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崩壊するグランヴァーレ《Ⅰ》
しおりを挟む「この世界には、絶対的な強者が存在する。大陸の帝がそうである様に――」
イオの前で、男は高らかに笑った。目の前の絶対強者を前にして、身動き1つ取れないイオの前で男は語る。
――自分が絶対強者だと思った事はない。それは、本物に対して侮辱である。
イオを守る様に前へと出たトットノークに向けて、男は人差し指を向ける。
ただの指先であるのは間違いない。が、その男の指先から寒気すら覚える魔力が微かに感じられた。
「……あ、あなたの……目的は、何ですか」
「――目的?」
「私の命ですか? それとも、中立の立場が目障りなグランヴァーレですか!?」
『落ち着きなさい。イオ!!』
トットノークの忠告を無視して、イオは男へと食って掛かる。精一杯の勇気と痩せ我慢をして。
そんな彼女の姿に男は自然と笑みが溢れた。
力の有無などは関係なかった。ただ、大切なモノを守る為に少女は《恐怖》に立ち向かった。
誰かに強制された訳ではなく。彼女自身が望んで自分に立ち向かった。
勝てないと知りながら、経験や知識では勝てないと分かった上で――
「安心して欲しい。最初は、少しだけ脅したかもしれないが……別に取って食おうとは思っていない。ただ、これから起こる事に手を出さないで貰いたいだけだ」
「……こ、この、この国に仇なすのであれば……私は、あなたとこれから起こる事にも目を瞑る事はありません」
イオが震える唇で男と対峙する。が、気付けば自分の腰が抜けていた。
立つ事も出来ずに、指先を震わせる事しか出来ない。そんな彼女を見て、男は――微笑する。
目の前で立ち向かってきた子猫が縮こまった愛らしい姿を横目に、懐から高価な造りをしたククリナイフを取り出す。
指先でくるりと回したナイフで、壁を切り付ける。
相当な切れ味なのか分厚い壁ですら豆腐のように、スッ――と切れてしまった。
壁を切り裂いて、手に乗るサイズにカットした四角いブロックに魔力を注ぐ。
ブロックが真っ黒に変色し、腐食したかのように形を崩してしまう。
床に落ちた破片が徐々に魔力の続く限り、侵食を繰り返す。男の足元の僅かな円形の範囲のみ黒色に変色する。
そのすぐ後に、イオの全身にトットノークが魔力障壁を纏わせる。
一瞬の判断。宿主を守ろうとするトットノークの意思に、男は嗤う。
「では、始めようか――約束の時だ。黒竜帝」
指を鳴らす。男が撒いた円形の侵食箇所に魔力が流れる。窓ガラスから外を見るイオの前に広がるは、グランヴァーレ全体へと流れる男の魔力――
そして、グランヴァーレを守る魔力結界が破壊される。それと同時に空を覆い隠す。
――機械兵器の大軍。
誰が見ても理解できる。今まさに、長い年月を守ってきた鉄壁のグランヴァーレが崩壊しようとしていた。
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