難攻不落の黒竜帝 ――Reload――

遊木晶

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蒸気の帝《Ⅰ》

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 息を途切れさせながら、イオは走る。グランヴァーレの人々を率いて、森の中を走る。
 だが、薄々勘付きつつあった。このままでは追い付かれる――と、背後から感じる不気味な魔力。

 「トットノーク……お願い。皆を――」

 宿主であるイオの言葉に、躊躇いながらもトットノークが応える。
 イオをその場に残して、その他大勢の人を魔力で持ち上げて森の中を一気に駆け抜ける。
 単身残ったイオが迫るウォーロックの前に立つ。
 木々を薙ぎ倒し、巨大な鯨の機械兵器の背中に乗りながら意気揚々とその姿を表す。

 「おや、もう逃げないのか? まぁ、その方が私としても――仕事が直ぐに済む」
 「えぇ、私は逃げません。もう、アナタから――」

 イオが堂々と胸を張る。小さな体で、大きな機械兵器の前に立ちはだかる。
 死ぬ事は、確かに恐ろしい。だが、王として――グランヴァーレの誇りを失う事こそ、イオは何より恐ろしいと感じていた。
 たった1つの家族を繋ぐ想い。グランヴァーレという国が、今のイオに勇気を与える。
    10分なら充分――。1分でも1秒でも長くこの場に、この男を留める。
    そうすれば、今も逃げているグランヴァーレの人々は少なからず助かる確率が上がる。
 既に、イオの中に、自分が助かる事など考えていない。
    若くして死ぬかも知れない。だが、何より《イオ・グランヴァーレ》として、両親や先々代の王達に誇れる死に様でありたかった。

 「――私は、グランヴァーレの王です。民を見捨てるくらいなら、この場で首を切る! さぁ、殺しなさい。私を……グランヴァーレを!!」

 イオの言葉通りに、ウォーロックの指示で機械兵器が動く。巨大な口を開いて、魔力が開口部の一点へと集中する。
 眩い光で、思わず目を瞑る。気付けば、1筋の涙が溢れる。やはり、死ぬのは――怖かった。

 だが、鯨からの魔力砲がイオに届く事はなかった。
 その最たる原因として、イオの遥か後方から凄まじい魔力の反応が、イオとウォーロックの感知を刺激した。
 まるで、皇帝・・クラスと見間違うほどの魔力に、ウォーロックが思わず身構える。 
 木々が生い茂る森の中でも、その姿は確認できた。
 激突するクラトとローグの2人も、手を止め同じ方向へと振り向く。
 セラ、ロルト、ナドレ達もその空へと登る1つの白い雲に、目を奪われる。
 機械兵器の残骸を踏み付け、空を見上げるトゥーリとガゼルの2人。思わず……嘘でしょ――と、言葉を溢す。
 その雲は、高度を更に高めて行く。白い雲のように可視化した魔力が空へと登り続ける。
 

 森の中を走る黒が、その力に気付いて木の上に飛び乗ってその光景を眺める。
 どんなに遠い場所からでも良く分かる。それは、雲のような魔力で、実際は雲ではない。
 雲のように折り重なった様にも見えるのは、その者の凄まじい魔力の濃度がそれを実現させているだけの事。
 高い魔力量なのは、その光景を見れば誰でも分かる。ただ、1人除いて――
    その者の本当の実力を深く理解している――橘黒バハムートだけが、笑みを浮かべる。

 「……たく、飯でも食べてたのか?」

 空を覆い隠さんとする程の蒸気となって、高濃度な魔力がさらに可視化される範囲を広げる。
 通常、魔力が可視化される程の濃度であれば《炎》や《雷》と言った魔物の顕現や魔法の発動などが挙げられる。
 しかし、皇帝クラスの者達から見ればその魔力の可視化という行為は一種の威嚇行為と判断できた。

 ――無論、する意味はない。

    何故ならば、ただ高濃度な魔力を見せびらかすだけの無駄な行為。
 魔力を大量に消費するだけの行為である。

 ただ、皇帝がやれば、《無意味》な行いにも《大きな意味》を与える。
 それが、この蒸気となった高濃度な魔力である。
 蒸気が次第に形を持ち始め、グランヴァーレの方向へと向かう。
 海面が魔力の影響で、凄まじい水蒸気を発生させ次第に天候に変化を与える。
 時間と共に蒸気が巨人へと形を変化させ、高濃度な魔力が台風を呼び起こす。
 強まる風の中で、蒸気の巨人が――ウォーロックを見付ける。

 正確には、ウォーロックへと立ち向かう。イオ・グランヴァーレを――
 そして、蒸気の中で声が聞こえる。


 『天地、まどえ。――《アルバンカイウス   》』


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