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しおりを挟むエドワードの背後は取った。息を切らしながらも残りカス程度の魔力を温存して力を解く。
そのままエドワードの裏拳をしゃがんで避けて、顎を狙ったアッパーでエドワードの足を浮かせる。
浮いたエドワードの足が黒の首へと絡む。黒の油断もつかの間、エドワードが黒を持ち上げる。
そのまま上下が逆さまになった黒へと、エドワードの拳が振り下ろされる。
凄まじい破壊力――それだけは誰の目から見ても一目瞭然。
「セラ、止めます?」
「無理でしょ。だって、エドワードさんだよ? この都市のトップクラスを止めに行くとか……自殺行為よ」
地面が陥没し、酒場の建物が陥没の衝撃で崩壊する。一帯から人が離れている。
セラ達も酒場の崩壊に巻き込まれないようにその場からすぐに離れる。
崩れた筈の酒場の入り口から、砂埃で汚れたエドワードと黒の2人が何事も無かったかのように出てくる。
「……魔力は、スッカラカンだ」
「はてはて、誰が酒場を壊したのかな?」
酒場から一歩前に踏み出した2人が振り向き様に、拳を交える。
ただ単純な筋力だけの殴り合い。だが、その殴り合いの凄まじさは人を惹き付ける。
元々、体術面に置いて互角なエドワードと黒の2人が魔力無しで本気の殴り合い。
黒の頬を掠めながらもエドワードの拳を見切るも、エドワードの死角から臓物を抉るように仕掛ける膝蹴りが黒へと着実にダメージを与える。
「はてはて、その程度ですか?」
「……っ……黙ってろ……」
エドワードのおちょくる様な動きに翻弄されながらも、必死になってエドワードの動きに食らい付く。
だが、そこが黒の限界であった。糸が切れるかのようにゆっくりと膝が折れる。
生まれたての小鹿のように足が震えて両足で立てない。病み上がりなど関係はない。
単純に今の黒が魔力による肉体のダメージ低減、強制自然治癒などの魔法や肉体強化を施さなければ満足に戦えない。
多人数戦闘後、エドワードのような同格の相手では数分と戦えない体であった。
それをエドワードは黒に分からせる必要があった。
現実を見せる為にエースダル流の戦い方で黒の肉体と頭に直接分からせた。
「はてはて……これが、あなたの限界です。橘黒――」
「んな事、言われるまでもねーよ」
足が使えなくなった事を頭で理解した。その上で、黒は両手の力で飛び上がる。
僅かな魔力を無駄遣いしたと、エドワードは思った。
だが、空中で体を捻った黒の顔は清々しいほどに笑っていた。捻った体勢のまま力の抜けた足を回して、エドワードの首に叩き付ける。
脳が揺らされ、膝を付くエドワードの後に背中から落ちる黒が頭を押さえる。
「バカがよ。他人の心配なんざしてる場合かよ……。こちとら、お前クラスの化け物を相手するのを前提で倭に行くんだよ。自分の限界くらい弁えてる」
「……ッ!! このアホ野郎が……。こっちが手加減してやってると思って、付け上がるなよ。ゴミ野郎がァ!!」
今までに見せた事の無い顔で、黒の胸ぐらを掴むとそのまま無人の建物へと黒を投げ飛ばす。
黒を片手で投げ飛ばすだけでも常人の域を越えているが、そんな攻撃でもかすり傷1つ付ける程度の黒も当然化け物であった。
瓦礫を蹴ってその場で立ち上がる。少量の魔力が徐々に回復を始める。
だが、壁にもたれ掛かる黒を見ていたエドワードがポケットか薬品の容器を投げ渡す。
「……魔力アンプルです。魔力量がゴミなあなたには、魔力アンプルなどで魔力量を上乗せする必要があるでしょ?」
「……まぁ、な。回復する魔力量は微々たる物だ。アンプルとか持っとかねーとな」
「このまま倭を目指すなら、1度は《オーレスティ》を経由する筈だ。そこで買うがいい」
エドワードが黒の隣で腰を下ろす。そして、懐から財布を取り出し中から札束を黒に見せる。
その金額は数十万は越えている。一目で大金なのは分かる。
だが、エドワードがすんなり金を渡すと思えなかった。確実に裏があるに決まっている。じゃなきゃ黒との仲が悪くなる筈がない。
「倭に到着してから、返しに来るんだな。もちろん、妹のエヴァを連れてだ」
「……」
「信じてる訳じゃない。ただ、たまには藁にすがっても良いとは思わんか?」
「……わかったよ。エヴァに借りた金額を持たせて休暇を与えるよ。もう、お前の顔なんざ見たくないから2度と来ねーよ」
黒がエドワードから札束を受け取るよりも先に、エドワードはその札束をセラへと渡した。
「――は?」
目を丸くする黒と微笑むエドワード。エドワードから大金を受け取ったセラは苦笑いを浮かべる。
「セラ・アルディール……君に、私からの任務を言い渡す。この男が確実に倭に到着するように、サポートをしなさい。もちろん、我々エースダルの者はその任務完遂の為なら尽力する。頼むぞ?」
「……は……はいッ!!」
「いや、俺は反対だよ?」
「それと他にも人員を送る。だが、その人員はオーレスティに着いてからの合流だ。質問は無いかね?」
「はい!!」
「いやいや、断れよ」
黒の意見は1つも聞かれずに、話しは黒抜きで進んでいく。最終的に黒が折れるしかなかった。
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