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襲撃《Ⅲ》
しおりを挟む黒を荷物のように雑に扱う。それでも、黒からすれば構いはしない。
単身で十数人以上の刺客と戦えるのであれば、自分は荷物となろう。
四方から迫る刺客の多さに舌打ちしながらも、セラの常人の域を逸脱した身体能力を前に刺客も攻め手を失う。
1歩踏み込めど、そこから先はセラの間合いであり――墓場である。
既に黒はセラの手から離れている。だが、刺客の優先順位には、セラが入っている。
セラをまず先に仕留めなければ、黒の身は保証されたまま。
刺客の数で勝っていても、この状況であればセラ1人で全て相手にする事は可能。
「エドワードの修行で、ここまで強くなるんだな」
「教えが上手なのと……手加減しないからね」
あぁ、確かにな――と、黒が目線を反らしながらセラとは真逆の方向を睨む。
セラ自身も気付いてはいる。だが、手を出さない所を見るに様子を伺っているのだと後回しにしていた。
フードを深く被っていながらもその存在感は計り知れない。オリンポスでの《ミッシェル》の例があるように、他国の皇帝級の騎士がわざわざ出向いている。
黒からすれば、自分の顔を見に来たのだと一目で分かる。手は出さない。
きっと、万全な黒を真っ向から叩き潰すのが彼らの目的――
「こりゃ、力を取り戻した後が大変だな……」
愚痴を溢しながらも真横から飛んできた刺客の1人を壁に叩き付け、懐にしまってあったナイフで背後から詰め寄ってきた者の腕を刺す。
腕深くに突き刺さったナイフを手放し、苦痛で歪む相手の顔を叩く。
拳で顔を殴られ痛みと衝撃で、後ろへと下がる刺客へと飛び付く。
黒の凄まじい身のこなしからのアクロバットな動きによって、周囲を巻き込んだ攻撃で複数人をまとめて地面に沈める。
――侮っていた。魔力を失った黒竜帝は、戦力も半減したものだと。
セラが半分を率いていてくれたおかげか、黒がアンプルを使うこと無く。目の前の敵を単純な身体能力と体術で圧倒する。
黒の周りを囲んでいようとも、繰り出される多彩な蹴りや拳などによる殴打が次々と刺客を沈める。
魔力による強化が施されていなからだが、一撃一撃は軽い方ではある。
しかし、その軽さを補うのが知識と経験。左右、上下と不規則かつ徹底して死角から攻撃が迫る。
反応しようにも、黒の動きに付いていけない。こちらは魔力による強化がある筈なのに――
それが、黒と相対する彼らの共通認識であった。
「やはり、腐っても皇帝だな。お前達……一旦引くぞ」
やや劣勢に追い込まれ始めた頃を見計らって、様子を兼ねた襲撃が終わる。
黒の顔を見に来たエースダルとオリンポスの違う他国の皇帝が、部下を率いてその場から退く。
息を切らすセラと黒を残して、何事もなかった様に刺客達は退いて行った。
張り詰めた緊張からの解放と脱力によって、その場に崩れ落ちるセラの肩を抱く。
「無茶しすぎだ。この先、持たないぞ?」
「少し、休憩させて……」
セラの活躍もあってか、黒がアンプルを使用する個数も削減できた。それだけでも、セラの功績はデカイほどだ。
エドワードからの教えがあったとは言え、この数を1人で相手にするには日が浅い。
スラム出身の勘や身に付いた体の動かし方があっても、やはり堪えるのだろうか。
この先もこのように何度も何度も奇襲紛いの襲撃が続けば、黒はともかくセラの体力と精神力が持たない。
「どこかで宿を取るぞ。流石に、こっちも警戒してるって思うだろ。少しは休める」
「……ありがとう。でも、大丈夫だから、安心して」
安心して――どうやら、セラは黒の実力を見誤っているままであるのは間違いない。
きっと、エドワードから知らされていないのだろう。セラだけが気負う必要はない。
なぜなら、黒は《皇帝》だ。その称号は、単なる飾りでも無ければ簡単に手に入れれる物でもない。
魔力の大半を失ったとは言え。その実力が半減すると言う訳でもない。
ただ、魔物を用いた戦闘や魔力主体が基本であった黒の戦闘スタイルが発揮出来ない――と言うだけの事。
魔力が消えても、黒はそう簡単に倒せはしない。それをセラは理解出来ていない。
「まぁ、今は休め。休める時に……休んでろ」
近場の宿で、セラを寝かせる。
日が傾き始め、夕焼けを背にして黒は口角を釣り上げる。
その笑みは、他国の皇帝クラスの連中以外はバカな集まりだと分かってしまった事に対する哀れみなのだろうか。
黒本人しかその笑みの真相は分からない。ただ、闇夜に乗じて襲撃を画策するバカ共に対する笑みであるのは――間違いない。
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