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心の強さ《Ⅱ》

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 クラトは、自身の受けた傷を確認する。右腕深くに刻まれた鋭利な爪による斬撃。
 肉は容易く切り裂かれ、裂かれた肉の隙間からは骨の一部が見える。
 傷口から大量の血を流しながらも、平然と腕の傷を舐める。
 傷に唾液が染みる。が、直ぐに傷口から蒸気が立ち昇る。傷が治癒され始め、大量の魔力を消費される。
 どれ程の力を持っていても、その力を扱う為だけのエネルギーが無ければ意味がない。
 それをクラトは知っている。そして、現在もその姿を世界に知らしめている存在が遠目から確認できる。
 無限とも呼べる量の機械兵器を相手に、一歩も引かずの大立ち回り。並の騎士では、あの動きは出来ない。

 いや、皇帝でも出来る者は少ない。だからこそ――

 「見誤っていた……彼女の力を……」

 クラトがククリナイフを逆手に持ち替え、完治した腕を振る。
 その一瞬、ローグがイオとクラトの間に割って入る。驚くイオだが、クラトは直感で分かっていた。

 「ローグくん、君が彼女イオの為に前に出るのは分かっていたよ。彼女には、私の攻撃は避け切れないからなッ!!」
 「だろうな。たく、大の大人が……ガキに全力とか恥ずかしくねーのかよッ!!」

 クラトとローグの鍔迫り合いの末に、ローグの肩を蹴って飛び上がったクラトの口から炎が吹き出す。
 漫画やアニメに出るドラゴンの炎のように、その火力は文字通り凄まじい。
 だが、ローグの前では炎は効かない。正確には、物理的な攻撃が効いて無かった。

 「おやおや、厄介な能力・・だ」
 「お前もな――」

 地面に着地し、僅かに動きが止まったクラトをローグが蹴り飛ばす。
 透かさず、イオを肩に抱き抱えて戦いが始まる前に、トットノークの指示でグランヴァーレから離れた位置に身を潜めていた難民の元へと2人は向かう。
    顔を会わせたグランヴァーレの人を人達前に、イオは怒りを抑え切れず一人でも戦おうとする。だが、それはローグが許さない。
 憤りを露にする彼女の頬を指でつねる。

 「感情的になるな。回りを見ろ、今のお前は――王だ。なら、仇討ちよりも後ろの奴らを守るのが役目な筈だ。自分の役目を見失うな……。国を再建できるのは、誰でもないお前だ。なら、国の為にその国に住む人達を守れ」
 「でも、私は――」

 ――王は、責任のある立場だ。

 ローグがイオへとそう告げる。だが、この場の王と言うのは、騎士の頂点皇帝ではない。
 人々に寄り添い。自国を守るために、その身を削る力の無い者達の心の支え――

 「――皇帝は、人を守れる。だが、国は建て直せない。王は、人を守れる。そして、国を守る為に戦う。俺にも……戦わせてくれ」

 ローグの目付きが変わる。空気中の微小な魔力がローグの内から漏れる魔力に反応して、赤色の稲妻が生まれる。
 イオが避難民を連れて、ローグに指示された方角へと下る。草原を抜けた先に鬱蒼とした山道へと向かって行く。

 「悔しいな……俺も、彼女の年齢に戻りたいよ。あの頃に――」

 ローグが魔力を研ぎ澄まし、淡い色の魔力を両腕に巡らせ、纏わせる。
 草原の彼方からこちらへと迫る人影に向かって、1歩を踏み込む。
 互いに全力の魔力で応戦する。大気中に走る魔力の稲妻が、周囲一帯に雷鳴が轟く。
 青色の稲妻が2人の一撃によって生まれ、大気中の魔力に反応する事でさらにその規模を広げる。

 「おや、やっと本気ですか? 私もローグくんと手合わせできて、嬉しいですよ」
 「いつまで、その余裕が続くのか……見物だな」

 ローグの蹴りがクラトの頬を掠る。
 体を反転させ、透かさず2度、3度と攻撃の手を速める。しかし、クラトのククリナイフに先程よりも《濃度》の濃い魔力が巡る。
 目線の先で、クラトが手首を僅かに振る。
 そのすぐ後に、大気を切り裂く極大の斬撃がローグの足下を切り裂く。
 直感で危機を感じ取り、地面を蹴ったローグの動きを先読みしたクラトが再びナイフを振るう。
 全力の魔力防壁で物理ダメージをカットし、同じく全力の魔力障壁で魔力ダメージをカットする。

 ――が、ローグの展開した《防壁》《障壁》の防御力を上回る攻撃力が身体の内側へと深いダメージを与える。


 (くそッ!? 内臓にッ……肉と骨を貫いて、芯に攻撃を通しやがった……ッ!!)

 地面を転がって、直ぐに立ち上がろうとするローグにクラトの前蹴りが直撃する。
 先程の青色の稲妻よりもさらに高濃度な《紫色の稲妻》を纏った蹴りによって、無防備なローグの顔を紫色の魔力攻撃が貫く。


 ―――ズガッンッッッ―――!!!!


 避ける事も防ぐ事も出来ずに、クラトの攻撃でローグの意識が揺らぐ。
 凄まじく重い一撃――。車に正面から衝突したかのような衝撃が、ローグを襲う。
 このまま、意識を手放せば――ローグの敗北。それで、終わる筈であった。
 だが、ローグは諦めない。彼女の姿を目にしたからだ。
 この場で誰よりも弱い筈の彼女が、強敵であるクラトへと噛み付いた。
 その姿が、昔の自分が忘れてしまった。バカな考え――

 「……足りねーな。まだ、足りねーよ」
 「――ん?」

 ローグを見下ろしていたクラトの顎下から、アッパーが炸裂する。
 その際に生じた魔力の反応は、青色ではない。――紫色であった。

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