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荒くれ者共の憩いの場《Ⅱ》
しおりを挟む一言で言い表せば、酒場。
だが、その店内は酒場と言っても人を選ぶ。
「……エースダルの酒場ってのは、いつもこうなのか? サービスが悪いな」
向けられる視線の鋭さに加え、殺気を帯びた1グループに数十人単位の荒くれ集団が黒に鋭い視線を向けて囲む。
正面で構える1グループ。その後に2つ、2階から4つのグループが黒を睨む。
合計7グループのエースダル所属の傭兵が武器を構える。
「……言った筈だ。彼女は、私が鍛えた。と、忘れたか?」
椅子の上で紅茶を味わいながら、エドワードが病院のエントランスで顔を会わせた男2人を側に置く。
エドワードの元で鍛えられたと告げられた時点で気付くべきであった。
セラを含め、このエースダル全体が自分に牙を向いている。その事を忘れていた。
ここは、倭でも帝国でもない。四大陸の1国にして、世界最大規模の傭兵都市――
「さぁ、エースダルの洗礼を味わうと良い」
目前の長テーブルを前のグループとの壁になるように蹴飛ばす。だが、2階から黒の背後へと周り込む為に飛び降りたグループと、テーブルを越えた正面のグループが我先にと黒へと襲い掛かる。
足運び、魔力、目線の動き。どれを取っても黒の力に遠く及ばない。
たがそれも、魔力があった頃の黒である。
「――取ったッ!!」
1人の傭兵が声を上げる。
振り下ろした各々の武器で、煙が立ち込める。だが、確かな手応えにその場に集まった者達の気が僅かに緩む。
2人を除いて――
「はてはて、油断は禁物ですよ。死体になった訳じゃないんですから」
エドワードの言葉を合図に煙の中から黒が飛び出す。
驚く男性傭兵の肩を足場に、そのまま後ろで構えていた男女の傭兵に回し蹴りを食らわせる。
流石は、傭兵だ。そう黒が感心するレベルに鍛え上げられた傭兵の強さに思わず黒の頬が緩む。
黒の咄嗟の蹴りに反応し、2人の傭兵は近くの椅子や自分の武器で蹴りを防ぐ。
その上、基本的に10人規模の集団戦闘の基本として、互いの間合いを潰さないように間合いを確保している。
その上、寄せ集めの傭兵と思っていた黒の予想を裏切る訓練された傭兵集団。
連携技術の高さに加え、他のグループは黒が逃げない様に窓などの逃げ口を封鎖する様に陣取る。
逃げる事は不可能――が、黒の中に逃げると言う選択肢は存在しない。
「――ハッ!!」
ガントレットを装備した女性の上段と中段の素早い蹴りを紙一重で捌き、背後から迫る剣の攻撃を気配で察知し、振り返ることなく蹴り1つで弾く。
透かさずその場で軽くジャンプし、女性から肉薄してきた女性の腕を掴む。
彼女が纏っていた魔力を奪って、吸収するないなや腕から足へと僅かな魔力を流す。
着地と同時に、魔力で床を軟化させる。
掴んでいた腕を離し、背後から再び振り下ろされる刃を軟化させた床へと叩き落とす。
軟化しめり込む床に剣を奪われた男の腹部を蹴り、前屈みになった頭を掴んで後ろのテーブルに頭から叩き付ける。
床に突き刺さった傭兵が意識を失って、さらに2人の傭兵が襲い掛かる。
先ほど相手をしていたガントレットの女性を含め、3人が同時に襲い掛かる。
降り掛かる火の粉を払うように、黒の手から漆黒の魔力が伸びる。
為す術なく床に落ち着けられる3人を見て、エドワードが手を上げる。
黒もまたエドワードの合図に気付いた。だからか、一瞬だけ周囲への反応が僅かに遅れる。
その一瞬の隙を狙った抜剣。背後へと回ったセラの鞘から抜かれる剣の存在――
「――ッ!!」
床を思い切り蹴ってその場を離れる。セラの放った斬撃が建物の壁に深く刻み込まれる。
並みの剣士ではああはならない。やはり、エドワードの訓練が別格なのだと物語っている。
「エドワード。セラと、その2人は大分手塩に育てたのか?」
「はて、私は何もしていないよ。セラも彼らもただ――素材が良かっただけだ」
セラが黒へと肉薄し、再び剣を一閃する。紙一重で躱わすので精一杯な黒に追い討ちをかけるかのように、エドワードの側で待機していた2人も動き出す。
前方のセラ、後方の2人に挟まれる。もはや、魔力の残量など考えている余裕は無かった。
「――邪魔だ」
瞳が青く光り、目尻から大気へと走る稲妻が青く光を放つ。
セラの踏み込みを妨害するように、黒はセラの方へと倒れ込む。
透かさず、セラの予備用の剣を奪って後ろへと一閃する。目映い閃光の後に、稲光が遅れて2人の側を走る。
稲光に乗って、黒の攻撃が2人の体を貫く。強烈な一撃が2人の意識を奪う。
だが、その一撃で黒の力は格段に低下する。片目を押さえ、その場で踏み止まる黒が荒い呼吸をする。
一連の行動を間近にして、セラが1歩2歩とその場から後退する。
セラ自身、エドワードとのスパルタ授業で黒の実力がどれ程なのかは思い知らされている。
エドワード考案のスパルタが実を結んだ結果で、現在のような強さを手に入れた。
だが、黒の実力には程遠いのが実際の所である――
この人数を前に、黒には少なからず逃げる素振りはあったが、それを実行へと移す事はなかった。
勝てる勝てないの問題ではなく。黒は、自分に最適な行動を行っているだけであった。
自分の実力を理解した上で、それらの選択肢を絞っている。
今も、セラと対峙しながらも様々な選択肢を持っている。対するセラは、逃げるか戦うかの2択のみである。
頬から流れる汗が自分がどんな顔をしているかを物語っている。
――強い。そんな言葉だけでは、言い表せない。
セラが息を吐く。心を静めて、剣を構える。
だが、その剣が振り下ろされる事はなかった。
目の前の黒が、片目を青く染めて微笑んでいる。そこでやっと、自分の持っていた剣が根本から握り潰されている事に気付く。
「……手品?」
「だったら、どれほど良かったんだろうな」
黒が再び両目を青く染めて、身構えた残る全ての傭兵を瞬時に叩く。
音を置き去りにして、放たれる拳からの一撃は重い所の話ではない。
どんなに強固な鎧や魔力障壁ですら無意味となって、その者の肉体に深く突き刺さる。
あのエドワードすらも反応できずに、簡単に背後を取られる。
「はてはて……どんな手品かな? てっきり、魔力切れかと思っていたのだが?」
「俺の手品ってのは、オーディエンスにタネ明かしはしないんだよ。悪いな」
「それは、残念だ――」
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