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要塞都市国家 グランヴァーレ《Ⅱ》
しおりを挟むグランヴァーレは、中世のヨーロッパを思わせるレンガ造りの建物が並んでいる。
所々に露店が連なり、活気ある街並みの中を4人の皇帝クラスの騎士が進む。
黒の隣で、他愛無い話をして笑っているローグと黒。その後ろから、露店を軽く見ているトゥーリとガゼルの2人――
グランヴァーレの市民から、すれば観光客の類だと認識する。先程の侵略行為に関する警報もすぐに解除された。
警報解除後に、街は直ぐに日常を取り戻す。年に数回挑発感覚で嫌がらせ紛いな行為が度々起こる。
その事から、警報の度合いや放送の内容によっては直ぐに街は活気を取り戻す。
――だが、グランヴァーレの警備部隊からすれば、過去類を見ない緊急事態であった。
中立と言う立場上、危害を加えていない人物に対して警戒はすれど、拘束は出来ない。
否、皇帝を拘束する事は出来ない――
「……良かった。のですか?」
「彼らからは、敵意の色は見えません。単なる観光でしょう……」
「ですが、姫様。拘束は出来ませんが、要警戒対象として行動の制限を――」
金色の杖で床を鳴らす。目を細めた幼さが残る少女が、側近の男の心配事を軽くあしらう。
彼女は、知っている。あの場で要警戒対象として、行動を制限する事こそ――最悪の一手だと。
イシュルワと言う国出身だからと言って、全員が全員野蛮な思想を持った。異教徒と言う事は無い。
「このまま、ある程度の距離を保って監視をお願いします。何かあれば連絡を……少し、眠ります」
「わかりました。後は、この《ザメル》にお任せ下さい――」
主であるの後を見送ってから、グランヴァーレの地図を広げる。4人の目的をいち早く知る為に4人の行き先を予測する。
ザメル同様に他の衛兵や従者も揃って慌しく動く。これ以上、姫様の負担を増やさない為にも――
グランヴァーレ、王室の最奥に彼女の部屋がある。大きな扉を奥へ進む。
さらに堅牢な扉を開く。小さな子供では、開けるのに一苦労な扉に見える。
が、彼女が扉の前に立てばゆっくりと自動で扉が開いた。
「ありがとう」――と、誰も居ない場所へと彼女は、感謝の言葉を告げる。
そして、ピンク系で統一されたベッドにダイブして、綺麗に置かれたぬいぐるみを抱き締める。
そして――
「何で、あの人達来てるのぉ~。怖いぃよぉ~……ぐすっ……ありえない。絶っっっ対、観光じゃいよ。……ありえなさ過ぎるメンバーだってぇ…」
涙目になって、枕に頭を押し当ててぬいぐるみに囲まれながら布団の中で泣いてしまう。
外に声が聞こえないように、枕でしっかりと声をシャットアウトして泣いている。
彼女は、ここ《グランヴァーレ》の正当な王女である。故に、国のトップとしての表の顔と言う物がある。
例え国家の代名詞となった要塞に囲まれていても皇帝であればグランヴァーレの鋼鉄の要塞など紙切れ同然、突破する事など造作もない。
そして、彼女はまだ学生の立場である。国の公務もあれど、彼女は未だ学生――
学生でありながら、国のトップとして振る舞わなければならない。
「何で、すんっ……。グランヴァーレに、来てるのぉ~。怖いよぉ……」
『しっかりなさい。別に、皇帝の全員がイオの敵って訳じゃないのよ。ほら、もう泣くのは止めなさい。せっかくの髪が崩れちゃったわ』
「ぐすっ……ありがとう。《トットノーク》……私を支えてくれて」
『もう、今更何よ。貴女は、私の宿主なのよ? 支えるのは当然よ』
グランヴァーレの王女である《イオ・グランヴァーレ》の背後に、人型の魔物が顕現する。
魔力によって体を保っているその顕現体は淡い色をしている。体を構成する魔力の濃さによって、所々に本来の魔物の肉体が垣間見えもする。
燕尾服の服装に、道化のような仮面の顔から優しげな女性の声音が聞こえる。
そして、その鋭利な刃物の様な深紅の爪は、魔物としての強さを象徴している。
長いヒールと一体化した脚が床を蹴る度に、コッコッ――と、ヒールの音が部屋全体に響く。
ゆっくりと寄り添うように、ベッドの上で年相応に怖がるマスターの隣へ腰を下ろしたトットノーク――
その手でマスターを優しく抱き締める。魔力体であるから、宿主本人にだけは触れる事は出来ない。
「少しだけ、勇気でた……かも」
『そう、良かったわ。でも、無理はしないでね……マスターはグランヴァーレの王である前に――まだ、子供なんだから』
「ふふ、子供扱いしないで」
2人で笑みを浮かべる。亡き母親が愛用していた手鏡で前髪を整え、トットノークの手を借りてシワだらけの衣装を着替える。
心機一転、異例中の異例な国を守る為に――少女は扉を開く。
――やぁ、王女様。寝込んだのかと、心配しましたよ。
マスターであるイオの指示無しで、トットノークがその鋭利な爪を背後に立っていた男に向ける。
イオの頬から流れる汗が秒を重ねる事に増していく。涙が滲む。
口調は親しげなのに、背後から感じる魔力は鋭い刃物その物であった。
獲物を狙っている捕食者の威圧的な眼光、道化が扱う血に濡れたナイフ――
まだ、皇帝としても人としても未熟で幼いイオにとって、その者の存在は生まれて初めての――《恐怖》であった。
震えは止まらない。指先、足腰が震える。魔力、魔物、それらは皇帝クラスと呼べる。
しかし、未だ幼い彼女には圧倒的に足りない。経験も精神力も、何より自分と異なる《皇帝クラスの存在》と間近で対談する事事態が――
『マスター。落ち着いて、お願いだから……』
「――ハッ! ハッ……ハッ!」
「おや、過呼吸ですか? はぁ、これだから――子供は困る」
男が、フードを被る。
彼女に対してこれ以上の恐怖を与えない為の配慮なのか、単純に顔を見られない為なのかは分からない。
が、真っ黒なコートに身を包んだ上で、フードを深く被っただけでは隠しきれない。
――絶対強者の魔力がイオとトットノークには見えていた。
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