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暁の任務《Ⅱ》
しおりを挟む「え? 僕じゃないとダメなの? 良いけど、自信無いなー……」
そう言っていたかつての自分が羨ましい。仲間が命を掛けた大作戦を実行せざるを得ない状況――
身に余る魔力を背負って、破裂寸前の体で仲間の身を案じる。友人が愛した人――
彼女は、今にも死にそうな自分の事よりも、自分を慕ってくれている仲間の身を第一に考えれる。
「あぁ、だから、黒は彼女を好きになったんだな」
――彼女の意志に報いよう。
例え、誰かの不幸の先に成り立った幸せなど、受け取れない。
そう、大泣きして拒絶されても――
「……ヴラド。『デッド・フォール』」
エースダルから遠く離れた誰も知らない遺跡。
その地に立ち寄った暁は、血液で拘束したその数十名の賊を体の内側から破壊した。
暁の手が触れた途端に、触れられた仲間の一人が拘束を引きちぎる程に激しく動く。
白目を向いて、激しく痙攣を始める。次第に痙攣の激しさは増していき、口や鼻、目や耳から血が流れ落ちる。
皮膚を突き破って、血の刃がその者の体を内側から破る。開かれた肉の隙間から骨が露出している。
綺麗に骨の肉を削ぎ落とし、背骨がゆっくりと肉体から外される。
触手のようにウネウネと動く血液が、肉と骨を綺麗に分ける。
「さて、用件は言わなくても良いよね? 僕は、殺しに来た訳じゃ無いって……言ったよな?」
「――ひッ!!」
怯える盗賊の頭と思われる男の顔を暁は踏みつける。足の裏と地面に挟まれ、地面にグリグリと押し当てられて行く頬の骨が軋む。
深紅の瞳を光らせ、暁は指先から伸びる血液を器用に操る。まるで、その触手の1本1本が意志を持っているかのように地面や壁紙に隠れていた伏兵を引きずり出す。
「あれあれー? 部下は、全員僕の前に並ばせろって言ったよねぇー……。僕の命令を聞いてなかったか?」
「ち……違――」
「――言い訳は、どうでも良いんだよ」
男の顔を踏み抜いて、ぐちゃぐちゃになった残骸から足を抜く。
血や肉片が付着していたが、肉片と共に血が綺麗に足の裏から離れる。
血の池の中からゆっくりと暁は歩く。僕かのように、血液を一滴たりとも残さずに男から抜き取られる。
カピカピのミイラと化した。骨と皮だけの男に指を向ける。
――僕の命令に絶対服従だ。さもなければ、次にミイラになるのは『お前達』の誰かだ。
暁の圧倒的な力を前に、盗賊は何一つ抵抗は出来ない。やったとしても、待ち受けるのは確実な死である。
抵抗すら無謀に思え、一人の賊が尋ねる。自分達は、何をすれば良いのか。
「簡単な事だ。君らがいつもやっている事をやって貰う。もちろん、僕の名前は伏せてね。さぁ、お仕事の時間だ――」
不気味に微笑む暁に賊達は、心底恐怖した。
だが、そんな恐怖すらも掠れる程の恐怖を本能で察した。
暁の背後で、暇そうにして長い白髪を弄る。彼らは、魔物の力を直接肌で感じた。
本来ならば、魔物の力を有する騎士が自分の実力を他者に探られまいと隠す所。
暁は、むしろ自ら発する。その研ぎ澄ました刃の如き魔力を持ってして、1人1人刺激する。
肌に小さな針を突き刺されるかのように、賊の顔色はみるみる青く変化する。
「……ねぇ、宿主様。そろそろ魔力を抑えないと、みんな発狂して死んじゃうわ」
「おっと、ごめんね。この先の事を考えてたら忘れてた」
暁が魔力を抑え、強烈な魔力から解放された賊に暁は詳細な指示を投げる。
指示を受けた賊達は、揃ってその場を後にする。脇目を振らずに、逃げるようにその場を後にする。
「さて、頼んだよ。カエラ――」
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