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海を渡る
しおりを挟む蒸気都市《ビフトロ》そこは、蒸気機関の発展した都市で、海上の貿易港だもあった。
昨晩の話通り、各地からこのビフトロへと人が集う。不安そうな顔をした人を前に、イオのスピーチは彼らの不安を和らげるのに最適であった。
「思ってたよりも、ちゃんとしてるな。あの子」
「そりゃ、俺らと同じ王だぞ? それに、一国を束ねる側の人間だ」
数々の苦しみを乗り越えた彼女にとって、ここが自分のやるべき事だと認識している。
戦う事の出来ない彼女が、誰かを守るために戦える場所――
「でも、少し心配だな。イシュルワの動きが……」
「ローグ、彼女とここは大丈夫だ。何せ、アイツが居る」
「ずいぶんと信頼してんだな。強いのは分かるが、大丈夫なのか?」
「強いのは、当たり前だ。んでもって、条件付きだが俺よりも強い」
「それは、安心だな。倭に行って帰ってきたら……国が無くなってるのは辛いからな」
ローグがビール缶の中身を飲み干して、ゴミ箱へと投げ入れる。
セラ、トゥーリの2人が倭へと向かう船へと荷物を詰め込む作業をしている。
その傍らで、ガゼルが艦長と航路の最終確認をしてくれてもいる。
もうすぐ夜が明ける。そうなれば、このビストロを出発して倭へと一直線の船旅となる。
本来の旅路とは大幅に変更されたが、それでも倭へと向かう一直線の道であれば問題はない。
「ここを発てば、逃げ場のない海路だ。どうなっても責任は持てんぞ?」
「えぇ、私もローグと同じ船に乗ります」
「僕は、橘くんと戦いたいから……力が戻らないと困る」
「コイツもお前の旅に付いて行く。少しでも、旅を快適にするには戦力が多いに越した事はねーだろ?」
3人とも迷う事無く船へと乗船する。その中で、黒はセラを乗船させるの最後まで拒んだ。
その理由は単純明快――彼女の実力不足である。
「ここから先は、個人個人の戦闘力が重要になる。確かに、セラの潜在能力は凄い。が、それを養うほど……俺に余裕はない」
「……分かってる。でも、私は黒の力になりたい」
セラの真剣な眼差しに、トゥーリやガゼル達が賛成な声を挙げる。
だが、ローグと黒の2人だけが反対の声を挙げる。黒は別として、この場でローグまで声を挙げた事にはトゥーリ達も驚いた。
「こっから、倭まではほぼ一直線だ。当然、イシュルワだけじゃない。俺に恨みのある闇組織や騎士が、本気で狙ってくる。地上に比べ、こっちは船の上だ。――分かるよな?」
「橘、ちゃんと言ってやれよ。セラはお荷物何だよ」
「ちょっとッ、ローグ!! 言い方ってのが――」
「――トゥーリは、黙ってろ」
トゥーリが一歩前に出て、ローグの言い方の悪さを指摘する。が、今まで見た事もないローグの表情にトゥーリが畏縮する。
「これまでの道のりとは、訳が違う。確かに、セラの力は強大だ。が、俺の旅に命を賭ける必要はない。そもそも、見返りはゼロだぞ?」
「それでも……私は………」
セラは黒に付いていこうとする。が、黒の言葉を聞いた上では、その一歩が踏み出さない。
黒の言う通り、この先はさらに危険かもしれない。逃げ場の無い海の上では、魔力の存在が命綱と言っても過言はない。
魔力の無い黒からすれば、自分の身を守れない人間の存在は黒の負担に直結する可能性が非常に高い。
ナドレ、ロルトがセラのフォローに加わっても状況は苦しくなるのは変わらない。
力の浪費は、最も避けるべき問題である。そうなれば、問題の要因を排除するのが懸命。
「……セラ、お前はこの場に残れ。残って、イオ達の役に立て――」
「……」
「今まで、ありがとうな。必死に付いてきてくれて」
黒がカバンを肩に担いで、船へと乗り込む。悔しさで震えるセラを置いて――船はビフトロを出港した。
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