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崩壊するグランヴァーレ《Ⅱ》
しおりを挟む久しぶりの休日と言える。かつて無い程の危機を乗り越えて、ようやく辿り着いたグランヴァーレ――
静かなカフェテラスで、空を眺めながら休憩をしようとした矢先に――この騒ぎだ。
「結界が消えた……か」
「イヤな予感しかしねーな」
「はぁ、せっかくのケーキが台無し……ホント、最悪」
「トゥーリちゃん。食べないなら、そのケーキ貰って良い?」
トゥーリのケーキを奪おうとしたガゼルの前で、トゥーリが一口で頬張る。自分のそんな行儀の悪さに顔を赤く染める。
ガゼルがケーキを食べ損ねた事に項垂れるのを横目に、コーヒーを一口で飲み干したローグが空を睨む。
正確には、グランヴァーレへと向かってきている軍勢に――
「橘……どう見る」
「それを俺に聞くな。お前らの問題だろ?」
「だからだ。どっちが狙いだと思う? 橘――」
「まぁ、俺は両方だと思うな。が、この場のメンツを知っててなら……他に目的があるよな。無謀が過ぎる」
カフェのメニュー表を見ながら、黒がローグの質問に答える。
黒の頭の中では、この3人の出方でこの戦いが大きく変わる。無論、自分の動き1つでもそうなる。
現状、最も避けるべきはこの国で戦う事にある。黒、ローグ達が戦う事はそれほどの問題ではない。
場所と周囲の目が問題になってくる。
このグランヴァーレを戦場に変える事は、避けるべき事態の1つである。
この国の中立という立場を揺るがせるのは避けなければならない。
「目的は、中立の崩壊でしょうか?」
「……根拠は?」
トゥーリの発言に黒だけが反応する。が、黒も薄々気付いていた。
ここに攻めに来た軍勢の正体を見て――
「ウチの国だな。また、あのじいさんがバカやってんな」
「まぁ、今回は相当マズいよね。オリンポス、エースダルと水面下で大人しくしていた国は、グランヴァーレって言う国が『中立』だったから戦争をしなかった。ここで、崩壊したら――4国家での大戦争に発展するよ」
4人の中で、トゥーリが誰よりも速く駆け出した。それは、四大陸の平和を夢見た一人であったからだ。
巨大な力を持った国家同士での戦いなど、皇帝達のお遊びとは規模もレベルも違う。
皇帝ならば、周囲に被害の出る前に笑って止める。だが、国単位では違う。
笑って止めても、次の日には他国家を裏切っての暗躍や騙し討ちに走る。――特に、イシュルワなど裏切りを得意とする国だ。
そんな事は、許されない。国など、関係はない。国境など、関係はない。
ただ、罪無き弱き者達を守る。戦火で、住む場所を失わせない。
一人でも多くの一般市民を守る為に、トゥーリが声を挙げる。
――だが、それよりも速くに動く人影があった。
トゥーリと並走などしてはいない。
トゥーリの後方から凄まじい速さで追い抜くその黒色の影は、一直線にグランヴァーレの鉄壁の壁を飛び越える。
透かさず前借りで手に入れたアンプルを2本補給する。
「ローグ……貸し作れてよかったね」
「まぁ、この程度の貸しじゃ……予約の順番は選べないがな」
そう言って、薬師の店員に懐から札束を手渡す。戸棚にあった筈の薬品ケースが一部だけ丸々くり抜かれている。
一目見て、そこにあった筈の薬が消えていると理解できる。
その薬屋の中から、魔力回復用のアンプルが消える。
ローグのポケットマネーで買い占めたアンプルを次々と補給する黒を横目に、トゥーリはその男の異常さに寒気を覚えた。
(嘘でしょ!? 普通なら、急激な魔力の増減で肉体が崩れる筈なのに、彼は平気な顔して生きている!? あり得ない……あの、アンプルの補給量を見るに。一般人なら、精神崩壊を起こすレベルの摂取量――)
魔力回復用のアイテム《アンプル》は、1本で凡そ成人男性一人分の魔力を回復させる力がある。
そして、2本以降は現在の黒のように肉体の許容量を越えての回復が可能。
否、黒の場合は回復ではない。魔物が消えた黒の魔力許容量は格段に減っている。
だが、肉体が許容量から溢れた魔力を失わないようにと、許容量を少しずつ増やしていた。
どれほどの精神力があれば可能な芸当なのだろう。アンプルの副作用で精神崩壊しない様に魔力の補給を続ける。
そして、補給が続く肉体に限界以上の魔力許容量を強いる。スパルタなど等に超えた異常者にだけ行える狂気染みた肉体改造――
「アレが、倭の皇帝――」
グランヴァーレの壁を飛び越えて、グランヴァーレに迫る大軍勢から背を向ける。
グランヴァーレが狙いでないなら、確実に黒へと進路を切り替える。
そう思っていた。だが、イシュルワの軍勢は進路を変える事は無かった。
それは、黒に「狙いは、グランヴァーレかよ」と思い知らせるには、十分であった。
再び、グランヴァーレへと向かって走る。が、目的の妨害となり得る黒の行く手を阻む大型の機械兵器を前に黒は舌打ちする。
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