込んだ。
その事件は、今まで類を見ない被害を生んだ。それと同時に竜人族こそが、種族の頂点に君臨する者達なのだと知らしめた。
その日は、雨が降っていた。前日の晴れ晴れとしていた天気が嘘のように土砂降りの天気であった。
当時、事件の救護へと駆け付けた騎士団の精鋭部隊は、真っ先に目を疑った。
「……これを、学生が?」
養成所は突如として出現した異形によって、跡形もなく破壊された。そして、3名だけの死者を出した。
まるで、嘘の報告書のようだと事件の全貌を知らない者達は笑った。
これまで多くの犠牲者が出た異形の事件で、これほど少ない被害は類を見ない。
あり得ないほどに少ない犠牲者の数は世界を震撼させ。養成所近辺の被害規模で、今回の事件は終息して行った。
ニュースにされた内容も大まかに省略され、隠蔽された箇所が多いと言う噂も存在する。
事実、異形の討伐数がニュースと専門家の意見で、分かれている。
実際に、その光景を見た騎士は言葉を揃えてこう言った。
――あれが、竜人族の《竜》の部分だ。
――現場へと駆け付けた騎士が、1人だけその場にうずくまって震える。獣人の生徒に声を掛ける。
誰の目からも彼女の様子は尋常ではなかった。小刻みに震えていたのは、土砂降りの中で身を晒した事による寒さによる震えなどでは決してなく。
恐怖による精神への影響が彼女だけでなく。養成所の教職員と生徒全員を襲っていたのであった。
「……俺は、幻でも見てるのか?」
「いや、現実だ。嘘でも幻でも……夢でもねーよ」
精鋭部隊の彼らが避難や異形の対象も必要無いほどに、3名の犠牲者と獣人の彼女を覗く。4名以外の者達は強固な《結界》によって守られていた。
そして、養成所を囲むように現れたと推測出来る異形の屍が灰となって崩れ始めていた。
土砂降りの中でも、灰となって消える異形の群れが未だに肉体を保っていた。
それは、肉体が灰化する事を認識する前に葬られている証拠である。
崩れ始めた異形のその奥で、恐怖によって本能的に逃げる大型異形種を追跡する1つの黒色の彗星が微かに見えた。
雨の中でもはっきりと見える程に、魔力が可視化されている。
地面を力強く蹴って、異形を殴る。透かさず異形の肉塊を蹴って、そのまま止まることなく異形を次々と葬る。
怒りに支配され、破壊と暴力の限りを尽くす獣の雄叫びが大地を空を、周辺一帯の魔力を震わせる。
手に持った刀が雨粒を切り裂くと、眼下に広がる樹木の森が異形の体と同じく真っ二つへと切断される。
数百といた筈の異形が、ものの数分ですべて消された。そして、怒りを吐き出すように獰猛な獣は地面や山を吹き飛ばし始めた。
圧縮された魔力が弾け、止めに入った精鋭騎士を数キロ先の湖へと吹き飛ばす。
「……返せ。………返せ…返せッ!!!」
男は頭を掻きむしり、血涙を流して怒号を挙げる。
「俺の仲間を返せよォ――!!!!」
それが、黒が皇帝と呼ばれる功績の1つである。
その時点で異形討伐数、推定でも驚異の9000体と言われている。
――が、後に発表されたこの数字だったが、現場をこの目で見た騎士や学者はその数を真っ先に否定した。
何故ならば、異形の屍が生み出す《灰》は水に溶けやすい性質を持っている。そして、その日の雨は3日と続いた。
だが、あの養成所を襲った異形の灰はその後、3日以上は消えずに残っていた箇所が存在した。
雨が灰を消すよりも、雨量を上回る灰がその地を覆っていた。確固たる証拠。
その後、黒はまるで人が変わった――
復讐に取り憑かれたかのように、誰よりも先に異形を殺した。
警報が鳴り響くよりも先に、他の騎士が到着するよりも先に、黒の刀が異形の硬い皮膚をペラペラな紙を切るかのように、容易く切り裂く。
肉を断ち、骨を切り落とす。屍となって、灰へと消える異形の山で黒は真っ黒な髪の毛を――灰色に染める。
憎悪と怒りに満ちた黒の目から見ても分かるように、人間性を失っていた。
「……返せよ。俺の――仲間を」
一睡もせずに、ただ刀を振るう。現れる異形が倭の秘境のような奥地だろうが、荒れ狂う嵐の海だろうが関係は無かった。
黒自身の体や心を顧みないほどに限界を超えた魔力感知に、僅かでも触れた異形は片っ端から切り捨てた。
荒んだ心は、肉体を凌駕する。腕が引きちぎれようが、体が弾けようとも、黒の魔力が続く限り肉体はたちまち再生し続けた。
魔力が壊れた肉体を再生し、また壊れるまで戦いを続ける。
「……止めなさい。黒、もう体は限界なのよ」
母親の言葉に、黒は笑って告げる。
「――俺には、死んだ先が『ゴール』じゃねーんだよ。この世から、消した先にゴールがあるんだ」
刀が刃こぼれすれば、すぐに取り換えて再び異形を滅ぼす。
養成所を卒業間近で、黒の周囲には異形を殺す為だけの部隊が自然も出来上がった。
当時、養成所内で優秀な成績と高い実力を有した者達などを簡単に凌駕する。完全な実力主義の部隊が出来上がった。
とは言え、正式な手順ではなく。
黒の周りに集まった友人があの日を境に、様変わりしただけの仲良しチームである。
仲良しチームと何も知らない者達が言ったが、彼らに《連係》も《人間性》も存在しない。
《異形の殲滅》と言うたった1つの目的の為に、彼らは死を恐れない欠落者となった。
仲間の一人が異形に捕まったとしても、躊躇無く彼らは人諸とも異形を殺す。
そんな黒を救ったのが、他でもない。――未来であった。
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