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毒に犯された街《Ⅱ》
しおりを挟む街に、監視カメラの類いは存在しない事は確認済み。
セラがテントと共に黒を抱いて帰ってきた時には、別の対象で実験の結果を判断したのかセラはテントを返しそびれた上に、報酬を受け取れなかったと愚痴っていた。
もちろん、報酬を受け取りに行けば。即座に捕えられ、生きたまま解剖からの実験コースだと告げたら顔面が真っ青になった。
「と、まぁ……。この街は、毒のタンクだ。地面も虫も草木も全部毒に犯されている。取り除くは、街を人間諸とも焼却するしかない」
「――ちょっと、待ってよ!? 燃やすって」
「そのままの意味だ。スラムを燃やして、新しく造り直す。もちろんそんな事すれば大勢の人は死ぬ。そんで、実験を指揮していた人物が顔を出すだろうな」
「ホントに実験なのかも分からないのに、この毒素を消すために街を燃やすのか!?」
セラや黒を含めた大人達数十人が、広間に集まってこの街の現状を教える。
余所者だと、黒のホラ話だと言って早々に消えた者も少なくない。
だが、この街の異常さを身に染みて理解している者は多かった。
中には、産まれた時に衰弱していった赤子。小さな怪我から、全身が腐った子供や大人。
小さい時に、親や兄妹。家族を失った者達が、黒の話に耳を傾けた。
「まぁ、本当にそうかは分からない。だが、俺の経験から言わせれば……この毒素は異常だ。自然発生だとすれば、ここは草木1つ存在しない地獄になってる筈だ。だが、実際は残ってる」
「なら、その実験の責任者を炙り出して、ぶっ倒せば良いじゃん。そうすれば、この街も元通りになるでしょ?」
「言ったろ? 元に戻すには、燃やすかしないと不可能だ。人を含めてな」
黒の言葉に、セラや住民が静まり返る。実験を止めさせれば、これ以上悪化はしない。
が、良くなる傾向に向くかと言われればそれも怪しい。救いの無いこの現状を前に、黒は自分の手へと視線を落とした。
方法が、無い訳じゃない――
自分の力であれば、この状況を打破する事は出来なくもない。が、それをすれば《竜王》から補填された魔力が完全に底をつきる。
それは、現状で最も避けるべき難題。魔力の消費を抑えつつこの街を救う。
それが、この地に来た黒のすべき事――
セラに助けられた。
ただの恩返しにしては、デカイ恩返しだと思われる。
だが、黒はこんな事で恩を返したとは思わない。
きっと、この場に未来が居れば「――助けるよ。だって、見捨てるなんて、私は出来ない。それは、黒ちゃんも分かってるでしょ?」などと言って、黒の話も聞かずに事を進める。
未来なら、当然の様に彼らを見捨てはしない。ならば、今の黒が彼らを見捨てる訳には行かない。
今にも壊れそうな木製の椅子に腰を掛け、この街の為にと声を挙げて打開案を模索する彼らを遠目から見詰める。
チカチカと、風でトタンなどの廃材が揺れる度に吊るされたライトが揺れる。
そして、彼らの背中を見ていると、ふと――ある光景が目に浮かぶ。
――あぁ、懐かしい。
2年前に失った仲間達との他愛ない日々の光景と、彼らの姿が重なる。
手を伸ばしても届かないかつての思い出。しかし、倭に辿り着きさえすれば。2年の時間を取り戻せる。
自分の失った力は戻らなくとも、命よりも大切な大事な仲間を取り戻せる可能性。
それに、望みを掛ける。いち早く倭に向かわなければならない。
――が、この地でこの街で出会った彼らとは不思議な縁で結ばれた様な物である。
きっと、彼らを助ける事が黒の運命だった。黒が椅子から立ち上がって、テーブルを囲む彼らに声を掛ける。
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