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毒に蝕まれ
しおりを挟む下流へと流され、比較的流れが穏やかな岩場に引っ掛かった黒が意識を取り戻す。
全身を強く打ち付けたのか、折れ曲がった左腕を見て激痛が全身を襲う。
「……はぁ、ツイてーね」
ゆっくりと体を起こしてから、岩を背にして息を整える。
2日か3日程度過ぎたのか、全身の血と獣臭さが消えている。滝と川にでも揉まれたのだろう。
時間を置いて体力を回復させてから、その場を離れる。相当遠い所まで流されたのだろう事が一目見て分かる。
気付けば、自分の居る場所が樹海ではなくなっていた。普通の森レベルになっており、少し人の気配がありそうな所まで来た。
「……山菜とか取りに来たじいさんとかばあさんレベルの人が、居れば良いけどな」
折れた腕を押さえながら、ゆっくりと進む。
川に沿って進むと、野営でもしていたかのような散らかった装備とテントを見付ける。
黒が声を掛けるよりも先に、妙な違和感を覚える。
焚き火は消えているが、テント中からうめき声が微かに聞こえる。
テントの中を覗くと、意識を失った女が全身に紫色の血管を浮かび上がらせてもがき苦しんでいた。
「……くそ、第一村人が……年下? の女かよ」
額に手を当てて女性の体温を確認しようとするが、触れる直前で、触れなくとも分かる程に高い体温と口から流れる唾液が泡状になっていた。
何かしらの植物か虫などによる寄生を受けたのか、状態がさらに悪化の一歩を辿る。
だが、黒は魔法の知識と技術は高い。それも最高レベルに近いと言って良いほど。
傍らの彼女の持ち物と思われるカバンに、折れた腕をゆっくりと置いてからあぐらをかく。
「行くぞ。良いよな? ……人助けだもんな」
目にも止まらない速さで、呪文と魔方陣を描く。欲を言えば、手印も加えた最大効果を発動させた魔法が好ましい。
が、折れ曲がった腕で手印など困難を極める。万が一にでも、失敗してしまったら元も子もない。
彼女の全身を被うように方陣を描き、描いた呪文を方陣に一つ一つ並べる。
現在の黒が、形成可能な最大級の方陣で魔法の詠唱へと移る。
「……えーと、ええと……くそ、何だっけ? ……金色よ? ん? 晴れ渡る空に、祝福の鐘……だっけ?」
肝心な詠唱がうろ覚えとなり、焦りだす。一秒ごとに悪化する彼女の顔を見て、黒は覚悟を決める。
右腕に力を込めて、人差し指で魔方陣の上にさらに魔方陣を追加する。
「――天は煌めく。名も無き声に耳を傾け、祝福の鐘が天へと響く。夢は、現と消え、現は夢へと消える。心の無い亡霊達よ。その物の夢と現を返したまえ――」
光を放つ魔方陣が彼女の体を蝕む元凶を攻撃する。彼女が悲鳴を挙げて、体を跳ねて暴れる。
回転する魔方陣と呪文が体の周囲を回り始める。彼女の体から紫の毒が霧散して消えていく。
限られた魔力を使って、彼女の体を治療する。そこで、黒の意識は薄れ始める。
最後に見たのは、全快した彼女が飛び起きた所だけであった――
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