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1人、飛ばされて
しおりを挟む目を覚ますと、そこが森の中だと理解した。
理解したとは言っても、そこが緑豊かな森林の中であっただけで、実際に森なのか今の黒が知る事出来ない。
そこから少し歩けば、開けた場所に出れる程度の山岳地帯なのかもしれない。
「……360度、右も左も木か……。もしかして、樹海とか?」
全身にケガの類いはなく、状態もいたって健康――
魔力はこの状況下では心許ないレベルと言う事だけ、それ以外は対して問題にするほどの事はない。
が、しばらく歩いた先で黒は思わず目を背けたくなる光景が広がっている。
視界の全てに広がる。緑の絨毯とも思える樹海が日の光を浴びながら、地平線の向こう側まで広がっている。
空気中に漂う微細な魔力から感じ取るに、ここが倭でも帝国でも無いことは把握できた。
常識と言っても過言はないレベルの一般教養として、広大な大陸には魔力の性質が異なる地帯が点在する。
魔力の性質が変化した事によって、地形、生態系、気候などに影響を大きく与えている。
「……この樹海も、そうだよな」
獣道でもない樹木の露出した根や苔むした岩場をブツブツと1人で、文句を垂れながら昔の知識を思い出しながら樹海の中を進む。
似たような形の樹木を見上げ続けた為、頭の片隅では樹海の中をループしているのではないかと何度か幻術解除の魔法で頭に刺激を与える。
進めど進めど、景色は一向に変わらず。上がったり下ったりと、無駄に体力を浪費していた。
「とは言え、待ってても仕方ねー上に……。助けも迎えも期待できないほどの絶望的な状況下――」
代わり映えの無い樹海を汗だくになりながら進む。同じルートを通っていない事を証明する為に、樹木に傷を付けるのを忘れず。
真っ直ぐに樹海の奥へと向かう。
日が傾いて、真っ暗になった樹海からは獣達の声が四方八方から聞こえる。
暗闇の中から、こちらを狙っている獣の眼光が怪しく光る。
口元の血を拭って、攻撃を仕掛けてきた獣の腸を木に叩き付ける。
夜が明けるまでの数時間――獣達と黒は殺し合いをする羽目になった。
――獣の牙と爪が殺気を帯びる。
涎が地面を濡らし、黒を取り囲む獣の群れを前に呼吸を整える。
戦いで言う所の斥候のような役割であった先ほどの獣の肉塊を地面に叩き付けて、臓物を両手に塗る。
直ぐに少量の魔力で、両腕から滴り落ちる血液を凝固させる。即席のガントレットで迫り来る獣の眉間を貫く。
貫くと同時に魔力でさらに血液を凝固させると言う行為を幾度も続ける。
少量の魔力で、魔力を徹底して節約した。黒独自の戦闘方法。
「くそッ……数が多い。その上、速い――ッ!!」
絶え間無く獣が黒へと襲い掛かる。一撃で獣を仕留める事が叶っても、直ぐに新しい獣が襲い掛かってくる。
噛み付いてきた獣を噛み付かれた腕ごと、樹木に叩き付ける。骨が軋むと同時にガントレットが剥がれた事で獣の牙が皮膚に食い込む。
木を薙ぎ倒すほどの力で、獣の頭部を引き千切る。噴水のように鮮血が降り注ぐ。
黒色の髪の毛が僅かに赤く染まる。
獣はそんな黒に一切怖じ気付く事なく飛び掛かる。牙と爪が頬や腕の皮膚を切り付ける。
こちら側の攻撃1つで、獣共は事足りる。恐るべき執念で、獣は次から次へと襲い掛かる。
拳に凝固させた血のガントレットがバラバラに砕け、体術で獣を薙ぎ倒す。
飛び掛かる獣を飛び膝蹴りで迎え撃ち、着地と同時に暴れる脳天に拳を振り下ろす。
地面に亀裂が生まれるほどの威力で、獣を一撃で仕留める。
屍から抜き取った鋭利な牙で、背後に回った獣の眼球を突く。激しく抵抗するも首をへし折る。
一際巨大なボス格の獣が遠吠えと同時に、黒へと助走を付けて飛び掛かる。
「――来いよッ!! 犬野郎がァァッ!!」
倒された大木を片手で掴む。メキメキと音を挙げて、指先が幹に深々とめり込む。
飛び掛かり大きな口を開けたボス犬に、力任せに振り回した大木で近くの岩石に叩き付ける。
崩れた岩と大木に挟まれ、逃れようと暴れるボス犬の喉へと黒の腕が容赦なく振り下ろされる。
肉が裂かれて、血が噴き出す。しかし、強靭な肉によって黒の腕がボス犬の首から離れなくなる。
強制的に腕にしがみつく体勢にせざるを得ない黒に対して、ボス犬が黒の胴体に噛み付くとそのまま樹木や地面などに叩き付ける。
何度も何度も叩き付けられ意識を失い掛ける黒だが、胴体に噛み付かれた状態で地面に踏ん張る。
そのままボス犬の喉へともう片方の腕を突き刺し、両腕でボスの体を一本背負いの要領で投げる。
背中を打ち付け僅かに緩んだ牙を好機と見た黒が、そのままボス犬の首を切り落とす。
体から落ちた首を黒は肩に担ぎながら、滴り落ちる鮮血を全身に浴びる。
一歩、後退りを始める獣達にボスを潰した黒の獣染みた眼光が光る。
一目散に逃げ出す獣達を黒は背後から襲い掛かる。我先に逃げる獣を血と獣臭だけで見付け、獣以上の速度で迫り首を次々と蹴り飛ばす。
樹海のある範囲には、100を越える獣の亡骸と真っ赤に染まった木が薙ぎ倒された痕跡が幾つもの確認される。
窪みに血液の池が出来上がり、遥か遠方からも濃い血の香りが漂う。
ボスの頭部を踏み砕き振り返って、地獄絵図のような凄惨な光景を見る。
どっと疲れが押し寄せる。岩場に腰を掛けて、日が昇り始めたのを開けた場所から確認する。
倒した木が想像よりも多かったのか視界が開けていた。
「……すこしは、景色が良くなったか?」
休憩を終えて、その場から直ぐに立ち去る。
全身から香る血の匂いで、獣が遠目から見てきても襲いはしない。
あの光景を見ていたのか、それ以降、黒に叶わないと理解した獣が襲ってこなくなっている。
血を流し過ぎた為か意識は朦朧とし始め、まともに歩く力すらなくなっている。
倒れ掛けながらも進み続ける。例え、何年掛かってしまおうと、必ず帰ると決めた。
倭から遠い遠方ではあるが、基本的に倭と帝国以外の土地は地続きになっている。
帝国のある大陸では、樹海はあっても小型の獣は存在しない。倭には、樹海があっても黒を平気で襲い掛かる獣は少ない。
となれば、残るのは四大陸の何処かとなる。距離があっても進み続ければいつかは辿り着ける。
「……俺は、約束したんだ……」
開けた場所に出てから、目の前に流れる川に手を伸ばす。死ぬほど、喉が渇いてフラフラと川へと近付く。
屈んで水を飲もうとした黒だが、そのまま力を無くして頭から川へと落ちてしまう。
流れに逆らう力もなく、大量の水に呑み込まれて意識を手放す。そのまま下流を勢い良く流される。
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