9 / 231
後悔は無い《Ⅱ》
しおりを挟む人形の群れがただの木偶の坊へと様変わりする。鬼のような形相で、2人は進む。
もう一方が進むと、その後から更に奥へともう一方が足を踏み入れる。
まるで、競い合うかのように、人形を蹴散らす。蹴散らす速度は、止まること無く上昇する。
互いに互いを鼓舞するかのように、2人の攻撃の手は止まらない。
砕けて胴体から落ちた人形の腕を拾った黒が、ヌンチャクのように腕を振り回し次々と道を塞ぐ人形を蹴散らす。
「それ、貸してよ」
「どうぞ、運動不足にはもってこいだろ?」
隣のルシウスへと黒はボロボロになった腕を投げる。2人の間に割って入った人形を2人の連携で直ぐに消す。
投げ渡されたヌンチャクをルシウスは人形の首へと巻いて、そのままヌンチャク諸とも人形を地面へと突き刺す。
イソギンチャクのように地面から出ている下半身を手刀で切り落とし、黒へと投げ渡す。
先ほどよりも長くなったヌンチャクならぬ三節棍を手にして、黒は瞳をギラ付かせる。
「新品か? えらく気が利くな」
「自信作だ。サンドバッグなら、視界に収まらないほどあるぞ?」
三節棍を振り回し、前後左右の人形を蹴散らす。だが、黒の扱い方が雑なのか直ぐに人形の手足が砕けて壊れてしまう。
「ダメだ。脆すぎる」
「黒くんは、扱いが雑なんだよ。……昔からね」
ルシウスの丸々と太った体型からは、予想も付かない華麗な身のこなしで次々と人形の体を吹き飛ばす。
一足先に出口の大扉へと到達したルシウスが一息付いてから、黒へと向き直る。
出口の前で、黒は出口に背を向ける。
「全員、倒すのか?」
「あぁ、ここには1体も残さない。構わず、出てくれ……外で会おうぜ」
ルシウスが出口へと出て、テーブルで目を丸くした梓と目が合う。
血だらけなのに、なぜか嬉しさが溢れるルシウスを見ている梓が中での様子を尋ねるよりも先に、大扉が全開する。
「……柔らかいベッドで、寝てーな。全身が悲鳴を上げてる」
「まぁ、でも久しぶりの運動は気持ちいいだろ?」
「……だな」
テーブルを倒して、梓が黒の元へと駆け寄る。全身の傷や黒の現在の状態を見て慌てる。
だが、それよりも2年の時を経て、黒が出てきた事が何よりも喜ばしかった。
「2年程度じゃ、年取らねーか」
「馬鹿者……。お前が産まれるよりももっと昔から、私は老化しておらん。この、馬鹿者が」
梓が涙を流して、黒の胸を軽く叩く。が――、梓の一撃は黒に致命傷を与えた。
口から吹き出した大量の血液が何よりもその一撃の威力を物語っていた。
いや、正確には――《橘の霊域》の効果の恩恵を受けなくなった黒が、梓の小突き1つで倒れただけである。
《橘の霊域》の力は、内部での傷や致命傷が例外もなくダメージとして認識されない物である。
が、霊域から一方でも出た時点でその恩恵は効果を失う。
故に、全身満身創痍以上のダメージを負っていた黒にとって、赤ん坊のビンタ程度でも致命傷となり得る。
「「くくくくくく、黒ぉぉ!!!??」」
梓が大慌てで、結界術で黒の時間を止める。ルシウスが担架を持って来ようと人を呼びに大慌てで通路を行く。
一人残った梓が自らの顔に手を当てて、涙目で黒の回りを歩く。
従者の藤乃と文乃の2人と、その後ろから救護バックを手にした従者が走る。
担架へと黒を手早く乗せ。結界の中で、藤乃と文乃が応急措置を施す。
知らせを聞き付けた橘家の従者があちらこちらから顔を出して、冷静さを失って人一倍取り乱している梓を宥める者とそうでない者達が総出で黒の治療へと当たる。
2日間と続いた黒の絶叫が、屋敷全体に木霊する。医務室の外では、祈る様に妹の2人が涙を流していた。
「……倭への連絡はいかがいたしましょうか?」
「しなくて良い。……万が一の時は、私がする」
歯軋りする梓が自室に飾られた家族写真を手に取る。自分と自分の息子夫婦に抱かれた黒と双子の《橘白》の笑顔が梓の涙を誘う。
父親に抱かれている白は満面の笑みを浮かべ正面を見ているのに対し、母親の腕の中でおしゃぶりを口から落として泣いている黒――
あの頃から、黒は泣き虫であった。何かある度に泣いて、双子の白も泣き出してと大騒ぎの毎日であった。
そんな生活が、一変した。全ては、2年前のあの日から――
どこで、選択を間違えたのだろうか。白を失って、梓以上に傷を負った黒の母親に万が一の連絡などしたくなかった。
「……神様……どうか、あの子をお助けください」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる