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後悔は無い《Ⅰ》
しおりを挟む硬い地面を爪先で蹴って、軽くジャンプする。久しぶりに本気を出したのか、身体のあちらこちらで悲鳴が聞こえる。
そんな事を黒が話すと、折れ曲がった鼻を治療する《ルシウス》とその場に座って他愛ない話をする。
時折、2人はバカをやったあの頃の話で盛り上がった。
当時、14歳の2人が異形を殺す為だけに走り回った青春は、彼らにとって良い思い出とは言えない。
が、ルシウスはそれも思い出と言って笑った。道草食って、食べ歩きやゲームなどの学生同士の他愛ない生活を黒達は知らない。
でも、あの頃の黒に付いて行った事は何一つ後悔していなかった。
「あの日々があったから、今を全力で生きる活力になったんだ。黒くんのおかげで、大切な存在の重要性に気付けた。力の扱い方や守り方をキミから教わった。黒くんには、感謝しかない」
「……感謝、か。感謝なら、俺の方だ。こんな引きこもりの為に、体張ってくれてありがとうな」
「何を今さら、黒くんは僕の友人だ。キミの危機に誰よりも速く駆け付けるよ。……キミが、僕にしてくれた様に」
その言葉に、黒は救われた。
地面に涙が落ちる。黒が嗚咽を我慢しきれずに、体を小刻みに振るわせる。
責められると思っていた。自分の弱さが招いた責任があった。
「キミのせいじゃない。黒くんは、頑張った……」
「まだ、やるべき事がある。やらなきゃならない事がある」
ルシウスの前から立ち上がって、黒はかつての瞳を輝かせる。
鼻水が垂れて、涙で顔が真っ赤な格好の付かない顔での言葉だった。でも、あの頃の《皇帝》が戻ってきた。
「どうする気なのか、聞いても良いかな?」
「まず、ここから出て……倭に行く」
「正気か? 今の倭は異形侵攻の最前線だ。力の無いキミでは――」
「――ルシウス」
ルシウスの言葉を遮って、黒は自身に満ちた顔をしていた。鼻水や涙を拭って、進行方向に集まった鉱石で出来た人形が襲い掛かってきた。
ルシウスと黒の魔力を警戒し、様子を見ていた人形が我先に襲い掛かる。
ルシウスが黒の元へと駆け寄るが、それよりも速い速度で人形の体を黒が破壊した。
人形の顔に、蹴りを入れて壁へと飛ばす。動きを止めた人形を睨み付け、ルシウスに手を出すなと告げる。
「来いよ。人形共、全員まとめてスクラップにしてやる」
構えた黒が背後へと回った人形の首を回し蹴りで粉砕するのを合図に、四方から人形が走り出してきた。
襲い掛かる人形を前に黒は、冷静に対処して次々と破壊して行く。
今までの黒とは確実に異なる――
力任せではなく。人形1体1体に合わせて、最適な体捌きで対処している。
指先と爪先にだけ込めた少量の魔力だけで、立ち回る。今の自分は、魔力が制限された身だと理解している。
以前までのような魔力に物を言わせた強引な戦い方ではなく。騎士本来の流れる様な魔力の使い方と、武術を極めた武術家の戦いを黒はしている。
人形に組み付いて、関節をねじ曲げ足で人形の攻撃を反らす。組み付いた人形を投げて、地面に押し付ける。
背後からの攻撃を躱わし、人形同士をぶつけて一度の攻撃で2体同時に破壊する。
「……1、2、3から7っと」
3体の人形を手足で軽く叩き、動きを止めた間にそのまま組み付いて後ろの更に3体の人形を蹴り飛ばす。
横から現れた人形の胴体を魔力を纏わせた拳で貫き、引き抜いた拳でそのまま背後の人形を裏拳の要領で殴る。
砕けた破片を掴んで、裏拳から続いて身体を捻ったまま正面の人形の頭部へ破片を突き刺す。
突き刺した破片を膝蹴りで更に奥へと押し込み、頭を貫通した破片を再び掴んで人形の頭を首諸とも引きちぎる。
雪崩のように迫る人形の中で、黒だけが見ている世界にルシウスは自然と高揚した。
そして、黒の背中に自分の背中を押し当て、四方から迫る人形の相手をしていた。
無意識だった。だが、そんな事など既にどうでも良い――
ルシウスの昂った表情を横目に、黒も自分の口角が釣り上げるのを理解した。
「飛ばすぞ……。しっかり、付いて来いよ!?」
「当然、黒くんの方こそ――遅れないでくれよ?」
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