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たった1つの約束《Ⅲ》
しおりを挟む祭壇へと座って、魔力を込めた指先で奈々華は空に文字と魔方陣を描く。
祭壇には碧も座っており、一歩後ろで奈々華がこれから行う術式の構築方法を勉強している。
「もっと、近くでも構いませんよ?」
「いえ、私はここで十分です。陛下の隣など……恐れ多いです」
「ふふっ、黒様とは大違いですね。黒様は隣どころか、この術式を盗んでから、私の前で自慢気に見せ付けてきましたから」
「……バカ兄…」
「いえ、むしろ感謝しかありません。黒様のおかげで、さらなる高みへと至るって、目標も持てました」
言葉を交わしつつもその指は止まらない。滑らかに指を滑らせ、誰の目からも高度な術式の構築技術に碧は言葉を失う。
それは、碧がよく分かるからであった。幼少の頃から、梓の隣で術式の構築技術を目にしていた碧にだからこそ、ハッキリと断言出来る。
梓と同等な彼女の構築技術の高さ、帝国の中でトップレベルの術式構築技術――
「いつの日か、黒様を見返す何て思ったりして……。全ては、ここから始まったんです。黒様のおかげで歩き出せたのも――」
奈々華が指を滑らせ魔方陣を描き、指先を少し噛む。少量の血を贄に魔法を発動させる準備を終える。
最後に術式の対象を設定する。もちろん、その対象は、黒――
「あのー、安全なのでしょうか?」
「はい、黒様なら」
「……俺、なら?」
不安さを顔に露にしながら、黒が魔法の中止を懇願するが聞き入られず術式の構築は進む。
奈々華の指先から、血液が構築した全ての陣へと落ちる。透かさず指の傷を治療し、目にも止まらぬ速さで印を結ぶ。
階級の高い騎士ほど、《方陣》《詠唱》《印》の3つの技術を駆使し、自身の魔法をより強力な物へと発展させてから発動する。
並みの騎士であれば、詠唱と印の2つを戦闘中に扱えれば一人前と呼ばれる。
中には黒のようなデタラメな魔力に頼らず、自身の経験と知識で詠唱、印を同時に展開しながら、隙を作ってから方陣と言う高度なテクニック戦をする。
「久し振りに会ったら、奈々華も詠唱と印だけじゃなくて、方陣の同時展開が出来るようになってるとはな――」
「……話し掛けないで」
「兄さん。陛下に話し掛けないで下さい」
「……はいはい」
その場にあぐらをかいて静かに魔法の発動を待っている。黒の周囲に魔方陣が浮かび上がり、頭上と地上の2つに細部まで細かにされた方陣の2つが完成する。
それを印と詠唱の2つで、さらに発動後の効果と時間を延長する。
「魔法の発動には、その……詠唱だけではダメなのですか?」
『魔法の発動を効率的に行う為の技術と思って下さい。ただの魔法であれば、詠唱のみで確立します。ですが、効果の上乗せや延長を軸に発動する場合のみ。詠唱のみならず、手印、方陣の2つの技術を使うのです』
白銀の竜が碧の問い掛けに答える。単なる攻撃や補助などの魔法でも詠唱単体で事足りる。
が、今回のような規模の大きな魔法には、対象の安全面を考慮し詠唱だけではなく。
詠唱よりも高度な手印、方陣を採用した。
「これで、失敗したら……恨むぞ?」
「失敗したら、私を叩きに来て良いですよ」
「言ったな。なら、約束だ。失敗して何かあったら、叩きに来てやるよ」
「……約束して、良いんですか? まだ、未来様の約束がありますよ?」
その問い掛けに黒は天を見上げる。
「良いんだよ。未来との約束は、絶対に消えないし……叶わない。叶えちゃいけない物だからな」
黒が竜から貰った魔力を使って、自身の体を強化する。
詠唱と手印の2つを用いた簡単な魔法で、体への負担を軽減する。
「では、参ります。黒様……よろしいですね」
「あぁ、やってくれ。でも、万が一の場合の対処は任せるぞ?」
「……1つ聞いて良いですか?」
頷いた黒を見て、奈々華が尋ねる。
黒が未来と交わした。たった1つの約束の事について――
「……俺が、未来と交わした約束は。2人で、大切な物を互いに背負って歩く。――だ、簡単な約束だろ?」
「互いに背負って歩くって……」
碧が俯いて、兄から目線を切ってしまう。この約束の意味を分かってしまったからだ。
竜も奈々華も間を空けて、2人の約束が何の事か分かった。
黒が未来との約束を形にした物を、首のチェーンに通してから首に掛けた。
それは、未来の指の大きさに合わせて、帝国の宝石職人に頼んだ。
オーダーメイドの指輪を見て、黒が照れ臭そうにその場ではにかむ。
「だから、俺は未来を待ち続ける事にしたんだ。倭と帝国の2つを守り続ける役目を全うしながらな」
奈々華が魔法を発動させる。黒の約束を叶えれる為の秘術を唱える。
その効果は、対象の潜在能力を開放する魔法である。ゆえに高度な技術が必要。
失敗すれば、どうなるか分からない魔法ではある。しかし、それでも黒は戦う事を決意した。
どんな痛みにでも耐えて、戦い抜く為に今の黒に必要な力を手にするために――
「この魔法で、俺の魔力量の上限が少し増えるんだよな?」
『おそらくですが、効果はそうだと思って下さい。ですが、肉体への負荷は図り知れません』
「頑張って、兄さん」
魔方陣が光りを放ち始め、黒の体が光りに包まれる。
光りの粒に包まれた兄を碧は拝む様に見守る。――が、突然皇宮内の空間に亀裂が生じた。
直ぐに、碧と奈々華を竜が翼で覆い隠す。凄まじい闇の波動が、光りに包まれた黒を分断する。
皇宮全体に激しい揺れが起き、おぞましい数の骸骨が地面を呑み込む。
「――3人共、飛んで上に逃げろッ!!」
黒の声に竜が瞬時に反応し、2人を口で咥えて空へと飛翔する。
眼下に溢れる骸骨が、黒を呑み込む。碧と奈々華が黒の名を叫ぶ頃には、黒は書き替えられた魔方陣によって何処かへと消える。
骸骨が消えた後に、奈々華が方陣の効果を探る。自分の魔法が何者かの手によって、転移魔法へと切り替わった事に気付いて舌打ちする。
「くそ――ッ!!」
奈々華が地面を叩いて、直ぐに近衛兵を呼ぶ。そのまま全ての竜人族に向けて竜帝直々の勅令を下した。
内容は、全て包み隠さず告げる。それによって、帝国が他の国から攻撃を受ける可能性が高まろうと関係はなかった。
「全ては、私の責任です。ですが、これを口実に戦いを仕掛ける国が私達の敵であるハッキリします」
――敵からの妨害行為によって、黒竜帝の行方が不明。生死も不明。現時刻をもって、全竜人族の武装化を許可する。帝国領域に侵入した敵勢力の殲滅、無力化の為の能力解放の制限解除を許可する――
この勅令が帝国に響いたと同時に、橘領地の上空に異形が出現する。
強固な帝国の結界を破壊し、破壊の代償として何体か体を崩れた大型な異形の後に雪崩のように異形が攻め込む。
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