上 下
58 / 196

崩壊するグランヴァーレ《Ⅰ》

しおりを挟む

 「この世界には、絶対的な強者が存在する。大陸のがそうである様に――」

 イオの前で、男は高らかに笑った。目の前の絶対強者を前にして、身動き1つ取れないイオの前で男は語る。
 ――自分が絶対強者だと思った事はない。それは、本物に対して侮辱である。
 イオを守る様に前へと出たトットノークに向けて、男は人差し指を向ける。
 ただの指先であるのは間違いない。が、その男の指先から寒気すら覚える魔力が微かに感じられた。

 「……あ、あなたの……目的は、何ですか」
 「――目的?」
 「私の命ですか? それとも、中立の立場が目障りなグランヴァーレですか!?」
 『落ち着きなさい。イオ!!』

 トットノークの忠告を無視して、イオは男へと食って掛かる。精一杯の勇気と痩せ我慢をして。
 そんな彼女の姿に男は自然と笑みが溢れた。
 力の有無などは関係なかった。ただ、大切なモノを守る為に少女は《恐怖》に立ち向かった。
 誰かに強制された訳ではなく。彼女自身が望んで自分に立ち向かった。
 勝てないと知りながら、経験や知識では勝てないと分かった上で――

 「安心して欲しい。最初は、少しだけ脅したかもしれないが……別に取って食おうとは思っていない。ただ、これから起こる事に手を出さないで貰いたいだけだ」
 「……こ、この、この国に仇なすのであれば……私は、あなたとこれから起こる事にも目を瞑る事はありません」

 イオが震える唇で男と対峙する。が、気付けば自分の腰が抜けていた。
 立つ事も出来ずに、指先を震わせる事しか出来ない。そんな彼女を見て、男は――微笑する。
 目の前で立ち向かってきた子猫が縮こまった愛らしい姿を横目に、懐から高価な造りをしたククリナイフを取り出す。
 指先でくるりと回したナイフで、壁を切り付ける。
 相当な切れ味なのか分厚い壁ですら豆腐のように、スッ――と切れてしまった。
 壁を切り裂いて、手に乗るサイズにカットした四角いブロックに魔力を注ぐ。
 ブロックが真っ黒に変色し、腐食したかのように形を崩してしまう。
 床に落ちた破片が徐々に魔力の続く限り、侵食を繰り返す。男の足元の僅かな円形の範囲のみ黒色に変色する。
 そのすぐ後に、イオの全身にトットノークが魔力障壁を纏わせる。
 一瞬の判断。宿主マスターを守ろうとするトットノークの意思に、男は嗤う。

 「では、始めようか――約束の時だ。黒竜帝バハムート

 指を鳴らす。男が撒いた円形の侵食箇所に魔力が流れる。窓ガラスから外を見るイオの前に広がるは、グランヴァーレ全体へと流れる男の魔力――
 そして、グランヴァーレを守る魔力結界が破壊される。それと同時に空を覆い隠す。

 ――機械兵器の大軍。

 誰が見ても理解できる。今まさに、長い年月を守ってきた鉄壁のグランヴァーレが崩壊しようとしていた。
 
 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺の初恋幼馴染は、漢前な公爵令嬢

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,042pt お気に入り:267

【R18】傲慢な王子

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:584pt お気に入り:57

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:29,132pt お気に入り:1,020

国王親子に迫られているんだが

BL / 連載中 24h.ポイント:269pt お気に入り:509

誰もシナリオ通りに動いてくれないんですけど!

BL / 連載中 24h.ポイント:29,155pt お気に入り:1,924

処理中です...