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セラ・アルディール《Ⅱ》
しおりを挟む魔力を身に纏い、全身に巡らせた魔力を刃の如く研ぎ澄ます事は、異形と騎士の戦いで、最も基礎とされる技術の1つ――
その研ぎ澄まされた魔力によって、生じた稲妻は魔力の練度によって相手を貫くダメージに補正が加わる。
セラの練度では、彼女の肉体を貫けはしてもダメージは殆ど与える事は叶わない。
―― そう、決め付けていた。
が、事実セラの一撃で彼女はダメージを受けた。それも魔力による稲妻だけでなく。彼女自身の力と思しき、高熱による燃焼のオマケ付き。
そして、彼女は1つの判断を決めた。
無警戒な存在が最も危険性を秘めていた場合は、その場から退くのがイシュルワの共通認識である。
例え、目の前で仲間が死にそうでも見捨てる。しかし、彼女の頭の中は違っていた。
(ここで、あの女を逃すと……後の脅威となる。イヤ、必ず脅威になる――)
頬から汗を滴らせながら、ゆっくりと間合いを詰める。ゆっくりと確実に――
が、セラは彼女に背を向ける。油断を誘っているのか、丸腰な上に敵に対して背を向ける。
彼女を挑発しているのか、背を向けたまま傷付き倒れている子度を抱き上げる。
恐怖で身を震わせながら、小さな声で泣いている。
冷静になりつつ、現状を再確認する。背中を見せた丸腰のセラは、両手が塞がっている。
この好機を逃す手は無い。そう判断した時には、地面を蹴っていた。
瞬時にセラへと肉薄し、手に持ったコンバットナイフで首を真横に切り付ける。
だが、セラの首に傷は無く。自分の手にあるナイフの刃先が根本から焼失していたのであった。
セラを囲む強力な熱によって、ナイフの刃が瞬時に溶かされた事で、その刃がセラに届く事はなかった。
その事から、彼女はセラの呼び起こした力の正体に気付く――
「――まさか、女ァッ!!」
セラに抱かれた子度の頭部の傷が炎に包まれ、何事もなかったかのように治療される。
セラを中心に半径数mの僅かな炎のサークルが、サークル内部の人物に自動で再生治療が施される。
崩れた列車の中から、生き還った母親が子供を抱き締める。
――セラは、完全に目覚めた。
ゆっくりと進む事で、サークルの効果を存分に発揮する。列車の瓦礫に埋もれていた人達を全員治療し終え、ナドレ、ロルト、黒の順番で治療する。
力の使い方を知っていなければ、行えない芸当も彼女は無意識下で行った。
そして、セラを殺害しようと声を上げて間合いを詰める彼女にセラの一撃が突き刺さる。
突き出した拳が空気を叩いて、生み出された衝撃波の凄まじい破裂音と共に魔力の稲妻と爆炎が、少し遅れて彼女を襲う。
稲妻が彼女の肉体を貫き、ダメージを与える。その上、彼女の魔力防御と障壁の2つの壁を難無く破壊する。
稲妻の後に続く放たれた爆炎が、彼女の肉体表面に稲妻以上のダメージを与える。
全身を焼かれ、転がりながら炎を消す。
無様に悲鳴を上げながら、地面に這いつくばって、命乞いをするかのように彼女は震えていた。
震えながらセラに、自分の命だけは助けて欲しいと何度も懇願する。
その姿が、今のセラには耐えれなかった。
――なぜ、人の命を弄んだ女が命を望む。
脳内で、確かな声が聞こえる。冷酷な男性の声音の中に、慈愛に満ちた女性の声音が複雑に混ざっている。
声の方向へ一歩踏み出せば、全身が軽くなる。思考もトロけて、体を声の主に委ねたくなる。
声のする方へと一歩踏み込むが、復活した黒にセラは止められる。
「……お前は、騎士じゃない。ましてや、兵士でもない。ただの正義感の強い人間だ。もう、止めろ」
「――え?」
黒が止めた。だから、戻れたのかもしれない。鮮明に戻り始めた意識が目にしたのは、全身を痛め付けられた人であった人物達――
微かに意識がある所を見るに、流石はイシュルワの騎士と言った所。
植木やホームの時刻表、壁やイスなどの建築物が軒並み燃えて溶けている。
凄まじい熱量だと、一目見て分かるほどである。現に、セラの手を止めた黒の手は高温に熱した鉄板に触れていると同じく。
掌の表面が焼け焦げ、焦げ臭さと共に肉が焼ける音が聞こえる。
「――私は、何を?」
「力に目覚めたみたいだな。――が、その力に精神が追い付いていない。追い付くよりも先に、力がセラを追い越した。……制御出来ない力に振り回されたって所だな」
周囲を高熱で熱していた熱気が徐々に消えていく。セラがその力を抑えた時には、セラの意識は深い水の底に沈む。
意識を失くしたセラを黒は抱き抱えて、ナドレとロルトの元へと向かう。全員、揃って傷は完治されている。
セラの覚醒と同時に、能力にも目覚めている。セラの能力によって、この場の全員が一命を取り留めた。
「橘さん。セラさんの力って――」
「十中八九……魔物だ。それも、ただの覚醒じゃない。覚醒のその先に到達している」
「……つまり、皇帝と同じ域に達しているって、事よね?」
ナドレの質問に、黒は静かに頷くだけであった。
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