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世界を統べる《Ⅰ》
しおりを挟む列車は進む。ガタガタと、揺れる中でも2人は身動き1つ取らずに向かい合う。
互いに直感で感じ取った。1歩の差で、勝敗が決まる。
一歩の差で勝敗が決する――だが、それは黒の魔力が万全である事が前提である。
「恐ろしい。ですが、それも昔の話――」
黒よりも先に、男が動く。懐に入られれば黒とて一撃で沈められる。
魔力が無くとも、死線を潜り抜けてきた黒の直感と経験は変わらない。
しかし、目の前の男にその力が通用するとは到底思えない。
「舐めて掛かっても、問題ないですよね?」
「アホか……。お前ら程度が舐めて掛かって勝てるほど、落ちぶれたつもりはねーよ」
待ち構えた黒の攻撃に男が合わせる。拳に纏わせた魔力と互いの魔力が衝突する。
凄まじい閃光の後に大気が引き裂かれる衝撃波が周囲の大気に影響を与え、ガラスが割れる音にも似た破裂音が2人の鼓膜を刺激する。
魔力が弾け、その衝撃によって2人は列車から飛ばされる。
空気を蹴って列車へと戻る黒とは異なり、足場から離れたにも関わらず男は黒の真横に現れる。
驚く黒をよそに、空中で捻りを加えた蹴りを黒の無防備な胴体へと浴びせ。
走り続ける列車の側面へと勢い良く叩き付ける。
窓、窓枠、壁と走る列車の壁を貫通しながら車内へと無理矢理戻される。黒の前に騒ぎを聞き付けた車掌と観光客――
彼らの存在に気付き、焦る黒を尻目に盛大に壊された窓枠を掴んで、ブランコの要領で勢いを加えた男の追撃が目前に迫る。
負傷している黒へと手を差しのべた車掌を安全な車両の方へと投げ、防御を捨てた肉体に男の両足が突き刺さる。
骨や肉がぐちゃぐちゃと音を挙げ、反対側の壁を突き破って、外へと投げ出される黒を更なる追撃が襲う。
「はい、終わり――」
真横に瞬時に肉薄し、魔力を一点に集中させた拳が黒に防御の隙を与えない。
再び車両へと戻され、床に転がる黒の顔を男は蹴り上げる。鼻や口が切れ、血が床や天井を赤く染める。
フラフラと後退する黒の姿を目の前に、男はかつて最強と呼ばれていた者の無様な姿に――
――優越感に浸っていた。
「あぁ、かの黒竜帝を――ボロ雑巾にしている。……最高だ」
「たかが、数発殴って……気が済んだか?」
「強がりは止めた方が身のためです。過去の栄光にすがるのは、見苦しいだけ」
黒が一歩を踏み込む。が、男の前では黒の速さなど、止まって見える。
男へと肉薄するよりも先に、男の攻撃が黒へと降り注ぐ。銃弾の雨のように、横殴りに男の猛攻が防御を崩す。
口から大量の血を吐いて、さらに後ろへと後退する。だが、後退するのはそこまでであった。
もう、後ろに下がれない。黒の背後には、恐怖で身を震わせる観光目的でこの列車に乗った乗客――
(……下がるな。下がったら、もう――戻れなくなる)
男の攻撃を黒は避けずに全身で受ける。
ボロボロになって倒れる黒を見て、男は歓喜の声をあげる。――が、黒の目は死んでなかった。
男の振り下ろす拳に合わせて、立ち上がる勢いのまま黒のカウンターが男の顔を叩く。
顎に強烈な一撃を受け、仰け反るのを見越して――構える。
仰け反った状態から回復した後に男は無意識に顎へと触れ、怒りに満ちた眼光で黒を睨む。
――が、顎から手を退けて、怒りに満ちた目を黒へと向けるよりも先に、黒の追撃が男の溝尾に深く突き刺さる。
大気が魔力の影響でひび割れたかのように音を上げて、目に見えるほど集まった魔力の稲梓が車内に走る。
車内の窓ガラスが余波で弾ける。破壊された壁から男の体を外へと飛ばす。
突き放した車掌に、この車両から乗客を連れて前方の3車両に集める様に大声で指示を飛ばす。
車外へと投げ出された男の行方を気にしつつも僅かな休息時間を有意義に利用する。
行きを整えつつ、自分のバックを取りに個室へと向かう。壁と扉が大きく破壊されている。
壊れた椅子の下敷きになっていたバックから残り少ないアンプルを数本摂取し、心許ない魔力を補充する。
「バックの中に、3本――か。倭までの行き道を考えると、ここで使えるのは2本だけだな」
既に摂取した1本を含めずに計算すると、バックの中に3本のストックがあった。
そして、手元に2本のアンプル。この場で使えるアンプルの量は、2本が限界。
それ以上の摂取は、後々の襲撃や治療などを考慮すると使用は控えたのが正直な所であった。
が、相手は皇帝である。これまで相手にしてきた刺客の中でも最高クラスの刺客――
当然、生半可な覚悟では先ず歯が立たない。魔力を節約して相手に出来るほど、決して弱くはない。
今もこうして呑気に思考を巡らせれるのも、一瞬の隙を生み出せたに過ぎない。
「さて、乗客の安全は確保できたと思っておきたいな……」
現在、黒の車両は7号車。乗客の避難したのは、一番前の1号車、2号車、3号車の3車両に集まっている。
直線距離として見れば、かなり離れている。1車両の長さがあるのか最後の乗客が3号車の扉を閉めた姿が小さく見える。
「さて、第2ラウンドと行くか――」
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